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圧倒的な戦力差

 謁見の準備が整ったことで、俺を含めた三人は王室へと足を運ぶことになった。

 いつ見ても綺麗な煌めきを発している装飾品。目に入るだけでチカチカ点滅してしまう。

 そんな場所に、俺を含む場違いな人間が足に地を付けている。

 普通なら緊張してしまうんだが、この部屋に失礼するのが二回目だからかそれほど心臓の鼓動は高鳴っていなかった。

 まあ、それどころじゃない事態が頭の中にあるからかもしれないけど……。


 俺、サマリ、ジェスの他にも、アリーの肩を借りたユニもそこにはいた。

 彼女は唯一と言ってもいい魔族で味方の存在だ。怪我をしていても同席しなければならないんだろう。


 じきに王様が現れる。別の扉からやって来た王様の後ろにはリーダーが歩いている。

 二人共、危機感以外の感情を捨て去っているようだ。王様が玉座に座るまで一言も発せず、口を開いたのも王様からだった。


「……話は聞かせてもらった。ケイ」


「王様。事態は深刻を極めています」


「うむ。先程の兵士の情報が周知されていると思うが、ハーデッド国が壊滅。さらに、壊滅させた存在は魔王を筆頭とした魔族の軍団」


「ええ……。早くなんとかしなければ、魔王の思うがままです」


 王様の憂いた表情がみんなの不安を煽っていく。だが、このまま何もしないのはダメだ。

 対策を考え、魔王に対抗していかなくては……。

 もちろん、王様もそれは分かっているようだ。だけど、彼の顔は依然として暗いままだ。


「そうだな……。だが、ケイ。兵士の情報はそれだけではないのだ。ハーデッド国の近場にある村と国。それらが一瞬にして壊滅したとのことだ」


「モンスターの襲撃がそんなに早いんですか……!?」


「その数はざっと……3000はいるだろう」


「3000!? そ、そんなに!」


 何という数だ。膨大なモンスターの量。それだけあれば、国を壊滅することも容易い。

 だから、ほぼ一瞬にしてハーデッド国は廃墟と化し、近場も犠牲になったのか……。


「……きっと、村を襲っていたモンスターもそこには含まれているの。恐らく、半分はそのモンスターなの」


 申し訳なさそうにユニが口を開く。

 喋ると傷に響くのか、彼女は腹部を抑えながら苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


 ……それにしても、半数か。この世界には、それだけ多くのモンスターが潜んでいたのか。

 そして、同時に多くの血を流してしまった。両者とも、な。

 ……だが、まだ引き返せるはずだと信じたい。魔王によって争い事を強制された俺たち。きっと、説得で分かり合える日がくるはず……。

 そう思っていた矢先にこの出来事だ。もしかしたら、亀裂は二度と元に戻れないのかもしれない。


「ここ数日でモンスターが消えた話……。それはきっとモンスターが魔王に負けて仲間に入ったということなの」


「王様、俺たちが集められる戦力はどのくらいになるんですか?」


「……この国限定で言えば、100もいないだろう。この間の襲撃で兵士も減った。しかし、ギルドの人間を合わせてもそれくらいしか用意できない」


「おいおい、数が違い過ぎるぜ? それじゃ、瞬殺だろうな」


 ジェスがニヤニヤと戦力不足を指摘してくる。未来を予め知っている彼だからこそ、というのもあるのかもしれない。

 だが、それを除いても、彼のその表情は今の俺たちには不愉快にしか映らない。

 そんなの、こっちだって分かってるんだよ……!

 例え、人間が集まっても国の戦力じゃモンスターに太刀打ちすらできない。それは俺がよく知ってる。

 せめて村の人間……戦い慣れた人間を集めないことには……!


 意気消沈気味の王様だが、ジェスに向かって対策案を話し始めた。

 恐らく、リーダーと考えた作戦なのだろう。


「……一応、近隣の諸国と村に避難を呼びかけ始めた。ステル国を最終防衛線にし、戦えない人間はより遠くへ逃げてもらい、戦える人間は水面下で戦う……」


「その数を合わせたら、どのくらいに……?」


「予想では250くらいだろう。もう少し時間があれば、もっと遠くの国と村に協力を呼びかけるんだが……」


「時間にして、後どれくらいに?」


「リーダーや調査員の調べによれば……数時間後、魔王はこのステル国へ到着する」


 数時間。そんなのじゃ、集められる戦力はたかが知れているというもの。

 隊長がもう少しだけ、あの村を信じていたら……! 今頃この国の戦力は、今までとは比べ物にならないくらい強力になっていただろう……! オーヴィンの彼らだってそうだ。彼らにも戦える力はあった。それを敵に邪魔されなければ……。

 魔王の作戦が、ここにきて効果的に働いているということかよ……!!


