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※ソフィアちゃんの思い

「――っ!? 誰!?」


 後ろを振り向いた私は、条件反射で魔法を撃つ準備を始める。

 けど、それは判断を先走った私の誤りだった。私を叩いたのは紛れもないマーティス先生だったからだ。


「こら。そこで何をしているんですか?」


「せ、先生だったんですか」


 どうして先生がここに……ってのもおかしな話じゃないか。

 何かあった時の保険。そのためにマーティス先生たちがいるんだもんね。


「えーっと……君はアリーちゃんだったっけ? ソフィアちゃんと離れ離れになってしまいますよ?」


「ごめんなさい。ちょっと鉱石に興味がありまして……」


「鉱石? ああ。確かに、ここは以前採掘場所だったようですからね」


「ねえ先生。どうしてここは使われなくなったんですか?」


「すいません。僕もそこまでは……。ですが、勝手な行動で相方に迷惑はかけないで下さいね」


「はい……。肝に銘じます」


 マーティス先生はあくまで冷静に私へ言葉を重ねていく。

 ただ怒られるだけでなく、真剣に諭されているようで、私は反省するしかない。

 普段の先生よりも、怒られている感覚が強いよ……。怒りは普段の先生の方が感じられるのに。

 マーティス先生は怒り上手だったりするかもしれない。


 私の冒険はここで終わってしまい、ソフィアちゃんの元へと戻ることにした。

 ソフィアちゃんは気疲れしていたのか、切り株に座り込みながら目を閉じていた。


「ソフィアちゃん……」


 普段からキツい表情を見ているからか、彼女の緩んだ表情を見るのは新鮮だった。

 小さく口を開けて頭をゆらゆらと揺らしている彼女の姿。

 小動物のような可愛さを醸し出す彼女の、普段とのギャップに思わず顔がニヤついてしまう。

 ちょうど良く向かい側に切り株があったため、私はそこに腰掛けて彼女の表情をジッと見ることにした。


 眠りが深くなっていくと、体が自動的に横になろうとするのだろうか。

 彼女の頭は次第に右に傾き始め、倒れそうになっていく。助けてもいいんだけど、この辺りは地面も乾いているし、ちょっと汚れるだけだからもうちょっと見ておこう。


「……ぅ」


「あ、倒れる」


 とうとう、ソフィアちゃんの頭が完全に睡魔に負けて地面に向かって倒れそうになる。

 しかし、その急な落下に驚いたのだろう。ソフィアちゃんは目を覚ましてなんとか切り株から落ちずに済んだのだった。


「おはよう、ソフィアちゃん」


「……何を見ていますの?」


「可愛いなって思って。ダメだったかな?」


「ひ、人の寝顔を勝手に見ないで下さいます!? は、恥ずかしいじゃありませんの!」


「えー、こんなところで勝手に寝る方が悪いんだよー?」


「……くっ!」


 ソフィアちゃんは切り株から立ち上がって私から背を向ける。


「私の寝顔を見られるなんて……! よりによって彼女にぃ……!!」


「ソフィアちゃん……」


「何ですの!?」


「……ねえ、どうして私をそんなに嫌っているの?」


「…………」


 正直、もう待てないよ。私を嫌っている理由。ソフィアちゃんの口から聞きたいと思う。

 それで何か解決するなら、私も努力しようと思う。仲が少しずつ進展していると思っている私にとって、聞くのは今しかないと思った。

 ソフィアちゃんは少しの間、沈黙しつつ、自分の言葉を確認するかのようにゆっくりと話を始めてくれた。


「……あなた、あの護衛隊のメンバーが親なんですってね」


「親って、けーくんのことかな。うん。それならそうだよ?」


「だから、コネでこの学園に入ったのですわね」


「……違う、と言えば嘘になるかな。確かに、けーくんのおかげでこの学園に入れたのは事実だよ」


「やはり……そうでしたのね」


