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※様子の変わったリアナさん……?

 授業が終わって、長いお昼休みがやってきた。

 ここでは授業が三つ終わった合間に昼休みがある。

 普段より長く、一時間はあろうかという休み時間。それが昼休み。

 通常はすぐに授業が始まって休んでられないんだけど、この時間だけはゆっくりと体を休めることができるのだ。

 お友達とお喋りするのもよし、机で突っ伏して寝るのもよし、どこかへお出かけしてもいい。昼休みの間に戻ってこれる距離限定だけど。


「ふぁぁ……ねむ」


 体を動かした授業の後は、どうしても眠くなってしまうもの。

 体に含まれている魔力が少なくなることが原因なのかな? とにかく、今の私は少し眠い。

 こんな時は外に出て大自然の中で、うたた寝するに限る。お友達と食事を済ませた後、私は早速、学園内の庭へと直行した。

 外で授業してたから、清々しくなるほどの青空が広がっているのは分かっている。だから、私はそんな中で眠れることを嬉しく思って、ウキウキ気分で庭へと到着したのだ。


「うーん……! いい天気だと、リフレッシュも一段と変わってくるんだよねー」


 大きく背伸びをして今日の寝床を探す私。

 今日はっと……。うん。あそこがいいな。

 地面に座り込んでしまうのは少し行儀が悪い。だから、私は木漏れ日が漏れているベンチで寝ることにした。

 こんな生活を長く続けているから、ちゃんと目覚める。昼休みが終わる大体ちょっと前に起きれるように練習したんだから。

 ……けーくんにこんなことを言うと、苦笑いしながら別のことを練習しろって怒られちゃうかな?

 でも、眠いのはしょうがないもん。ここでリフレッシュして、午後の授業に備えなくちゃ。

 口を大きく開けてあくびをし、私はベンチに横たわった。

 時計台の鐘の音が鳴り響いたけど、気にしたら負け。あれはただの環境音と考えなきゃ。


 気持ちのいい空気が私の鼻から肺へと入り込み、体に溜まっていたストレスを吐き出してくれる。

 もしかすると、学園にいて一番楽しい時間帯かもしれない。


「……ねえ」


「……んぅ」


 ん? 誰かが話しかけてきたような……気のせいかな。

 友達もこの辺りで私が寝ているってのは分かってると思うし、わざわざ話しかけてくることもないはず。

 だったら、もう私は夢の中? 夢でもこんなにキレイな空気を吸えるなんて、得したかもしれない。

 でも、声の主は私の目覚めを促すかの如く、声を大きくし始めるのだった。


「……ねえ。お願い、起きてくれない?」


「……いやぁ……邪魔しないでよ~……」


 オリーブちゃん? それともレーリーちゃん?

 うーん、どっちの声でもないなあ。とにかく、今の私は眠いんだから無視無視。きっと諦めてくれるよ。


「ア……アリー……! 頼むからボクの言うことを聞いてよ……!」


 ボク? 声色的には女性だと思うけど、男の子なのかな?

 もしかして、転校生とか? ここに来てよく分からないから、私を頼ろうとしたのかな。

 だったら、助けてあげないと……。私はベンチから起き上がって眠たい目を擦った。


「……もぅ……しょうがないなあ……」


 そうして目を開けると、そこにはリアナさんがいた。

 彼女は私が目を覚ましたことにホッとしたような表情を見せてくれる。

 でも、何だろう。いつものリアナさんとは雰囲気が違うような気がする。何というか、顔つきもキリッとしてるし、歴戦の勇士みたいな風貌だ。

 それに、いつもは付けてない髪飾りもある。装飾は無いみたいで、ただの髪留めにしか見えないけど……。

 その諸々が不思議で、私は首をかしげてしまう。


「リアナさん……ですよね?」


「……そ、そうだよ」


「いつも『ボク』って言ってましたっけ?」


「それは――」


 太陽が陽の光を地面に与えてくれる晴れやかな午後。

 体温をちょうど良い温度にまで冷ましてくれる涼しい風。目の保養になる庭の景色、日光と森のコンビネーション。

 こんなにいい天気だからこそ、この瞬間まで、私は次に起こる出来事なんて予見できなかった。


「――アリー! そこから下がるの!!」


「――!?」


 私を呼ぶユニちゃん。どうして学園に来たのかなんて、聞いてる暇もないくらい、今の彼女は血気盛んだった。

 いわゆるユニコーンの状態で私とリアナさんの間に割って入ったユニちゃん。彼女はリアナさんに対して一言も発せず、後ろ足を突き出してリアナさんを蹴った。


「ぐっ!?」


 リアナさんは予期しないユニちゃんの攻撃に防御する余裕もなく、後ろの森の中へと吹き飛ばされてしまう。

 ユ、ユニちゃん……! なんてことを……!! イタズラだとしても酷いよ。

 人型に戻った彼女を怒る役目は、私だよね。


「ユニちゃん! ダメだよそんなことしたら!」


「気をつけてアリー。リアナさんはアリーを狙っていたの!」


「……え? 狙ってた? どういうこと?」


 まったく話が分からない。ユニちゃんは血相変えて私の安全を守ってくれる。

 けど、肝心の私が何も分からないのでは少し不快感を覚えてしまう。


「一から話してる暇はないの。ただ……リアナさんは私たちの敵だったの」


「敵? 嘘……だよね?」


 私のバカ。嘘だったら、ユニちゃんがリアナさんを蹴るわけがないじゃない。

 でも、本心で分かっていても言葉に出してしまった。だって……リアナさんはけーくんの故郷で鉱石を見つけてくれた人じゃなかったの?