「あの、物申してもいいですか……?」


 おずおずと、アリーが手を挙げる。自分が発言しても良いものか、言いあぐねているようだ。

 王様は優しい笑みをして彼女の発言を許した。


「どうしたのかな? 話してみなさい」


「えっと……その、今から遠い国に逃げてみんな集まってから戦うというのはどうですか……?」


 いい案に思える。今は逃げる。そして、戦力が整い次第魔王率いる魔族へ総攻撃を仕掛ける。

 ……しかし、王様は首を縦には振らなかった。


「それは難しい。魔王の進撃速度と我々がその国へ逃げる速度を比較した結果……追いつかれてしまう結論がでたのだ」


「そんな……」


「それなら、まず我々と、近場の国・村が魔王を食い止め、遠くの国で戦力を蓄えてもらう方法が一番可能性があるのだ」


 撤退戦。完全にこちら側の負けが決まっている。戦力を見れば明らかだが……。

 しかし、リーダーの目には力が入っていた。まだ、彼女は希望を捨てていない。そう感じ取れた。


「……ですけど、ただ『戦う』というわけではありません」


 リーダーの言葉が気にかかる。まだ何か策があるのだろうか。

 その時、ユニが目を丸くさせた。


「リーダー……まさか……!」


「ええ。ユニちゃんの思っている通りです。この場面で、私たちはモンスターに呼びかけを行います」


「魔王に付いてしまった『この世界で暮らしていた』モンスターの説得ってことか」


「はい。ケイさんも分かっている思いますけど、この数を相手に戦うのは無謀としか言えません。かと言って逃げる暇もありません。ですから、モンスターたちの最後に残っている良心を……この世界にやって来た時に持っていた強い心に訴えかけたいんです」


「……分かったの。リーダー、私が責任をもって呼びかけるの」


 ユニの強い声が響く。彼女の決意はすでに固まっているようだ。

 ここまで来てしまっては、もう引き返せないだろう。それに、彼女は信じている。この世界に来たモンスターたちの思いを。

 だから、説得しようと努力を重ねてきたんじゃないか。計画は遅れてしまったけど、その意思は変わらない。

 ……そんな彼女が信じているのなら、俺だって信じなきゃ嘘だぜ。


「ありがとう、ユニちゃん。あなたのその言葉が、一番嬉しいです」


 自分の計画を否定されなかったのが余程嬉しかったのだろう。

 リーダーはようやく憑き物が落ちたような表情を見せてくれた。

 しかし、そんな雰囲気のところをジェスの横やりが入ってしまう。


「……で、どうやって呼びかけるつもりなんだい? まさか、モンスター一人一人訪問して『戦いを止めて下さい』……なんて、言うつもりじゃないだろうな?」


「それは……確かに……。でも……私の……」


 いい案だと思ったが、ユニもリーダーもそこまでは考えていなかったようだ。

 何かを言いかけたリーダーだったが、すぐにその言葉を引っ込めてしまう。何かを迷っているようだ。

 ……何かいい方法はないものか。その答えをくれたのは、よりによってサマリだった。


「――あるよ。ユニちゃんの声を届ける方法」


「サマリ……さん? 本当なの?」


「うん。声ってのは空気の振動なんだよ。だから、私の魔法……地と風の魔法を使う」


「おいサマリ。それって具体的にはどうやるんだ?」


「地の魔法で振動を増幅させ、風の魔法でそれを遠くまで届ける……だから、私がユニちゃんの声の増幅器になるってことだね」


 なるほど……そういう使い方があるか。素直に感心してしまう。

 だが、事態はそう甘くないようだ。その証拠として、リーダーが血相を変えていた。


「待って下さいサマリさん! それではあなたに負担が……!!」


「……大丈夫です。私の命なんかより、この戦争を……もう、無意味な争いは終わりにしたいから」


 ニコッと笑う彼女。まるで、自分が傷つくのを理解していないように……。

 いや、本心で分かっているんだ。それなのに、彼女はさも何ともないように振る舞っている。


「サマリ……さん。でも、サマリさんは……」


「ユニちゃん、私はちゃんと言ったはずだよ? 私の中でもう決着はついたの! だから気にしないで!」


 ユニの近くに行ったサマリは、彼女の頭を優しく撫でた。

 ユニの目から溢れ出る涙の粒。それを、サマリが指で拭う。


「もー……何勝手に悲惨な目を想像してるのよ。まだ死ぬって決まったわけじゃないよ!!」


「でも……サマリさんが傷つくのは……」


「私がいっぱい傷つく分、ちゃんとモンスターを説得してよね? じゃないと許さないんだから」


 文句を言うサマリだが、彼女の表情は穏やかだった。

 いつものおどけなんだろう。こんな状況になって、今更気にし始める彼女が死んだという夢。

 ……いや、そんなこと、俺が絶対にさせない。みんなを守ってみせるんだ。みんなから受け継ぐこの力で……!!


「ケイ。これがサマリの死ぬ運命かもしれないな」


「そんなことない。俺が守る」


「……さすがは伝説の人物だ。ご立派だね」


「ジェス。何故お前は俺をそう呼称するんだ?」


「ん? 何故って、オレの未来ではその界隈では有名人だからさ。一日にモンスターを1000体倒したことがあるんだって?」


「え? いや、そんなに倒してないが」


「……嘘だろ?」


「本当だ。多くても……150くらいか?」


 俺の言葉を聞いて、勝手に絶望しているジェス。

 俺は未来ではどんな伝説人になってるんだ……? この戦いが終わったら聞いてみるか。


「とにかく、話はまとまったようですね」


 この場をリーダーが取り持ち、まとめる。戦力としては、とてもじゃないが勝てるわけがない。

 だが……俺たちには味方になるかもしれないモンスターが、魔王の元に集っている。それを説得出来たら……俺たちはこの場所で、魔王を食い止めることができるだろう。

 ……辛い戦いになることは間違いない。ユニの声を届けきるまで、俺たちは踏ん張らないといけない。

 頼んだぞ、ユニ。……俺たちも、出来る限りの協力は惜しまない。

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