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それを否定する聖なる力

「どうしたケイよ? これから行うのではないか? お前の力の開放を」


「あ……あ……ああ……そのつもりだ」


 待て。今の映像を見ても同じことを行えるのか?

 どうやっても、スキルを暴走させてしまった時点で俺の敗北は決まってしまうんじゃないのか。

 これは……未来から警告?

 ジェスが言ってたのはこのことだったのか? スキルを暴走させて魔王を殺そうとしても、『最終的な』未来は変わらない。

 俺一人の力じゃどうすることも出来ない……つまり俺が魔王を殺すことは叶わない。


「く……くそ! そんなことあるかよ!!」


 否定する。絶対に否定してやる。そんな未来。

 ああ。未来から警告してくれることはありがたいよ。だったら、違う方法で魔王を殺してやる。

 力じゃ敵わない? そんなことねえ。俺が踏ん張ってなかっただけだ。


 剣を振り回す。魔王だって、全部の部位が強いわけがない。どこかに当たれば、それが突破口になるかもしれない。

 全ての可能性を考えて、俺は魔王に次々と剣をぶち当てた。

 ……しかし、魔王はどこもかしこも弱い部分はなかった。


「何がしたい? 早く力を開放しろ。ケイ」


「くっ……! 魔王! お前……俺の末路を知っているな!?」


「ああ。お前たちの裏切り者から教えてもらった。名前は確か……ジェスだったか」


「……残念だがな! 俺はその力を使わない!」


「ほう? 未来はまだ確定されていないぞ? それなのに、お前はスキルを暴走させないのか? この『未来』では死なないかもしれない」


「――お前に励まされちゃ余計に使いたくねえな!」


「……ならば、この下らない行為は止めるのだな」


 魔王が片手で俺の剣の刃を受け止める。彼が力を込めた……ようには見えなかったが、剣の刃が真っ二つに折れてしまった。

 二つに分かれた俺の剣はそれぞれ左右別の方向へ投げ捨てられてしまった。


「……さあ、早く力を開放しろ。そして死ね」


「……ち……ちくしょう……!!」


 もう……開放するしかないのか……!?

 きっと、あの映像の通りになる。その後は……同じ未来が繰り返されるだけだ。

 俺は……未来に抗えないのかよ……!


「――ケイさん! まだ大丈夫ですか!?」


 その時、俺を呼びかけるリーダーの声が聞こえた。

 何故、彼女がここに……? いや、あの映像ではそれが正史だったか。

 リーダーはすでに涙目になって、目元を赤く腫らせていた。まだ、俺は死んでないよ……まるで死んだような表情してさ……。


「ケイさん! スキルを暴走させては絶対にいけません! 制御出来なくなって魔王に……」


「そっか……リーダーも見たんだな。あれを……」


「え? もしかして……ケイさんも?」


「は……はは。あれを見た後じゃ、使う気にもならねえよな……」


 でも。

 使わなければ勝機はない。少なくとも、今はない。

 ……ごめんリーダー。それでもみんなを救いたいから……使うしかないんだよ。


「敵が前にいるにも関わらず、話す余裕があるのか?」


 その一言と共に、魔王が空から魔力の弾丸を撃ち放った。

 俺を正確に狙うその弾丸。俺は何とかして避けようとその弾丸を観察する。

 だけど、そんな俺の前にリーダーが出たのだ。


「リーダー!」


「ケイさんを殺させはしません……! この力を使ってでも!」


 リーダーが空に手をかざす。

 すると、リーダーの周りに透明な壁が現れた。その壁は魔力の弾丸を簡単に弾き返して爆発させた。

 ど……どういうことだ? こんな魔法見たこと無い。リーダーが使える秘密の魔法なのか?


