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※山登り!

 かけっこの勝敗は、私たちには分からない。

 ほぼ同着で、森の中に入ることができたのだ。


「ハァ……やりますわね。あなた」


「ソフィアちゃんだって……まさか私についてくるなんて思わなかったよ……」


 息も切れ切れで、二人は同じ大木に寄りかかって座っていた。

 肩を並べて、全力疾走した後の余韻に浸っている。この分だと数十分は動けないだろう。

 ソフィアちゃんの体格や育ちからして、私に追いつけるとは思いもしなかった。ギリギリのところで私が勝つと思ってたのは、どうやら私の誤算だった。


 ソフィアちゃんは全身で空気を吸い込みながらも、どこかドヤ顔をしている。

 その表情には私への対抗心からの満足感のようなものを感じられる。


「……私の意地ですわ。あなたなんかには……負けたくありませんもの」


「ソフィアちゃん……」


「さ、早く息を整えて本格的に山に入りますわよ」


「うん。分かったよ」


 前もそうだけど、どうしてソフィアちゃんは私に対抗心を燃やしているのだろう。

 私なんて、学園に入ってしまえばどこにでもいる平凡な学生だというのに。

 ……今なら聞けるかもしれない。でも、まだちょっと早いかな。

 今は息を整えることを優先させて、私は黙って呼吸を繰り返すことにした。


 調子が戻った私とソフィアちゃんは、山の中に入ることにした。

 やっぱりソフィアちゃんが先導して、山を登っていく。でも、ソフィアちゃんってあんまり山に登ったこと無いんじゃないかな?

