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リアナからの依頼

 しばらくしていると、博物館からアリーとユニを連れてリアナが出てきた。

 リアナの焦燥しきった表情から察するに、アリーとユニのパワーに気負けしたんだろう。あちこち見て回って歓喜する二人の子どもに大慌てで対処しようとするリアナの顔が思い浮んでしまう。

 ……悪かったリアナ。この埋め合わせは後で必ずする。


 目新しいものが多く、まったく飽きることがなかったのか、アリーは博物館を出ても目をキラキラさせて感嘆の声を上げていた。

 すぐさま駆け寄ってくる彼女を抱きとめるため、俺は立ち上がって彼女を待つ。

 ギュッと抱きしめてきた彼女。息早々と、彼女は中で起こった出来事を話そうと躍起になる。しかし、脳内の映像が言葉にならないのか年に比べてたどたどしい喋りになってしまっている。


「けーくんけーくん! 中ね、凄かった!」


「ほー、どんなところが良かったんだ?」


「うん! この国の色んな物があってね、すっごく勉強になったんだ!」


「じゃ、歴史に関しては満点取れるってことかな?」


「うっ……そ、それは分かんないけど……」


「ハハハ。まあ、頑張れ」


 アリーは十分に楽しめたようだ。

 一方のユニは比較的大人しく、歴史の現実を目の当たりにして喜んでいられる様子ではないようだ。

 それでも、悲しんでいる様子はない。


「どうだった? ユニ」


「……サマリさんの故郷のところを見てきたの。確かに悲惨だったの」


「……そうか」


「サマリさんには申し訳ないとは思うの。でも……このまま悲しみが広がるわけには……」


「ああ。サマリだって同じ気持ちさ」


「そう……なの?」


 俺の言葉を確かめるように、不安げに見つめるユニの瞳。

 俺は正直な気持ちで、彼女へ答えた。


「あいつはもう大丈夫だ。割り切れる心を持ってるからな」


「そう……だよ。ユニちゃん」


 地面に寝っころがっていたサマリが起きて立ち上がる。

 ……あっ。俺が立ったせいでサマリが倒れちまったか。ご、ごめん。

 しかし、寝ぼけている彼女はそんなことを気にせず、目の前のユニに対して言葉を続けていた。


「私の中で決着はついたから。私だけじゃない。モンスターだって犠牲が出てる。どっちかを滅ぼすしかないなんて、悲しいもんね」


「サマリさん。無理してないの?」


「うん! 私の想いを聞いてくれる人がいたから……もう大丈夫。そう……だよね?」


 よし。何とか二人は仲互いすることなく終わったか。

 せっかく知り合った中なのに仲間割れしてしまうのは悲しいからな。

 ここから、モンスターと人間の友好が始まってもいいくらいだ。


「――って後輩くーんっ!」


「な、何だよサマリ。いきなり大声出して」


「そこは恥ずかしがらんかーいっ!」


「何を恥ずかしがるんだよ? むしろ、恥ずかしいのはお前の方なんじゃないのか? 急に怒鳴るなんて……」


「くぅぅ……! 私に魅力がないってことなのかなぁ……」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも、サマリは先ほどの泣き虫から、いつもの彼女に戻っていた。

 とりあえず、一件落着といったところか?


 尽きぬ話題で盛り上がっている三人を後目に、俺はリアナの元へと向かう。

 疲れ切った彼女は博物館の壁にもたれかかってほぼ死にかけていた。

 アリーとユニの相手をしてくれた功労者だ。彼女を労わないと。


「……大丈夫か?」


「はぇぇ……子どもってすごいんですねぇ。特にアリーちゃんは動き回って付いていくだけでもやっとでしたよ~」


「悪いことしたな」


「あ、いいえ! とんでもないですよ! 私は楽しかったですから」


 そう言って、彼女は俺にそっと近づいた。彼女の手が俺の手に触れる。その次に紙の感触が俺の手のひらを包んだ。

 視線のみを自分の手に移すと、そこには小さく折りたたまれた紙切れが一枚あった。リアナ、彼女は俺に一体何を伝えようと……?