「リーダー……これは一体……」


「……『護衛隊』の役目もこれで終わりか。楽しかったけど……しょうがないかな」


「え?」


「ケイさん……。一つだけ、たった一つだけ魔王を倒せる方法が存在します」


「スキルを暴走させるんじゃない……ですか?」


「ええ。けど条件が。……これから先は、私を信じて下さい。何があろうとも」


「……どういう意味ですか」


「お願いします。理由は今は絶対に言えません。でも、信じてほしい!」


「リーダー……」


 リーダーがここまでのことを言うのは初めてかもしれない。それだけ、彼女の覚悟は決まっているということか。

 だけど……彼女は俺に理由を話してはくれない。

 ……いや、信じるしかない。スキルの暴走が自滅を意味するものになり、更に魔王に見破られているのであれば、それに掛けるしかない。


「……分かりましたリーダー。あなたのこと、信じさせて下さい」


「ありがとう、ケイさん。訳は……後で必ず話します」


 リーダーのホッとしたような顔つきから、魔王に目を移した刹那に目つきを鋭くさせる。

 彼女はかざされた手を降ろし、両手を胸のところへ合わせた。


「その防御壁が無くなれば、お前たちは終わりだ」


 魔王は勝ち誇りながらも、俺たちに無数の弾丸を発射してくる。その標的は俺じゃなく……リーダーだった。


「何をしようとしているのかは知らないが、放っておくほど甘くはない」


「くっ! リーダーは俺が守る!」


 リーダーの前へ出る俺。落ちている剣を掴み取って、弾丸の位置を正確に把握しながら剣を構えた。

 全てが一斉に来るわけじゃなさそうだ。数自体は大量だけど、時間差で来るのなら対処のしようはある。


「その出来損ないの剣で何をするつもりだ?」


 ……剣の刀身はすでに半分に欠けて、ほぼ意味をなさない。でも、弾丸を打ち返すことくらいは出来るはずだ。


「ハァ!!」


 剣を振り回して、弾丸を短い刀身にぶつけていく。

 打ち返さなくてもいい。少しだけ、リーダーから外れてくれればそれでいい。


「ケイくん! ボクも手伝うよ!」


 状況を冷静に見つめていたであろうリアナも俺の横に立つ。

 彼女は自分で使い勝手の良い拳銃を構え、魔力の弾丸を発射し始めた。一つ一つ丁寧に撃っているけど、手ブレが激しいのだろう。

 弾丸は数十発撃って一発当たれば良い方なくらいの命中精度だった。


「標的が小さくて当たりにくい……!」


「無理するなリアナ。リーダーの準備が終わるまで時間を稼げればいい!」


「うん!」


「ケイさん! 終わった!」


 リーダーの声が聞こえる。ということは……彼女の秘策が完成したということか。

 一体彼女は何をするのか……。ある意味で楽しく、ある意味で心配だ。


「――魔王! これであなたは終わりです!!」


「何だと?」


「――バードニィシフト!!」


 彼女の叫びが走ったかと思うと、突然俺の体が光に包まれた。

 そして、俺の中から何かが抜けていく感覚。光はその抜けた何かを携えて、俺から離れていった。

 魔王もよく分かっていないことから、魔法の類ではないということか。


 空中に舞い上がった光は、リーダーの次の言葉で魔王へ向かっていく。


「ターゲットは……魔王!」


 魔王もバカではない。その謎の光を避けようと光の方向を注視している。

 これが避けられてしまったら……もう後がないんじゃないのか?


「だったら……!」


「リアナ!」


 銃口から光の剣を突き出させ、リアナは接近戦で魔王へ突進していく。

 目線は完全に光へ向かっている魔王は、リアナの接近には気づいていないようだった。


「ハァ!!」


「――!?」


 リアナが魔王の脇腹へ銃剣を薙ぎ払う。

 傷は与えられなかったけど、魔王の視線は一瞬だけリアナを向いてしまった。

 それがお前の敗因だ。魔王。


「今です!」


 リーダーの叫びが始まりとなって、光は一直線に魔王へ近づき、そして魔王は光を取り込んでしまった。

 吸収されていく度に小さくなる光。短時間の間に、魔王は俺から放たれた光を完全に吸収しきった。


「雑魚が……!」


「グフッ!!」


 リアナの腹部にパンチしてから体を掴み、力いっぱいに投げ飛ばす。

 彼女は地面に激突しながらボロボロの体になって俺の近くに転がってきた。


「大丈夫か……リアナ!」


「ケ……ケイくん……ボク……」


「あまり喋るな。傷に響く……!」


 俺は手をかざして傷を癒やす魔法を使う。

 ……何かが無くなった気がしたけど、魔法が使えなくなったわけじゃないんだな。

 だったら何が……いや、今はそれを気にする暇はない。

 これで俺は魔王を倒せるのだから……!


