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彼女の正体

「……ああ。偶然に、な。リアナとアリーが言ってた鉱石の名前に違いがあったんだ」


「オケージョンストーンのこと、ですね?」


「アリーはラジアルロックと言っていた。リーダーにも確認したが、鉱石の名前を変更する予定は今のところない。これはどういうことなんだ?」


「それはリーダーさんが嘘を言ってるんです。私のことを信じないなんて、ケイさんも酷いですね」


「リーダーが嘘をつく? まあ、それもあるかもしれない。だが……リアナには悪いが、信じるに値する理由がリーダーの方にあるんだよ」


「へぇ、それって何なんですか?」


「……リアナ、どうして調査員だなんて嘘をついてたんだ? いや違うな。鉱石を集めて何が目的なんだ」


「…………」


 リアナは黙り込んでしまう。

 だが、ここで彼女が語らないということは彼女の中の闇が本心を隠してしまっていることと同じだ。

 つまり……彼女は悪い目的で調査員と嘘をつき、鉱石を集めていたことになる。


「リーダーが調べてくれた。お前の名前でな。それで分かった、鉱石調査員にお前がいないことを」


「それもリーダーさんが嘘を――」


「俺が確証を得ないで言ってると思ってるのか?」


 この数日間、何もしなかったわけじゃない。もちろんリーダーの検索結果を疑って自分の足で調べたんだ。

 その結果……リアナという調査員は『存在しない』ことが判明した。


「俺が調べたんだよ。お前の名前で」


「……そう、ですか」


「リアナ。お前は一体何者なんだ? 俺たちを騙して……何が目的なんだ」


「ケイ……さん。私は……」


「お前はジャネストーンを見つけてくれた。味方だと信じたいんだ。だから話してくれ……。その問題を、俺たちで解決しようじゃねえか」


「……くっ」


 リアナは俯き、体を震わせる。

 泣いているのだろうか。とにかく、俺たちならきっと解決できる。今までそうだったんだから。


「ねえ、ケイさん……。私を本当に『味方』だと思うのであれば、目を閉じて後ろを向いてくれませんか?」


「何?」


「……出来ませんか? あ、ユニちゃんも同じくして下さい」


 後ろを向いて目を閉じる。それはつまり無防備になれと言うのと同じことだ。

 これは俺を試しているのか? 本当に自分を信じているのか、テストをしようというのか。

 ……だったらやってやるよ。リアナのためにな。


 俺の態度を肌で感じたのだろう。ユニは俺と同じ行動を取った。

 つまり、リアナに背を向けて目を閉じる。


「分かった。こうすればいいんだろう?」


「ありがとうございます。本当に……ケイさんは凄いんですね」


「……さあ、話してくれるか? どうしてこんなことをしたのかを」


「ええ。いいですよ……それはですね……」


 ようやく彼女の口から真実が語られる。

 その期待感を覚えながら、俺はゆっくりとつばを飲み込む。そして、剣の柄にも触れておく。

 そう、彼女に隠された一つの可能性を危惧して。


「――お前を殺すためだよケイ!!」


「――やっぱりな!」


 後ろで空を斬る剣筋。俺は剣を引き抜いて振り返ることなく、剣の腹でそれを受け止めた。

 金属音のかち合う音が聞こえたことで、ユニはハッとして目を開いたようだった。


「ケ、ケイくん! 一体何が……!」


「リアナ。そんなことで俺を抹殺しようとしても意味が無いぜ。やるならもっと計画的に動くべきだったな」


「へぇ……ボクの計画が分かったんだ。面白いよ。やっぱりケイは凄いや」


 本性を表したのだろう。リアナの口調はすでに『私』から『ボク』へと変わっていた。


「時折見せたお前の表情。それだけが不安だったんだ。だから、こうせざるを得なかった」


「ふうん……ボクの演技自体がバレてたってわけじゃないんだ。まあ、気づいても同じことだけどね!!」


 俺は受け止めている剣を川流れのようにキレイに返し、その動きを利用してリアナと向き合った。

 彼女の印象が変わるほど、今の彼女は『リアナ』ではなかった。

 素人同然だった彼女の戦闘スタイルも熟練の動きそのものになっており、顔つきも弱々しい頃から一変して醜悪に満ちている。何の飾りもない髪留めもない彼女のセミロングの髪も、今となっては怪しい揺らめきになっている。

