表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/143

※『自分』に戻ろう

 朝が明けて、私はすぐさま自分の家に向かう。

 そう、アリーちゃんを起こしに、そして、元の体に戻るためだ。

 朝もやが広がり、辺り一面は幻想的な風景を漂わせている。

 毎日早起きすればこの光景をいつでも見られるわけだけど、やっぱり長い時間寝ていたい。

 今日は寝ることより大事なことがあるからすぐに起きられたけど、いつも私はお寝坊さんだ。

 私の家の近道を通るため、林を突っ切ることにする。林の中はもやが木々を包み込み、奥の方の視界は白色で遮られている。

 多分、初めて通る人は迷ってしまうんじゃないかな。

 足がもつれないように気を付けながら、私は林を走っていく。


「……ん?」


 見間違いかな?

 遠くの方に、人の姿が見えたのだ。その人は動いたせいなのか、もやにかかって見えなくなってしまったけど。

 そして、私の眼によれば、見えた人影は随分小さく思えた。大人でないことは確かだ。多分、子ども……かな。アリーちゃんよりも幼い、まだまだ目が離せない年齢。

 ……いや、間違いだよね。こんな時間に、小さな子供がこんな林を歩いているわけがない。でも、本当だったら迷っているのかも。

 助けないと。私は目を凝らしながら、その一心でその子の姿を探した。

 多分、早歩きすれば追いつけるだろう。走ってしまうと、もやの中では逆に見失ってしまうかもしれない。そして、視界が不安定だから転けてしまうことも考えられる。これはアリーちゃんの体なんだから、大切にしないとね。


「誰か……いるのかな?」


 私が見た『誰か』に呼びかけるように、私は声を張る。

 そっちから声が返ってくれば位置の特定が楽になる。また、困っているってことも分かる。


「いるよー」


 能天気な声が返ってくる。朝の散歩してるだけとは思えないけど、危機感はその声色から感じられない。

 一つ分かったことがある。声の主は女の子だということだ。

 そして、声の距離感からそれほど私と離れていない。心配ないって判断できたのはいいんだけど、せっかく声をかけたのもあるし、話してみようかな。

 声を頼りに近づいていく私。そうして彼女と私の距離は近づいていき、ようやく私は彼女の顔を拝むことができたのだった。

 しかし、それは私にとって衝撃を与えることでもあった。


「え……?」


「? はじめまして……かな?」


 私を上目遣いで見るその瞳。彼女の頭についているもふもふした耳。私と同じ位置に耳がついている。

 ショートヘアで、柔らかそうな髪質。ワンピースの服装は清純さを引き立てている。

 ……私と同じ生き残りがいたんだと思ってしまうだろう。けど、違う。それだけじゃない。

 私の目の前の女の子は……妹の姿そのままだったのだ。

 私の妹、リノ。彼女は私の過ちによって死んでしまった。……脳裏に嫌な予感が焼き付く。それはかつて、妹の死骸を借りて私を操ろうとしたネクロマンサーのことだ。

 やつのせいで、私は後輩くんとアリーちゃんに迷惑をかけてしまった。あの時、リノの声が聞こえたような気がして、私は吹っ切ることができたんだ。

 まさか、またネクロマンサーが私を利用しようと近づいてきたのだろうか。だとしたら、お門違いってことね。もう私は自分の記憶を乗り越えたんだから。

 でも、ネクロマンサーのなり手はとても少ないと聞く。それはネクロマンサー自体の能力がスキルだからであり、人々の個性に委ねられているスキルは自由になれるわけじゃないからだ。