 それは……私たちを騙すための罠に過ぎなかったの?


「でも良かったの。リアナさんより先に付くことが出来て……」


「う……うん。でもユニちゃん。リアナさんは……」


 そう言いかけて、私は森の奥の方に視線を移す。

 よろめきながら立ち上がったリアナさんが、何か銃のようなものを取り出しているのが見えた。

 銃って、まだ技術的に難しいって言われてる武器じゃなかったっけ? 学園で習ったけど、形としても完成してないって聞いてたよ……?

 その銃が、リアナさんの手に含まれている。得体の知れない恐怖が、私の中で渦巻き始めた。

 自然に震えていたのだろう。ユニちゃんは私の怖がりに気がついて、そっと肩に手をかけてくれた。


「大丈夫なの。ケイくんが来るまで、私が全力でアリーを守るから」


「あ、ありがとう……ユニちゃん」


 でも不安だ。ユニちゃんが負けちゃうかもしれないって不安じゃない。リアナさんについてだ。

 今までの知っているリアナさんとは別人。まるで、最初から前のリアナさんがいないかのように。

 その証拠に、すでにリアナさんは表情を固くしていた。


「ユニ……ちゃん。どうしてボクに攻撃するのかな?」


「そんなの決まってるの! アリーに危害を加えようとする悪いヤツだから!」


「そんなつもり、ないんだけどな」


「問答無用なの」


「……そう。だったらボクも手加減はしないよ。時間がないからね」


 リアナさんは銃を手に持ってユニちゃんにその丸い穴を向ける。

 あれは……一体……。


「面白い武器を持ってるの……。それも誰かさんの技術を奪って作ったものなの?」


「……殺しはしない。ただ、ちょっとお話させてもらうだけ」


 まるで、自分に言い聞かせるようにリアナさんは覚悟を決めて睨みつけてくる。


「――っ!」


 大きな破裂音が聞こえたかと思うと、ユニちゃんは私に覆いかぶさって地面へと倒れた。

 その時に見えたベンチ。魔力がそのまま丸まったものがベンチに当たると、ベンチは四散して原型を無くしてしまった。

 銃……恐ろしい武器。こんなものをリアナさんが使ってたなんて……。


「あ、危なかったの」


「大丈夫だよ。殺さないように調整はするつもりだから。その辺、ボクは上手いんだ」


「ふざけないでほしいの!」


 ユニちゃんが本気をだす。つまり、角を取り出して変身するんだ。

 彼女の体が一気に成長する。大人の体になり、艶めかしさ全開のスタイルになる。

 少し、彼女の体型が羨ましいと思う。今、そんなことを考える暇はないんだけど。

 口調も、幼いユニちゃんからガラリと変わってしまう。


「ふぅん。リアナ、私に本気を出させるなんていい腕してるじゃない」


「ユニ……大きくなるんだったね」


「あら。この形態をご存知なの? でも、ご褒美はあげないわよ?」


「例えその姿でも、ボクには勝てないよ」


「随分自信があるのねえ。いいわ。秒速で決着をつけてあげる!」


「……できるかな? 今のボクに向かって」


「随分な言い草ねえ。その言葉、戦いが終わった後でも吐けるといいわね!」


 ユニちゃんが直ぐ様リアナさんに向かっていく。

 大丈夫。今のユニちゃんなら敵はいない。きっとリアナさんを倒してくれる。

 ……だけど、何だろう。この気持ち。今のリアナさんを見ていると、心が苦しくなる。胸の奥がぎゅーっと痛む。


「――チッ!」


 リアナさんはユニちゃんへ向かって銃撃を撃ち込んでいく。けど、銃弾の軌跡を完全に見破っているユニちゃんは最低限の動きで回避していく。

 軽いステップをするだけで、彼女はリアナさんの真後ろへ近づくことができた。


「じゃ、終わりね~」


「――やらせないっ!」


 手刀をかまそうとしたユニちゃん。

 しかし、リアナさんは間一髪で反応し、地面に転がって逃げる。

 詰めた距離がまた遠くなる。けど、ユニちゃんは再びその距離を近づけていくだろう。


「逃げてばっかりなら、さっきとおんなじよねえ? 今度は学園を投げ飛ばすのかしら?」


「……オプションチェンジ」


「は? 何言ってるの?」


「ユニちゃんと戦うには、銃じゃダメだと思ったからね。武器の形状を変えさせてもらったよ」


 そう言ったリアナさんが握っている武器。それはもう銃じゃなかった。

 いつの間に剣に変えたのだろう……ううん、違う。あれは弾丸が発射されるところに金属品が装備されて剣になってるんだ。

 剣の刀部分がぼうっと光っていることから、あの刀は魔力で作ったもの……。