「でも、ここで学んだことはソフィアちゃんと同じだよ。私は自分で努力して魔法を使えるようになったんだ」


「……どうして、あなただけ」


「え?」


「あなただけ、モンスターとの実戦経験がありますの?」


「それは……」


「私がお答えいたします。親が護衛隊にいるからですわ。そのコネで他の学生よりアドバンテージを取ろうと……」


「……そんなことを考えていたんだ」


「私だって、早くこの国のお役に立ちたい。でも、ここの学園はいつまでたっても魔法の練習だけで、モンスターとの実践なんてありもしない。こんな山登りだって、国の中の安全地帯。こんなのでどうやって強くなればいいんですの?」


 ソフィアちゃんはこちらを向いて私の目をジッと見つめる。

 その目には涙も少し溜まっていた。


「あなたはそれをコネの力で回避した。しかも、護衛隊の戦いを身近で見ることで戦いのコツも覚えていく。私はこの檻の中でもがき苦しむことしかできない」


「ソフィアちゃん……」


「この国でいい暮らしをしている私じゃなく、どうしてあなただけ恵まれた環境を手に入れることが出来るのです!? 私だって……私だって強くなりたい……! この国を救うために戦いたいんですの!」


 他のみんなからそう見られているのだろうか。

 私は、それほどこの現実を幸運に感じていなかった。けーくんに助けてもらったり、学園に入学できたのは確かに幸運だったけど、それ以外は普通の出来事として捉えていた。

 でも……強さを求めている人にとっては、私の環境は恵まれすぎているのだろう。

 モンスターと戦うこともでき、経験を積むことができる。そして、事実がどうだとしても、護衛隊のけーくんから魔法や戦い方を教わっていると思われても仕方ない。

 でも、私は……。


「確かに、ソフィアちゃんの言う通り、私は恵まれているのかもしれない」


「ほ……ほら。私の言ったとおりですわ――」


「でも、私だって最初は恵まれた環境じゃなかった」


「どういう意味ですの……?」


「護衛隊のけーくんと出会う前は……私は盗賊の奴隷だった」


「……え? あ、あなたほどの人物が奴隷に……?」


「うん。自分自身の不幸を語るつもりはないけど、一言で言えば地獄だった。愛玩動物として買われ、ストレスのはけ口にされていた日々。私から見れば、ソフィアちゃんが不幸だと嘆いている意味が分からなかったよ」


「それは……」


「それにさ、モンスターとの戦いはいつも一度きりのチャンスなんだよ。死んだらそこで終わり。簡単に言える問題じゃないんだよ」


「でも、あなたはモンスターと戦って経験を――」


「私一人で勝ったことなんて、まだ一度もないよ。私のお姉ちゃんに協力してもらって……勝ってるに過ぎないの。一人じゃ、殺されちゃうよ」


「そ、それならスキルは……」


「スキルだって、覚醒すらしてないよ。私には……あるのかな」


「そんな……」


「ねっ? 私だってソフィアちゃんとあんまり変わらないんだよ。不幸も幸運も、きっと同じくらいにね」


「同じ……私とあなたが?」


「うん」


 思いの丈を打ち明けた私はソフィアちゃんに歩み寄る。

 そして、彼女の手を取り、笑顔で言葉を伝えた。


「ねえ、ソフィアちゃん。私のこと……名前で呼んでよ」


「……それは」


「実力は変わらない。嫉妬も自分の心が生んだ幻だった。ならさ、私たちは仲良くなれると思うんだ」


「仲良く……なれるわけありませんわ」


 目をそらして、私と目を合わせようとしない彼女。

 今まで辛く当たってきたことで、負い目を感じているのだろうか。ソフィアちゃんはどことなくバツの悪そうな表情を浮かべていた。


「なれるよ。だって、ソフィアちゃんは私を無意識に気遣ってくれてたじゃない」


「……少し、考えさせてもらえませんか?」


「うん。でも私、待ってるからね」


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