 スキル自体、誰でも覚醒するわけじゃない。覚醒する人は少数だけ。だから、私が何かの間違いで覚醒した時も慌てたし、制御できる石なんてのも知らなかった。

 というのも、徐々に制御できる効果が失われてしまう石だったのもあり、結局は自分自身で制御する必要があるんだ。

 使用感としては汎用性に欠けるということで、長らく使われることはなかったみたい。

 そんな、誰でもなれるわけじゃないネクロマンサーの能力が、短期間に二人も出現するだろうか。同じ国に。


 私は心の中で焦りを感じながらも、努めて冷静に彼女に話しかけた。


「は、はじめまして……。あの、一つ聞いてもいいかな」


「なに?」


「……あなた、ネクロマンサーなんだよね?」


「ねくろまんさー? それって何ー?」


 はぐらかしているのだろうか。

 ネクロマンサーのスキルに長けている者は、死体の記憶を読み取る力も備わっているらしい。

 だとしたら、私の質問も無意味ということになる。妹の記憶を使えば、なりすましに何ら問題はないのだから。

 どうすれば、目の前の女の子を暴くことができるのか。迷いながら、私は会話を続けようとする。

 けど、その会話を打ち切ったのは他ならぬ女の子だった。


「お姉ちゃん、面白いこと言うね。私は私だよ?」


「……私の妹にそっくりだから……疑ってるのよ」


「えー? 私、一人っ子だよ?」


「……聞いても無駄だと思うけど、名前は?」


「メアリス! えへへ、可愛いでしょ」


「嘘だよ。リノ……じゃないの? その体の名前は」


「リノ? 誰それ」


「私の妹」


「何でそう言い切れるのかな?」


「獣人族は……私以外の全員が殺された。モンスターにね。その生き残りがいるはずがないのよ」


「果たして、そうかな?」


「え?」


「この世界、もしかしたら生き残りはいるかもよ? お姉ちゃんは大海を知らないからそう言えるんだよ」


「そんな……! だったら私は故郷が無くなった時にそこへ――」


「例えば魔界とか。行ったことないでしょ?」


「そう……だけど」


「だったら確かめてみなよ。いるかもしれないし、いないかもしれない。それは実際に調べてみないと分からないよね?」


「じゃあ、あなたは魔界から来たっていうの?」


「私? 私は……ひみつっ! でも、知ったらきっと後悔することになるよ。だから知らない方がいい。劣等種のあなたたちはね」


「劣等種?」


「ふふっ。じゃあねお姉ちゃん」


 あどけない笑みを浮かべながら、その子はもやの中へ消えていった。

 私の記憶とは違う、リノの微笑み。記憶があるのだとしたら、無意識にでも再現してしまうんじゃないかな。でも、それをしなかったということは、ただの他人の空似……?

 もしかしたら……リノは生きていて記憶喪失に――ううん。それはない。だってリノはネクロマンサーに『使われた』んだもん。彼女は死んだ。私の罪は消えない。

 記憶の中の彼女が許したとしても、背負った十字架を自ら捨てることは許してはいけない。だから、私はアリーちゃんのような子供を絶対に守ろうと誓ったんだ。

 ギルドに入ったのも、二度とあんなことが起こらないようにって無意識に思ったから。記憶が封印されててもその選択が出来たのも、心が反応してたからだと断言できる。


 魔界。行く機会があるなら、私が真っ先に手をあげよう。

 そこに仲間がいるなら、それでいい。とにかく、さっきまでいたリノの正体を突き止めたい。そして、仲間を探したい。

 私の決意が固まると同時に、朝もやは次々と晴れていき、林の中の視界は良好になっていた。




 道中、不思議な女の子に出会ったものの、私は無事に自分の家へと戻ることができた。

 アリーちゃんが起きているかどうか確かめるため、ドアをノックする。

 しかし、反応はない。数回ノックを繰り返し、私はアリーちゃんが目覚めるのを待つ。

 ……シーンと静まり返るこの瞬間。うん。まあ朝早いし、仕方ないよね。でも起きてくれないと私、困るから。


「……んしょ……っと」


 背伸びをして、私はドアに付いているフックを持ち、ドアの壁に強く打ち付けた。

 これで拳より強い音が家に鳴り響くはずだ。これで起きないなら、アリーちゃんは相当なお寝坊さんと言える。


「……むぅ。アリーちゃん……いつまで寝ているつもりなのかな」


 人の体で気持ちよさそうにベッドに寝っ転がっているアリーちゃんの姿を想像する。

 自分の体というのがどうにも奇妙な感覚がしてくるけど、傍から見たらさぞ可愛いだろう。

 ……って、そんな妄想してる場合じゃない! 早く元の体に戻って――

 戻って、何をする?