 何かが私の心をざわめかせている。だから、私はある準備をする。

 大丈夫、落ち着いて行動すればきっと上手くいく。できれば、これが発動しない方がいいんだけどね……。


「へぇ、割りと融通がきく武器なのね」


「ボクはこれでユニちゃんを……。だから、絶対に負けないんだ」


「御託はこの戦いが終わってから聞かせてもらうわ!」


「――ユニちゃん、変わらないんだね」


 一瞬だけ、クスリと笑ったリアナさん。

 それに気づかず、ユニちゃんはさっきの戦法で再びリアナさんへと近づいていく。


 準備に時間がかかる。焦ったら、計画が意味のないものになってしまう。

 さっき……成功したじゃない。うん、大丈夫だから……。頑張れアリー。


 ……だけど、リアナさんだって負けてなかった。

 彼女は銃を剣に変化させる前後で、戦い方が別物になっていたのだ。

 ユニちゃんの動きを逐一観察し、彼女の動きを目で追っている。そう、ユニちゃんに付いてきているんだ。


「――これで終わりだよ」


「なっ――!?」


 リアナさんが振るった剣の閃光。

 それは完全にユニちゃんを捉えていた。彼女に刻まれるリアナさんの剣の刻印。そして飛び散る血液。

 それが地面の草に吸い込まれる前に、リアナさんはユニちゃんを蹴り飛ばしていた。


「グウッ!」


 草むらに体を打ちつけていく度にうめき声を上げるユニちゃん。彼女は最後に森の入口で倒れ込んでしまった。

 彼女の頭にくっついていた角が外れたことで、元の幼いユニちゃんへと戻ってしまった。


「ユ……ユニちゃん……!!」


「……ど、どういうこと……なの」


 自身も負けるとは思っていなかったのだろう。

 ユニちゃんは明らかに動揺した顔を泥まみれで見せていた。

 居ても立ってもいられず、私はユニちゃんへと駆け寄る。


「大丈夫!? ユニちゃん!」


「アリー……」


「意識はあるんだね。じゃ、早くここから逃げよう!」


「アリーだけで……逃げるの……」


「そんな! 出来ないよ!」


「リアナは……アリーを狙っている……だから、アリーが逃げ切れれば、私たちの勝ち……なの」


「そんな……!」


 私たちの会話を聞いているのか、ジリジリとにじり寄ってくるリアナさん。

 私が逃げれば勝ち? でも、ユニちゃんを置いては逃げたくない。

 だから、私がとった行動は……。


「逃げるよ、ユニちゃん!」


「……ア……アリー」


 私はユニちゃんを背負って走り出した。

 しかし、これではすぐに追いつかれてしまう。だから、私は『ザブゴラ・ヒノ』を発動させた。

 私の手から放たれる炎の大群。無数に飛び散る火の粉の狙いはリアナさんじゃない。


「クッ! 何を!」


「私が逃げれば勝ちなんだよね!? だったらこうするまでだよ!」


 ユニちゃんが森の近くで倒れていたのも幸いした。

 火の粉の狙いは森の木々たち。敢えて、私たちが逃げる方向へ炎を放ったのだ。


「――ユニちゃん、覚悟はいい?」


「……なの」


「分かった。でやぁー!!」


 炎は燃え盛って燃焼範囲を増していく。黒々しい煙まで立ち込め始め、私たちが逃げる先は地獄としか思えない。

 だけど、ここを抜ければ天国にいけるんだ。私は死ぬわけにはいかない。生きるんだ。

 意を決し、私はユニちゃんを背負って炎の中に身を投げた。


「アリー!!」


 後ろでリアナさんの声が聞こえる。

 確かな地面の感触。森の中だからかひんやりしてて気持ちがいい。私たちの頭上が燃え盛っているのもあって。

 聞こえてくる私とユニちゃんの吐息。地面に触れていた手を見て、私は生存したことを確信した。


「……よし」


「アリー……私を置いて……」


「ここまで来たんだもん。絶対に置いてかないよ、ユニちゃん」


「……ありがとう……なの」


「うんっ」


 燃え盛る森の中を、私はまっすぐ走っていく。

 道なんて分からない。だけど、ここで黙っているよりはマシというもの。

 それに、こんな大事になったらけーくんが森の中から探し始めてくれるはず。


 後は……私の持久力に掛かっていた。

 私の体力が尽きた時、それが二人の終わりの時。

 今の段階でどれだけリアナさんと距離を稼ぎ、けーくんに近づけるか。


 絶対に生き延びるという覚悟で、私は足を動かし続けた。

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