「……何?」


 リアナを治療してから視線を移した時、魔王が完全に弱体化しているものだと思った。

 しかし、魔王は先程と変わらない表情で俺を見下していたのだ。


「防御壁の女の力も無意味だったようだな。私はこの通り無事だ」


 どういうことだリーダー!? 俺はすぐさまリーダーを見たけど、リーダーは地面に膝をついて憔悴しょうすいしきっていた。

 それは激しい呼吸が物語っている。


「リーダー……魔王には何も……」


「大丈夫……ケイさん……私を……信じて……」


 そうだよな。最初、リーダーは俺に信じるようにと言ってくれていた。

 それを疑うわけにはいかない。俺はリーダーを信じる。

 眼前の魔王を睨みつけて、奴へ歩き始める。


「ケイ。武器もないのにこっちに近づいてくるのか?」


「ああ……俺にはまだこの拳がある」


「下らない。剣を使ってでさえ私を殺せないお前が、拳を使って殺すというのか?」


「……いくぞ!」


 魔王の指先だけに注目して、俺は前へと進む。

 ヤツが何かする時、いつも指先が動いていた。なら、そこだけを注意すれば魔王に近づけるはずだ……!

 俺の予想通りに、魔王の指先が怪しく動く。指の方向は俺を軸として左に動かしていた。きっと何かの魔法の合図なのだろう。

 だが……その動きから考えられる答えは――!


「一か八かだ……!」


「何?」


 俺は地面を転がり込んで、その何かを回避する。

 耳に聞こえてきたのは空を切断する音。きっとそれは姿を見せずに物質を斬り刻む魔法だ。

 俺の行動が意外だったのか、魔王の反応が一瞬だけ遅れる。そのチャンスは逃さない。


「うおおおおっ!!」


 右手に拳を作って、俺は全体重を掛けて魔王の頬に拳をぶち込んだ。

 右腕の何本かの骨が砕けたような気がする。だが、それだけの威力のパンチということは魔王も無事では済まないだろう。

 初めて魔王が苦痛に満ちた表情を見た。俺の拳を一身に受けた魔王は空へ吹き飛んでいった。


 ああ……やっぱり砕けたか。俺の右腕が意思のない人形の如くぶらんと重力に倣って下に垂れている。

 激痛が走っているけど、まあ……しょうがないよな。とりあえず、魔法で回復しておこう。

 やっぱり、慣れないことはしないものだ。格闘なんて全然してなかったからな。この戦いが終わったら、剣が無い状態でも戦えるように体を鍛えようか。


 魔王が立ち上がってこなければ、だが。


「……ふ、少しは効いたぞ。ケイ」


「やっぱり、そうなるよな」


 地面に倒れ込んだ魔王。しかし、その優越感も一瞬にして終わる。

 すぐさま立ち上がったヤツの表情は、依然として余裕そのものだった。


「だが……私を倒すまでにはまだほど遠い」


「だろうな……初めてだよ、ここまで強く殴ったのは」


「さてと。そろそろ終わりにするか」


「終わるのはお前か? 魔王」


「戯言を。この状況、どうやったらそう考えられる」


「お前に逆転出来る何かを……俺の、いや……この世界のためにリーダーがやってくれたんだ。その可能性を俺は信じている」


「信じる? 私はこの通りだぞ。そんな下らない人間の――」


「下らない……? 違う。俺は信じてる。みんなが協力し合って築ける未来を。今までも、俺はそうやってみんなの力を借りて生きてきた。だからこうしてお前と戦うことができた! 今日、俺がここに立っているのは俺一人の力じゃない!!」