 私は何故、ここまで自分の体に固執しているのだろう。アリーちゃんの体で居続ければ、後輩くんとイチャイチャできるじゃないか。


「……違うよ。私は……」


 心に生まれてくる誘惑を、私は否定する。

 それじゃ意味がないってことを、私は昨日知った。確かにアリーちゃんの言う通り、後輩くんの新しい一面を見ることはできた。

 本物の私じゃしてくれないことを、後輩くんはしてくれた。

 でも、それはアリーちゃんというファクターがあるから。それでは結局、彼は私を見てくれない。

 私の口で、私自身の意思で、後輩くんと接することに意味があるんだ。それなのに、私は今まで拒絶される恐怖から想いを打ち明けることすらできなかった。


「……うん。やろう」


 一刻も早く自分の体に戻ろう。

 私は意を決して、ドアに向かって魔法を放つ。

 吹き飛ばされるドア。辺りに響く轟音。私の家は今日から吹き抜けになってしまった。これは早く修理しなければ。

 ええい。それよりも自分の体よ。早く目覚めなさいアリーちゃん!


「アリーちゃん! 朝だよ!! 起きなさい!!」


 寝室に直行する私。そこで待っていたのは、スヤスヤと寝息を立てている私の姿をしているアリーちゃんだった。

 私とは違い、ちゃんと毛布をかけて行儀よく眠りこけている。いつもの私なら布団を蹴っ飛ばしてしまうのだが。

 それはアリーちゃんの心が中に入っているからだろうか。


「――あ」


 待って。となると、昨夜私は後輩くんを攻撃していたかもしれないってこと?

