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※私の体で何をするつもり!?

「おかえり! け……けー……」


 は………………恥ずかしいっ!!

 その恥の感情が先行して、どうにも名前を呼べない。あぁ……なんて情けない……。


「ん? どうしたアリー」


 アリーちゃんの名前を呼びながら私の顔を覗き込んでくる後輩くん。

 わわっ……アリーちゃんだったら、こんなに近いんだ。後輩くんって……。

 ぽーっとなってしまっている私を、後輩くんが不思議そうに見つめてくる。

 最初に会った時はこんな気持ちにならなかったのに、いつの間にか意識するようになって……。


「ア、アリー? おーい。大丈夫かー?」


「……あ。う、うん。大丈夫」


 心配させないように、ここはちゃんと返事しておかないと。

 ……それにしても『けーくん』か。これは難題だね。


「そういえば、後輩くんは今日何をしてたの?」


「俺か? 今日は特訓してたんだ」


「特訓? 何の?」


「体術の特訓さ。魔王と戦った時に、俺は今まで剣に頼った戦い方しかしてなかったことに気が付いてな。実は魔王の時に剣が壊れて、俺の戦いができなかったんだ。」


「そうだったんだ……」


「だから、剣が無くても問題なく戦えるように、自分の体を鍛えていたってわけだ」


「でもでも、後輩くんならスキルで楽勝なんじゃないの?」


 ニヤニヤと私らしい笑みを浮かべるアリーちゃん。

 そうだ。後輩くんにはみんなの能力を継承できるスキルがあるんだった。アリーちゃんの考えは、けーくんが格闘家が持っている能力をスキルで継承すれば楽勝だということだろう。

 しかし、後輩くんは私を一瞥した後、自分の考えを語ってくれた。


「……サマリ。確かに俺のスキルは強力だ。仲良くなれれば、誰の能力だって使えるようになる。でも、自分で使えないと意味がない。その力を自分のモノにする努力もまた、必要なんだよ」