「中々のご高説だが、お前は私には勝てない。雑魚の力を集めても……所詮は塵なのだよ」


「……塵じゃない。一人一人の命は重いんだ。それが分からないから、お前は一人なんだ」


「一人だと?」


「ああ、お前は一人さ! 側近さえ使える駒としか見ていないお前はずっと孤独だ。お前を慕う奴らはいるのか? ただ恐怖しているだけなんじゃないのか!?」


「……面白いことを言う。私にもいるのだよ。慕う者たちが。だからこそ魔王でいられる」


 ニヤリと勝ち誇った魔王。

 その瞬間、後ろからリーダーの凛々しい声が聞こえてきた。


「――なら、それを証明してもらいましょうか。ねえ、ケイさん」


「え? リーダー?」


「何の真似だ? ……っ」


 明らかにリーダーに向かって睨みつけた魔王。

 すると、魔王が突然苦しみ始めた。胸を押さえて何かに耐えている魔王。今まで無敵を誇っていた彼に一体何が起こったのだろうか。

 リーダーがしていた事がついに発動したというのか。とにかく、魔王にとっても想定外のようで、彼自身、困惑した表情を浮かべていた。


「グッ……!? この力……! 何かが取り込まれてくる……何だ……!?」


「取り込まれる? どういう意味なんだ」


 俺の隣に立って悠然と、格式高い気品に満ち溢れたリーダーが俺たちの疑問に答えてくれた。


「魔王……あなたを慕うモンスターたちに感謝して下さい。そのモンスターたちのおかげで、あなたは新たな能力を継承することが出来るのですから」


「何……!? 女……貴様まさか……!!」


「さすがは魔王さん。呑み込みがお早いですね」


 挑発全開で魔王と喋っているリーダー。彼女が言っている意味はつまり……。

 俺の中でも答えが出来上がって来ている。いや、すでに答えはそこにある。

 何故なら、魔王の様子を見ていると、先ほど脳裏に過った『過ち』を連想させるからだ。

 ……スキルの暴走。それが魔王に起こっている現象だ。


 自分自身に取り込まれていく能力。魔王の軍勢を考えれば、慕っているものも多いのかもしれない。

 それら全ての力が一瞬にして取り込まれているとしたら……。

 魔王は膝をつきながらも必死に耐えている。低いうなり声を上げて、歯を食いしばっている。


「今です、ケイさん」


「ああ。今がチャンスってことだな」


 剣を……って、今は壊れてるんだったな。

 近くに落ちていた剣の破片。柄の方ではなく、刃の方を俺は拾った。刃しかないこの破片。確かに危険だろう。

 だが、俺はこの破片で魔王に止めを指す。


「ぐっ……!!」


「お前自身も制御できないみたいだな、その力」


「私ならば……制御できるはずだ……!!」


「未来は変わる。変えてみせる……! 魔王! お前を倒すことによって!!」


 割れた剣の底を、自分の右腕に突き刺す。血が吹き出るが、それは魔法で治していく。

 一時的に剣と腕がくっ付いた状態になった俺は、そのまま魔王へと突撃した。

 他に魔王を倒す方法はあっただろう。でも、俺は今まで共に戦ってきたこの剣と一緒に決着をつけたかった。

 しかし壊れてしまった剣。それでも引けを取らない威力を再現するには、今はこれしか浮かばなかった。


「これで……終わりだぁ!!」


「ガァッ!?」


 剣の先端が魔王の腹部に突き刺さる。

 その瞬間、俺は爆発の魔法を唱えた。標的は、剣と腕がくっついている付け根の部分。

 俺の目の前で閃光が走り、剣が魔王に向かって勢いよく射出していく。爆発の衝撃もあって俺は後ろへと吹き飛ばされるが、魔王は剣の打ち込みと爆発の魔法が襲い掛かっていた。


「ケイさん! 大丈夫ですか!?」


 右腕を血だらけにしながら、地面へしりもちをついた俺を駆け寄ってきたリーダーが支える。

 爆発の煙でまだ魔王の様子が見れないが、恐らく無事では済んでいないはず。


「霧が晴れていく……」


 リーダーの呟きを聞きながら、魔王の姿が少しずつ見えてくる。

 やはり、俺の予想通りだ。魔王は傷だらけの姿になり、腹部には大きな穴が開いていた。

 膝から崩れ落ちる魔王。彼の命の灯ももうすぐ終わってしまうだろう。


「……ケイ」


「何だ、魔王」


「……ふっ、面白いことをするものだ。未来を……変えてしまうとはな……」


「リーダーの力だ。俺一人の力じゃない」


「くっ……そうだったな。だが、致命傷はお前の武器だ……力を制御できなくなったがために……な」


「……魔王。一つ、訂正しておくよ」


「何?」


「お前にも信頼してくれている存在がいたってことだよ。お前も一人で戦ってたわけじゃない……」


「モンスターの頂点になるべき存在……だからな」


「……ああ」


「ケイ。最後に一つ……警告だ」


「え?」


「これからの未来……例え私が倒れても、第二第三の魔王が現れるだろう。それが、この世界の常識なのだからな」


「何だって? どういう意味――」


 その瞬間、魔王の体が地面へ倒れる。

 彼の命の灯が消えた瞬間だった。


 勝ったんだ……! 魔王の最後の言葉が気になったが、それより今は嬉しさが勝っている。

 本当は飛び跳ねたい気分だけど、さすがに疲労が俺の体を蝕んでいる。

 ごめんリーダー。後のことは任せてもいいかな……?

 疲労困憊による睡眠欲のせいで、俺の瞼は段々と重くなっていく。そして、数十秒も経たないうちに俺の意識は手放されたのだった。

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