 ……あ、後で謝っておこう。


「私の顔……幸せそう」


 気持ちいい夢を見ている私の顔は、とても至福に満ちていて思わず顔をほころばせてしまう。

 う……。起こすのは気が引けるけど、それもしょうがない。自分の体を取り戻すためだ。


「アリーちゃん! 起きなさい!」


「んぅ~?」


 寝返りを打つだけで、目を覚まさない彼女。

 もう。これでよく毎日学校に行けるよね。

 自分の顔が腫れるのはちょっと嫌だけど、しょうがない。

 私は自分の頬をひっぱたいた。

 ペチペチと鳴る音とは対象的に、私の頬は赤く染まっていく。

 ……後輩くんを見つめている時、私の表情は大体こんなもんだろうか。


「い……痛いよぉ……」


 ようやく目を覚ましたアリーちゃん。

 彼女は大きくあくびをしてから、ぽやーっとした目で私を見つめていた。


「おはよう、アリーちゃん」


「……?」


「こら、私は鏡じゃないぞ」


 寝ぼけているのか、彼女は私を見つめながら髪を整え始める。


「あれ? 今日の夕食はもう食べたよ?」


「……まだ寝ぼけているようね。ならば……トドメよ!」


 私は両手でアリーちゃんの頬を叩く。

 バチンと威勢の良い音が鳴り響いたと同時に、目の前の私は目をパチクリとさせていた。


「……あ。お、お姉ちゃん」


「目が覚めたようね。アリーちゃん」


「お姉ちゃんが起こしに来てくれたってことは……もうそんなに遅い時間なの?」


「私だってもう大人なんだよ? 早く起きることだってできるんだから」


「……え? 今、何時?」


 ベッドから起き上がって窓から外を見るアリーちゃん。

 首をかしげて、私を訝しく見つめた。


「サマリお姉ちゃん、いくら何でも早すぎるよー」


「それだけ、私にとっては重要なの。ねえ、元に戻して」


「……もうけーくんとはいいの?」


「うん。やっぱり、自分の姿でないと意味がないからね」


「……分かった。じゃあ、戻ろうよ」


 寝起きのアリーちゃんには悪いけど、融合メルジスを始める。

 アリーちゃんと一つになる私。そして、すぐに融合メルジスを解除させた。

 二つに分かれる私たちの体。今、私の体になっているのは……。


「……うん。ちゃんと自分の体だ」


 見覚えのある自分の手。体。髪の毛。

 一日も経っていないはずなのに、自分の体を動かすのが久しぶりのような気がしてくる。


「じゃ、おやすみーサマリお姉ちゃん」


 元の姿に戻ったアリーちゃんは、早速あくびをして私のベッドに潜り込む。


「えへへー、暖かーい。それにサマリお姉ちゃんの匂いだー」


「もう。アリーちゃんったら……」


 ものの数秒でアリーちゃんは眠りに落ちる。

 まあいいか。今は私の想いを後輩くんに届けるんだ。パジャマとしているワンピースからいつものローブへと着替える。

 うん。やっぱり、私が戻ってきたって感じがする。この頭からすっぽりと被れる一枚のローブが私の衣装だ。楽だし、通気性もバッチリだもんね。


「それから……」


 私は壊したドアをなんとか『閉まっている』ように見せかける。

 遠目で見れば誤魔化せるはずだ。一応閉まっている風に見せないと、強盗が入ってくるかもしれない。

 用心に越したことはない。というか、今日中に直さないとマズイかも。


「……うん。今は考えるのを止めよう。キリがない気がする」


 袋に色々と詰め込み、準備をする。私は後輩くんの家に戻るつもりだ。

 何故かって? ふふっ、それは秘密。……でも、迷惑じゃないかな。目覚めた時、いきなり私が後輩くんの家に居るなんて……。

 ……ええいっ!! そんな奥手だから今までダメだったんだ。今は後輩くんの家に向かう! それだけを考える!