 本当に彼女がリアナだったのだろうか。いや、現実を受け止めなければならない。俺は覚悟を決める。


「俺を襲うなら、本気でいかせてもらうぞ」


「いいよ。ボクだって本望さ。さっさと来なよ」


「――ハッ!」


 お望み通り、俺は先に仕掛ける。こういう時に仕掛けた方が負ける方が多いんだが、俺には関係のないことだ。

 動きを読まれないよう、距離を取ってからジグザグに進んで彼女に近づく。

 雷の軌道の如く瞬時に距離を詰める。そして、剣で縦に切り裂こうとする。


「クッ!!」


 相手からすれば間一髪と言うべきか。リアナはギリギリのタイミングで俺の太刀筋を弾いた。

 俺はその勢いに任せて、横に薙ぎ払う。それはさすがの彼女の避けられなかったようだ。


「ガァッ……!? っ……やっぱりやるねえ。ケイは」


「おいおい、防戦一方じゃないか? そんなんで俺を倒そうとしてたのかよ」


「ふふっ……ボクの真髄はまだまだだからね」


「何だと?」


「ボクがオケージョンストーンを探していた理由……それが分かるかい?」


「ラジアルロックは最近魔力の抽出が確立しそうだということだが……まさか!?」


「そ。ボクはすでにその技術を駆使した武器を持っているんだ!」


 そう言うと、リアナは剣の柄に貼り付けられたダイアルを回す。

 カチャカチャと歯車特有の断続的な音が鳴った後、彼女の剣は異常な発光を見せた。

 これがラジアルロックの力だってのか……。面白い。


「まあ、これでケイに勝てるとは思わないさ。でも、魔力はね!」


「どうやって技術を入手したかは分からんが……お前がどんな技術を使おうとも、俺は絶対に勝ってみせる!」


 リアナが剣を構える。すると、彼女の周辺に魔法陣が自動的に現れた。

 まるで、最初からそこに印されていたかのように、突然現れたのだ。

 使用できる魔術は強力な物が多いんだが、通常、魔法陣は地面に描く手順――呪文詠唱――がある。それがネックで戦いでは滅多に使われることはない。地面に記述するなら、尚更長い時間が必要だ。


「驚いただろう? これがボクにしかない技術さ」


「お前にしかない……? 嘘をつくな。どうせどこかから技術を盗み出したんだろ」


「ふふっ……『今』はそうか」


 不敵な笑みを絶やさないリアナはその魔法陣を操り、自分の前に突き出す。


「さあ……ボクの魔術を見せてあげるよ。『ヒノヴェーブ』」


 彼女が起動の呪文を唱える。

 すると、魔法陣から強大な炎が俺に襲い掛かってくる。

 当然避けるが、炎は敵を追尾する性能を持っているようだ。ただ右に避けただけじゃ、お引き取り願えないらしい。


「どうするケイ? このまま逃げ続けるか、焼かれて骨だけになるか」


「……どっちの選択肢もないな」


 炎? だったら凍らせてやればいいだけの話だ。

 俺は剣に力を込めて、冷凍の魔法を思い描く。すると、剣の刀が青白く反応を見せて準備を整えてくれた。


「だったらどうするつもり? ケイが生き残る確率なんて――」


「これが答えだよ!!」


 剣を炎に向かって薙ぎ払う。

 すると、剣から冷気が飛び出していき、それは炎を包み込んで呆気なく勢いを殺してしまった。


「あ……あ……」


「どうした? 驚きすぎて声も出ないか?」


「……いや、計画通りだよ、ケイ」


「何?」


「やっぱり、ケイを殺すことはできないか。じゃあ……どうしようかな~?」


「何を考えている? リアナ」


「ん~? 決まってるじゃないか。ケイを肉体的じゃなく、精神的に殺す方法を考えているのさ」


「精神的だと?」


「……決まった! じゃ、こうしよう! アリーちゃんがいたっけなあ。君には」


「アリーだって!?」


「君を殺せないなら仕方ない。アリーを殺すしかないじゃないか。あーあ。君が強すぎるからだよ。残念だねえ」


「貴様……!! アリーに手を出したら絶対に許さん!」


「君が許さなくても、ボクは絶対に実行してみせるよ」


「させるかっ!!」


 アリーに狙いを変えるだと!?

 リアナ……お前はそこまで最低な人間だったのか!

 怒りに震えながら、俺はリアナを殺そうと距離を詰める。

 だが、リアナは再び魔法陣を描く。それは彼女の下にある地面から移動して廃墟である家々に取り付いていく。


「ここを場所に指定したのも、ボクの作戦の内だってこと、忘れてないよね?」


「どっちにしても、ここでお前は終わりだ! リアナ!!」


「――『リデヴェブ』」


 彼女が呪文を唱え、家が動き出す。

 まず、家は粉々に粉砕される。しかし、その大きなガラクタは次々に俺に襲い掛かってくるのだ。

 粉塵を巻き上げながら、さながら砂嵐のような廃墟のガラクタ。

 俺は大きい破片は剣で斬りつけていくが、細かいものは炎の魔法で燃やし尽くすしかない。


「ハハハッ! ボクを探せるなら探してみなよ! ま、無理だと思うけどね!」


「ふざけるな! それがお前のやり方か!!」


「うん。これがボクのやり方。じゃあ、先に学園に向かってるよ。君が着いた頃には、アリーは胴体と頭が離れちゃってるかもね!」


「リアナ!!」


 彼女の勝ち誇った嘲笑が粉塵舞うこの土地に広がっていく。

 必死に家々の破片を処理している俺は、その声を恨めしく思いながら怒りを心の中にしまい込んだ。

 ここで激情してもしょうがない。俺には……切り札があるんだ。


「ユニ!」


「分かってるのケイくん!」


「頼む! 先に行ってアリーを助けてくれ!」


「任せてほしいの!」


 事の一部始終を見ていたユニに全てを任せるしかない。

 彼女がユニコーンの姿になって学園に迎えば、ここからなら鐘の音一回でたどり着ける距離のはずだ。

 颯爽と学園へ向かうユニを鼓舞するかのように、タイミングよく鐘の音が一回、鳴り響いた。


 頼んだぞユニ……。俺もすぐにそっちに向かうからな。

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