「『奪取』の時みたいに……かな?」


「ああ。奪っただけじゃ使いこなしているとは言えない。せっかくみんなから借りた能力だからな。ちゃんと使えるようにしないと失礼でもある」


「へー、ちゃんと考えてるんだねー」


「けどさ、それだけじゃダメなんだって最近思ったんだ」


「え? ダメ……なの?」


「ああ。ケチを付けるわけじゃないけど……やっぱりみんなの力じゃないか。自分の力じゃない。自分で身に着けた力がどんなものかって、俺はまだ知らないかもしれないんだ」


「へぇー……」


「だからさ、良い機会なんだ。こいつは。俺自身の努力で、どこまで出来るのかを試してみたい」


「さすが……後輩くん、だね」


 ボソッと呟いてしまった私。多分、誰にも聞かれてないはず。

 このままの雰囲気でいけば、カッコいい終わり方だったと思う。けど、後輩くんは次の一言を余計につけたしてしまったのだ。


「――ま、実を言うとな……最近スキルの力を感じられないから努力せざるを得ないってところなんだけどな」


「へっ!? こ、後輩くん! 今までの説得力あるお話は嘘だったの!?」


 さすがのアリーちゃんも驚きを隠せない。もちろん、私も驚き隠せない。


「いやー、嘘ってわけじゃないんだけど、魔王との戦いの後くらいからどうもスキルが無くなったような、そんな気がしててさ」


「はぁ……カッコいいと思ったのにこれだよ……」


 大きくため息をついて、私は後輩くんに悪態をついてしまった。

 尊敬してたさっきまでの時間を返してほしいよ、まったくぅ……。


「ア、アリー。そんなに落ち込むことないじゃないか! 俺だってたまにはこうして面白いことを言ってみたりしたいんだよ!」


「でも、そんな後輩くんも私は良いと思うなー」


「へっ?」


 突然、アリーちゃんがとんでもないことを言い出す。

 私も後輩くんも、驚いて面食らってしまっている。私に至っては、さっきの会話をまるまる忘却してしまったほどだ。

 アリーちゃんは私の体で後輩くんに近寄り、そして目を輝かせて自分の両手を組んだ。


「ねえ後輩くん。今度私にもその体術教えてくれないかなー?」


「それは別にいいんだけど……どうしたサマリ。毒キノコでも食ったか?」


「食べてないよー。私はね、純粋に後輩くんが凄いなーって思っただけなんだ」


「面と向かって言われるとちょっと恥ずかしいんだが……」


 少しだけ顔色が紅に染まった後輩くん。そっか。褒められると照れちゃうんだ後輩くんって。ちょっと、知らない一面が見れて良かったかな……。

 と思っている側から、間違った私に成りきったアリーちゃんがどんどん後輩くんに近づいていく。

 あぁ……私のイメージがアリーちゃんによって崩れていく……。

 今の私の体じゃ止められない……というのは単なる言い訳だろうか。私は、無意識の内に後輩くんのあられもない姿を見たいと思っているに違いない。

 じゃなきゃ、今の光景を黙って観察してたりしないもの……。


「ねっ? いいでしょ?」


「まあ……分かったよ。今度な」


「えへへっ、ありがとー後輩くん♪」


「でも……サマリなら魔法を強化した方がいいんじゃないのか?」


「いーのっ。女の子には体術も必要な時代なんだから」


「そ、そうか……」


 どんな時代だそれは。

 きっと、後輩くんはそう思っていることだろう。ちなみに私も同じく思う。

 さて、そろそろ帰る頃合いだろうか。私はアリーちゃんになっているのだから、後輩くんと同じ家に帰らないと。


「じゃあ、俺はアリー連れて帰るぞ。いいな?」


 後輩くんも同じことを思ってくれたようだ。ちょっと嬉しい。

 ……このまま二人で帰ることができたら、どんなに良かっただろう。アリーちゃんは、最後にとんでもない爆弾を落としてきたのだ。


「――その前に、後輩くんに伝えたいことがあるの」


「伝えたいこと? 何だよいきなり」


「……あのね」


 あ……あのアリーちゃんさん? 何をしているのかなー?

 私の体を使っているのはアリーちゃんだ。だから、私の体は彼女の思う通りに動いてしまう。

 そんな中、彼女は急にしおらしくなって後輩くんの手と自分の手を合わせたのだ。優しく、そっと触れ始めた私の手と後輩くんの手。

 そのまま寄りかかり、肩を寄せ合い、後輩くんの肩に頭を乗せる。

 わっ、私だってこんなことしたことないのに……! う、羨ましい……!!

 普段から一緒に生活しているアリーちゃんだからこそ出来る芸当なのだろうか。少なくとも、私には無理だ。


「サ、サマリ!? お前何やってんだよ!?」


 さすがの後輩くんもタジタジだ。先程までほんのり染まっていた紅の肌は、熱々に赤く燃え上がっている。

 でも、引き離さないってことは嫌じゃないのかな? ……ちょっとだけ、私は嫌われているんじゃないかって思うこともあった。けど、それも私の下らない妄想だったことが判明した。


「ねっ……。そろそろ『後輩くん』から変えてもいいかな?」


「どっ、どういうこと?」


「だから……『ケイくん』って呼びたいの……」


「え!?」


「ダメ……かな? やっぱり、私は『後輩くん』としか呼べないのかな?」


「あ……いや……その……」


 汗を吹き出している後輩くん。ここまで焦っているのは始めてみるかも。アリーちゃんが私の体を使うだけで、後輩くんは知らない姿を簡単に晒してくれる。

 アリーちゃんの体でも、こんな後輩くんは見れないだろう。……もしかして、後輩くんも?

 ……ううん。安易に考えてはダメだよサマリ。そんなに簡単に上手くいくわけないじゃない。もっと自分から動かなきゃ。


 ……もし、私が動いたらどうなるか。それが今目の前で繰り広げられているのだ。


「ねぇ……『はい』か『いいえ』。どっちか答えてよ」


 目を動かして何かを考えているのは私の視点からでも分かる。

 後輩くんは今、必死に角が立たない言い方を考えているに違いない。


「俺は、その」


「その?」


「……別に構わないよ。サマリが言いたいなら、そう呼んでもらってもいい」


「……ふふっ」


 恥ずかしいのか、後輩くんはアリーちゃんの姿になっている私を決して見ない。

 それを知っての上か、私の姿になっているアリーちゃんはウインクして私にコンタクトを取った。

 こ、これで私も『ケイくん』って呼んでも良いってこと……かな?

 うぅ……アリーちゃんには感謝したいけど、少し進み過ぎだよぉ。もうちょっと落ち着いて後輩くんにアプローチしたかったのに……。でも、こうしている間に時期を逃してしまうかもしれないし……。奥手な自分にがっかりしてしまう。


「嬉しいな。これからは『ケイくん』って呼ぶね♪」


「あ、ああ……」


 私の体を自由に使えるアリーちゃんは行動を再開する。

 次は体をもっと密着させて、ほぼ後輩くんの体に抱きついているような感じになってしまった。

 あ、あの……。私のむ、胸が後輩くんに当たって……。

 ギュッと体を押し付けるアリーちゃん。それはつまり、私の胸が後輩くんに押しつぶされるというわけで、後輩くんはそれで口をパクパクさせているわけで……。


「サ……サマリお姉ちゃん! やりすぎだよぉ!!」


「――あ、ごめんごめん! やり過ぎちゃった」


「もう……!」


 私の決死の叫びによって、アリーちゃんは自分の行動を反省することが出来たようだ。

 彼女は舌をペロッと出してパッと後輩くんから離れた。


「で、どうだった? 私の体は」


「サマリ……お前。本当に今日はどうした?」


「今日の私はね……本心を打ち明けているの。これが真の私なのだよ。ケイくん」


 えー……っと。違うとは言えないし、違うとも言いたい。でも、あのまま放って置いたら……後輩くんと口づけを交わしそうだった。

 それだけは絶対に嫌だった。自分で動いて、後輩くんに愛を伝えたいから。

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