 目的を果たすため、私はもと来た道を引き返した。




 後輩くんが目覚めたようだ。私が彼の家に戻って、それから色んな準備をしてちょうどいい時間が経っている。

 ドキドキしながら、私は後輩くんが居間へやって来る足音を聞いていた。

 なんだろ。悪いことしてるわけじゃないのに、これじゃまるで泥棒だよね。


「ふぁ~あ。あれ? サマリか?」


 寝起きの後輩くん。彼のボサボサの髪型がとても新鮮で思わず見とれてしまう。

 どんな格好でも後輩くんはかっこいい。……と思ってしまうのはきっと私だけだろう。

 彼は大きくあくびをして、居間にある椅子に座り込み、テーブルに肘をついた。


「あ、お、おはよう後輩くん。アハハ、元気?」


「元気だけど……お前は朝からテンションが高いなぁ」


 そりゃあ、後輩くんより早く目覚めて色々やってたからね。

 私だって朝はそこまで強いわけじゃないんだよね。


「……そう言えば、アリーは?」


「アリーちゃんは……私の家で寝てるよ」


「何だって? あいつ……夜中に抜け出したのか?」


「あ、違うよ! 朝! 早朝にアリーちゃんは私の家に来たの!」


 危ない危ない。アリーちゃんを非行少女にするところだった。

 後輩くんは、朝ならまあ……とか言って納得してくれている。よし。朝の頭が回らないこの時間帯ならなんとかゴリ押しで納得させられた。


「……まあ、アリーのことは置いておくとして、朝食だな。サマリ、お前は朝飯を食べたのか?」


 きた。これが私の望んでいたこと。

 今こそ、勇気を振り絞る時だ。


「そ、そのことなんだけどさ……」


「ん?」


「あの、私ね……朝食、作ってみたんだ。……た、食べる?」


 流し目で彼の様子を伺う。

 心臓がバクバク鳴ってる。この音、後輩くんにも聞こえてるんじゃないかってほど。

 私、とんでもないことをしでかしてはいないだろうか。でも、これは彼と近づきたいから言ってしまったからであって……。

 あぁ、やっぱり言わなきゃ良かったかも。『いらない』とか言われたら、私立ち直れないよ。

 様々な杞憂、不安、後悔が脳内に渦巻きながら、私は後輩くんの言葉を待っていた。そして、彼は次の言葉を私に投げかけてくれた。


「……ああ。もちろん」


「……ほ、本当?」


「嘘じゃないって。サマリの作った朝食、食べてみたい」


「……う、うん!! 待っててね。すぐに出すから!」


 今の私は顔を真赤にしている。でも、嬉しさも隠せずニッコニコもしているだろう。

 良かった……。後輩くんが肯定してくれて。やっぱり……アリーちゃんの体になっていた時の言葉は本物なのかもしれない。

 後輩くんの目が覚める前に仕込みをし、調理もしていたから、後は温めるだけで私の料理は完成する。

 朝ということもあるから、そんなに重たい料理じゃない。だけど、ある意味でこれが私の一番得意な料理かもしれない。


「はい。どうぞっ!」


「……へぇ。スープか」


 そう言えば、前に一度アリーちゃんに食べてもらったことがあったっけ。

 あの時は私のオリジナルだということで見栄をはったんだけど、実はあれ、オリジナルじゃない。

 前にどこかであんな感じの料理を見かけ、私なりに作ってみただけだ。

 アリーちゃんにはほぼほぼバレていたとは思うけど、後輩くんにはどうかな。ちょっとだけからかってみようか。


「その料理の名前は『ホワイトシチュー』。これね、私が開発したんだよ」


「そうなのか? 珍しい料理だもんな、これ。シチューねえ……。初めてみるなあ……」


 後輩くん。アリーちゃんから常々話を聞いているけど、そんなに料理してないって聞いてるよ。

 料理というものを見ていないだけで、手の混んだ料理が珍しいってだけなんじゃないのかな……?

 ま、まあ、料理がオリジナルかどうかはどうでもいいの。問題は後輩くんの味に合うかどうか……。

 あ、先に言っておかないと。


「後輩くん、これね、パンに浸して一緒に食べると美味しいんだよ」


「どれどれー……」


 食卓に新鮮さを失って少し硬くなったパンを用意する。これしか、後輩くんの家にも私の家にもなかったの。

 でも、このシチューはそんなパンだからこそ美味しさを増すというもの……多分。

 パンを皿に盛り付け、テーブルに配置する。

 後輩くんはその中の一つに手をかけ、シチューの中に浸した。


「おおっ! パンがスープを吸っているぞ」


「う、うん。そこは驚くところじゃないよ」


「やっぱり? それじゃ、いただきます」


 パンを口の中に入れて、ゆっくり咀嚼する後輩くん。

 その表情をまじまじと見つめ、私は彼の感想を待つ。


「ど……どう?」


「……美味しいよ。そうか。古いパンはこうして食べればいいのか」


「あ……うん!」


 次々とパンに手が伸び、シチューが減っていく。

 アリーちゃんに美味しく食べてもらった時ももちろん嬉しかった。

 でも、後輩くんに食べてもらって、美味しいって言ってくれるのはもっと嬉しい。

 心の中が暖かくなって、ぽかぽかする。


「……ごちそうさま」


 後輩くんの朝食が終了した。私が作った料理を余すこと無く全て食べてくれた。嬉しい。


「行儀よくないと思ったんだ」


「え?」


「スープにパンを浸すやつ。でも、悪くないな」


「でしょ? えへへっ」


「こうして、毎日美味しい料理を食べれたら……最高だな」


「……え?」


「……おい、そこ……聞き返すか?」


「う、ううんっ! ただびっくりしただけ!」


「……そっか」


「あの……じゃあ、また……作りに来てもいいの?」


「ああ。サマリの作ったものなら、何でも食べるよ」


「――うん! これからも張り切って作っちゃうんだからね!」


 一歩を踏み出して良かった。

 後輩くんに歩み寄れた。ありがとう、アリーちゃん。私に一歩を踏み出す勇気をくれて。

 そしてありがとう、後輩くん。料理、美味しいって言ってくれて。私……これからも頑張って料理作るからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