食い違う名称
リアナの任務は無事に終了した。彼女はオケージョンストーンという鉱石を手に入れ、彼女はきっと鉱石調査に戻れることだろう。
しかし……精霊の森で見せた彼女の表情。それには裏があるように見えた。
それは彼女に対する不安感を増していく。表と裏。二つの顔を持っているような錯覚さえ覚える彼女の言動。
後で色々確認した方がいいかもしれない。彼女には謎が多すぎる。
村の洞窟でリアナと出会ってから今まで、俺は彼女について知らないことが多すぎる。
……極秘任務なら、リーダーが詳しいかもしれないな。彼女に確認してみるのもいいかもしれない。
とりあえず、今は自分の家に戻って休もう。
「あ、おかえりなのー」
家に帰ると、中はユニがくつろいでいた。彼女は居間でごろごろしながら、俺を出迎えてくれる。
それにしても本当に馴染んだな、コイツ。もはや遠慮という文字すら忘れているようだ。まるで自分の家みたいにしやがって……。やはり小屋に入れるべきだったか。
そんな冗談を心の中で思いつつも、悪態をつくことにした。
「ユニ」
「何なのー? ケイくん」
「お前は家でゴロゴロ寝っ転がってるだけなのか? アリーは勉強してるし、サマリだってギルドの仕事があるんだぞ?」
「私もちゃんとお仕事してるのー」
「ほう。どんな仕事だ?」
「この家の平和を守ってるの。自宅警備員とかいうやつなの」
「……ほほう」
「一家に一匹、ユニコーンの時代なの!」
「……なるほどなるほど」
「今ならキレイなお姉さん変身機能までついてきて、金貨五十枚なの!」
「あれはキレイじゃないだろ。ただの変態の間違いだ」
「え?」
そう言って、ユニは珍しく真剣な眼差しになって角を取り出す。
あ、もしかして怒ってる?
「そ、そこまで怒るなんて思わなかったよ。悪かった」
しかし、彼女も思うところがあるのだろう。
すぐに角を引っ込めてため息をついていた。
「……ハァ。ちゃんと制御できたらケイくんもメロメロなのになー」
「どうして制御できないんだよ」
「うーん、何でだろー?」
腕を組んで深々と考え始める彼女。
……俺が元々の角をへし折ったからじゃないよな?
……って、何でこんなほのぼのとユニと会話してるんだ。
「じゃ、俺は寝るぞー」
「分かったの。おやすみなさいなのー」
「ユニ。お前もゴロゴロせずに何か動けよ……」
「実は後でリーダーさんのところに行こうと思ってたところなの」
「ん? リーダー?」
「なの」
……ちょうどいい。それに俺も乗っかろう。ついでにリアナについて教えてもらおうじゃないか。
俺は自分の部屋へと向かいつつユニに伝言を残す。
「その時になったら起こしてくれ。俺もリーダーに用事があるんだ」
「了解なのー」
ベッドに倒れ込む俺。まあ、戦士には休息も必要ということだ。
そんなこんなでベッドで眠りこける……が、すぐにユニの声が耳元で鳴り響いた。
「ケイくんケイくん! 起きて!」
「……何だよ、ユニ」
「私、リーダーさんに会いにいくの。一緒に行こうなの」
「え? 早すぎないか? まだ寝てから全然時間が経ってないじゃないか」
「ケイくん、嘘はいけないの。もうお日様も疲れてきてるのー」
「……そんなにか!?」
ガバッと起き上がる。すると、確かに陽の光は地面へと近づきつつあった。
確か、こっちに帰ってきた時にはまだ陽はずっと上の方にあったはずだが……。
く……、あまりに熟睡し過ぎて夢さえ見る暇がなかったってことかよ。
「大丈夫なの? ケイくん。結構疲れてるのー?」
「いや……大丈夫だ。そっか、もうそんな時間か」
ユニが頷く。……しょうがない。俺のせいで彼女を待たせるのも悪い。
覚悟を決めて、俺はベッドから這い出た。目覚めを促すため、自分の頬を強く叩く。痛い。しかし、目は覚める。
「よし、じゃあ行くか」
「分かったのー」
「――ただいまー」
「……あ。アリーなの」
マジか。アリーが帰ってくる時間まで寝てしまったのかよ。
すでに着こなしている学生服のまま、アリーは俺の部屋へ入ってくる。恐らく、俺とユニの声がしたからだろう。
この時間に俺がいることは珍しい。だからか、アリーは嬉しそうに俺を見つめていた。
「けーくん! 今日はどうしたの?」
「ああ……ちょっと寝るだけと思ってたのがこんな時間まで……な」
「そっか。ユニちゃんとお昼寝してたんだね!」
「アリー……! 私はそんなに眠ってないのー」
「えー? けーくんがいないこの時間はいっつも寝てるよー?」
「うぅ……」
……そうだ。ユニもアリーもいるこのタイミングにあのことを聞いてみようか。
ユニには悪いが、もう少し付き合ってくれ。
「アリー、実は今日リアナと一緒に鉱石の採取に行ったんだ」
「あ、ユニちゃんから聞いたよ。リアナさん、助けられた?」
「ああ。そっちはバッチリだ。そこで、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」