 私の勝手なイメージだけど、ソフィアちゃんはその風貌からしてお屋敷で優雅に暮らしているような雰囲気しかない。

 山の中に入ってサバイバルする人じゃないと思うんだよね。


「ふふっ……ちゃんと付いてきていますの?」


「私は大丈夫だけど……ソフィアちゃんこそ、ちゃんと歩けてる?」


「は、はぁ!? 私を馬鹿にしていますの?」


「違うよ。山には山の歩き方があるんだから。山をなめちゃダメだよー」


「そ、そんなの分からなくても大丈夫ですわ。私が先頭にいるんですもの。何の問題もありませんわ!」


「本当にそうかなー?」


 まあ、ここはソフィアちゃんに任しておこうかな。もし何かあっても、私の方でリカバリーしよう。

 ソフィアちゃんは、前かがみになって大きな歩幅で距離を稼いでいる。

 一方私の方は、姿勢を崩さずに小さい歩幅でなるべく疲れないように歩いている。


 ほ、本当に大丈夫かな。ちょっと心配になってきた。

 あっ……あそこは。


「ソフィアちゃん」


「ハァ……ハァ……何ですの!」


「そこ、危ないよ?」


「危なくないですわ! だって、私なんですもの! 失敗すると思いまして!?」


 そう言って、ソフィアちゃんは私が危惧した地面へと左足を重ね合わせていく。

 そこはぬかるみが出来上がっており、いつ滑って転んでもおかしくない。

 ソフィアちゃんはそれに付随してつま先で登っているから、滑る確率はとても高くなってしまう。

 案の定、ソフィアちゃんの体勢は崩れて前のめりに地面へ倒れていってしまった。


「キャ――」


「危ない!」


 倒れるソフィアちゃんを、私が掴む。

 普通、前のめりに倒れたら両手を先に地面につけるだろう。でも、ソフィアちゃんは疲れからか両腕を後ろに伸ばしてしまっていた。

 逆に、それが功を奏した。私はその腕を掴み、ギュッと私の方に引っ張った。

 そのおかげで、ソフィアちゃんは泥を顔に塗らずに済んだ。


「あっ――」


 私の引っ張りが強すぎたのかもしれない。

 今度はソフィアちゃん。このまま後ろに倒れていった。それは私にぶつかるということ。

 私とソフィアちゃんの体がくっつく。何とか転ばすに済んだけど、ソフィアちゃんの体を一身に受け止める形になってしまった。


 ソフィアちゃんのブロンドからしてくる、フローラルな香り。高級な香水とか使ってるのかな。

 女の子の私でもいい匂いだと思ってしまう。

 彼女の体つきも、同時に感覚として伝わってくる。彼女の華奢な体は、私よりも頼りなさそうに思える。そして……体は私よりも柔らかいと思う。


「……あ」


「ご、ごめんソフィアちゃん。助けようと思ったんだけど……」


「ちょ、ちょっと離れてもよろしいかしら?」


「う、うん。どうぞ」


「……礼は言っておきますわ。ありがとう」


「どういたしまして。ほら、先を急ご?」


「……少し、教わってもいいかしら」


「え? 何を?」


「……山の歩き方、というものを」


 私は二つ返事で彼女に歩き方を教える。

 不慣れながらも、少しずつモノにしていくソフィアちゃん。正直、凄いと思う。少し教わっただけでちゃんと自分の力にできているんだもの。

 私なんかより、ずっと凄いと思うのに……。どうして彼女は私を敵視しているのだろう。


 山を登るだけで、時間が進んでいく。個人的にはこの辺の鉱石でも調べたいところなんだけど。

 一人でこんな場所には来れないし、何より緊急事態の時は先生に助けてもらえばいい。

 こんな好条件の山登りはめったにない。ちょっとソフィアちゃんに相談してみようかな。


「ねえソフィアちゃん」


「何ですの? 先頭は譲りませんわ」


「せっかくだし、この辺りの鉱石とか調べてみない?」


「え? 鉱石……ですか?」


「うん。ステル国にはどんな石があるのかなって思って。こんな機会、あんまりないから」


「……そうですわね」


 立ち止まって考えてくれるソフィアちゃん。

 でも、きっとソフィアちゃんは肯定してくれる。だって、今のままじゃ山に登るだけだもん。勝ち気な彼女だってつまらないと感じているはず。


「……分かりましたわ。少し開けたところに着いたら、休憩がてらあなたの案に乗りましょう」


「えへへ、ありがとう。ソフィアちゃんは優しいね」


「わ、私は休憩が必要だと判断しただけですわ! あなたのことなんかちっとも思っていませんから!」


「そういうことにしておくよ」


 再び歩きはじめ、しばらくするとうっとうしい森が無くなって、椅子に使える切り株が散乱している見晴らしのいい場所にたどり着いた。

 ソフィアちゃんはその内の一つの切り株に座り込んで、大きなため息をついた。

 私は眼下に広がる国の景色に目を奪われていた。

 人々の営みが、歴史が作り上げた街が広がっているんだよ。時代によって様々な建築方法があったのか、建物はチグハグな構造が羅列してある。けど、そんな光景が面白いコントラストを生み、ステル国としての味を出していた。

 この町並みを、けーくんが守ってきたんだ。けーくんが動く時に、彼が目撃した人々は少ないかもしれない。でも、ここから見下ろせば、彼は数え切れない人々を救ってきたことが分かる。

 そんな事実に、私は心の底で感動していた。


「ふぁー……ようやく着いたー」


「さ、休憩いたします。あなたは好きに石でも探せばいいですわ」


「うん。そうするよ」


 大きく背伸びをして、私は再び歩き出す。この場所は何が採れるのかな?

 色々と周辺を歩いている内に面白いことに気がついた。

 鉱石を採取していた現場の痕跡を見つけたの。幸運なことに、ここでは昔は採取するくらい必要な鉱石が眠っていたに違いない。

 その痕跡を追いかけて、私は鉱石を探す。昔は使っていて今は使われていないのは理由が二つある。

 一つは採っていた鉱石が必要なくなったから。もう一つは採り尽くしたから。

 前者ならまだ残っている可能性はあるけど、後者だった場合はちょっと残念なことになる。


 さすがに採取場所を追っていくと獣道に戻っていく。私は草をかき分けて前に進まなくてはいけない。

 でも……これ以上進んだらソフィアちゃんとはぐれてしまうかも。うーん……それは避けたいかなあ。

 どうしようか悩んでいた矢先、突然私の肩が誰かに叩かれた。

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