「何? あ、もしかして、何の鉱石を採取しに行ったか当てるクイズとか?」
「そう。その通り。じゃ、どんな鉱石か……アリーには分かるかな?」
「うーん……確か、精霊の森に行ったんだよね?」
片手を顎に触れさせながら、彼女の思考が始まる。
まあ、ヒントくらいはあってもいいかもなあ。でも、あのヒントだったら一発で分かるだろう。
特に、アリーのように石に詳しい人にとっては。
「それだけじゃ情報不足だよな? じゃヒントをあげよう。その鉱石を叩くと、叩いたところから放射線状に割れ目が広がっていくんだ」
「……あ、分かったよけーくん!」
「さすがはアリーだな。……で、正解は?」
「ラジアルロックだ! どう? 正解したでしょう!?」
「珍しいこともあるもんだな。不正解だ」
「えー!? ……けーくん、もしかして、正解したのが悔しくてわざと言ってないー?」
相当の自信があったようで、彼女は不満げにふてくされ始める。
いや、でも……本当に間違ってたし……。
「言ってない言ってない! ちゃんと覚えたんだぞ! リアナにも注意されたし、しっかりと頭に叩き込んでおかないとって思ったんだ」
「じゃあ、どんな名前だったの?」
「俺が聞いたのはオケージョンストーンだったな」
「……ふえ?」
「ん? 言い間違えたか?」
「ううーん……私に聞こえたのは『おけーじょんすとーん』だったけど。合ってる?」
「ああ。確かに俺が覚えた名前だ。聞いたことないのか?」
「うん。全然聞いたことないよ」
んん? どういうことだ?
アリーが間違ってる? それともリアナが間違ってる?
どっちも間違っているとは思えない。アリーは鉱石に詳しいことは前から知っての通りだ。そんな鉱石マニアの彼女が間違えるとは考えにくい。
逆に、リアナはスキルの制御が可能になるジャネストーンを見分けることができた。素人じゃ、あの石の区別はできない。
それに、リアナは鉱石を採取して元の調査員に戻る必要がある。わざと別の石を持っていく必要はないはずだ。
「……あのあの、アリー」
「どうしたのユニちゃん?」
「そのラジアルロックって、精霊の森にあるの?」
「うん。精霊の森にある鉱石で一番有名なのはラジアルロックくらいだよ」
「じゃあじゃあ、どの辺りで採取できるのー?」
「うーんと……あ、森の中心だったかな。そこにはラジアルロックがたくさんあって、一説によればそこのラジアルロックがオーブを生み出しているんじゃないかって説もあるんだよ」
「へー、勉強になったのー。……で、ケイくん。ラジアルロックとオケージョンストーン。同じところで採れたの?」
「えっ? ……なるほど。そういうことだったか」
ユニに感謝しないとな。
彼女の質問により、アリーの言うラジアルロックはオケージョンストーンと同じだということが分かった。
これで、両者が嘘をついていないってことになる。問題は何故両者の鉱石が違う名前になっているのか……。
その答えに近づくかもしれないものを、アリーが答えてくれた。
「もしかして……名称変更があったのかも」
「名称変更? 何だい、それは?」
「うん。鉱石って、使用する頻度が高いモノにはそれ相応の名前が付けられるんだ。一番頻度が低ければ『ロック』。一般的に使用する場合は『ストーン』。特殊な条件下で使用する鉱石は『マテリアル』という感じで」
「……つまりアリーが言いたいことは、使用頻度が上がったために名称の変更が起こったってことか」
アリーは真剣な眼差しで頷く。
なるほど、彼女の言うことには一理ある。リアナは鉱石の調査員だし、そこら辺の情報は常に最新のものが入手できるだろう。
だから、両者の名前が食い違ってもおかしくない。
「……でも、めったに名前の変更はないんだけどなー」
「そういうものなのか?」
「ううーん……私が知らないだけなのかなあ。ラジアルロックってそんなに使うかなー?」
頭を悩ませるアリー。ごめんな、学校から帰ってきたのにこんなに頭を使わせるようなことをしてしまって。
その答え……今までの疑問は全部リーダーに投げてやろう。あの本をペラペラやるあれできっと分かるに違いない……!
「よし、リーダーのところに行くぞ。ユニ」
「分かったの」
「あ、私も行きたいなー……」
話に混ざろうとしていたアリー。彼女が話して少ししてから、彼女自身のトーンがゆっくりと下がっていった。
さては、宿題があるんだな? それも厄介な宿題が。
「そんなに時間は使わないよ。すぐに帰ってくるから」
「むー……しょうがないか。うん、分かった。家で待ってる」
「今のうちに宿題やっとけよ」
「うぅ……けーくんは誤魔化せられないなー」
「ハハハ。じゃ、アリーのためにもさっさと向かおうか」
「了解なの」
アリーを家の留守番に任命し、俺とユニはリーダーの元へと向かっていく。
リアナのこと。そして、鉱石のことについて答えを出すために……。