 彼女は人差し指でポーズをとる。今は何も喋らないように、そんな声が聞こえてきそうだ。


「……後で、お待ちしています」


「どういうことだ?」


「詳しくは、その紙の中に……。あなたしか頼れませんから」


「……まあ、一応中身を見るまでは頷かんぞ」


 ここでは人の目もある。だから彼女はこういう方法を取ったのだろう。

 その彼女の努力を無下にするわけにはいかない。とりあえず、俺はその紙をポケットへとしまい込んだ。


「時間はいいのか?」


「ええ。本日までに読んでいただければ……問題ありません」


「そうか……」


 伝えたいことが終わったのだろう。彼女は再び情けない表情へと戻って地面にヘタレ込んだ。

 これは演技なのか? それとも本気か?

 さっきの雰囲気とはまるで別人だ。彼女の素顔とは一体……。

 それを考える前に、アリーたちが合流してくる。俺はリアナの奇妙な変化を心に秘めながら、サマリの観光めぐりの続きと行くことにしたのだった。


 ユニとのわだかまりもなくなってから、サマリの表情はより一層元気が満ち足りた顔つきに変化した。

 ようやく悩みから抜け出せたようで、俺は少し安心したぞ。

 その後の観光名所めぐりは……まあ、色々あった。全部を話すと長くなるので割愛するが、どれも楽しいものだったことは確かだ。

 その夜は久しぶりに、とても静かな夜になった。

 家に帰ってきてそうそう、アリーはベッドへ直行。ユニはまだ我慢しているようだが、彼女もまぶたが重そうだ。


 ……そう言えば、リアナから紙を手渡されていたな。

 ユニも注意力散漫だし、読むなら今か。

 俺はポケットを弄り、紙を取り出す。動いて少しクシャクシャになっているが、まあ読めるだろ。

 小さく折りたたまれたそれを破れないよう丁寧に開き、俺は中身を読んだ。


「……明朝、国の入り口にて待つ。鐘の音が三回鳴るまで待つ。リアナ」


 なるほど。これが予定というわけか。……で、どういうわけで俺を呼ぶんだ?

 目を下に追っていき、更なる内容を読み解いていく。


「私に任された、最後の極秘任務のために協力してもらえませんか……? っと、読む時は敬語はいらんな。えーっと……強力なモンスターがいる。装備が貧弱な自分一人では無理。……支給してくれないのか? 俺がいれば、任務は絶対に成功する。その任務とは……精霊の森のある鉱物の採取……か」


 疑問となる点は三つある。

 一つ目は、何故極秘任務を俺にバラしたのかということだ。『極秘』というなら、おいそれと人に明かしていいものじゃない。まして、たった数日間だけの間柄にこんなことを話すとは、少し彼女は甘いんじゃないのか?

 二つ目は、貧弱な装備のことだ。難しい任務なら、ある程度彼女にも強い装備が支給されるんじゃないのか?

 そして最後。三つ目は……。

 彼女は仕事を首にされたはずだぞ? なのに、何で彼女が極秘任務をさも当たり前のように受けているんだ?

『最後』の任務、か。これは彼女にとってのチャンスなのか? これが成功すれば彼女は仕事に復帰できる。しかし失敗した場合は……。

 そう考えれば一応の納得はいく。元々、極秘任務を他人に話したことで首になった。最後のチャンスをもらったが、自分一人ではどうにもならない。だが、誰かの手を借りるにもそれを知られてはいけない。となると、事情を察してくれて頼れる一番強い人間は……自分で言うのも恥ずかしいが、俺ということか。

 だが……その他に何らかの意図が隠されているに違いない。最初に出会った時、俺はリアナについて良い印象を抱けなかった。その理由は分からない。一時、アリーとよく似た姿だからと思ったがそれも違う。

 それだけで嫌悪するなら、俺はもっと大勢の人を嫌悪しているはずだから。


「……ユニ」


「どーしたのケイくん? ふぁぁ……」


 目をとろーんとさせてもうベッドへと向かおうとしたユニを呼び止める。

 万が一、ということもある。彼女にだけはこのことを伝えておこう。


「リアナから呼び出された。明朝、ちょっと出かけてくる」


「分かったのー……アリーにはちゃんと伝えておくー……」


 自分の中の嫌悪感と決着をつけられるかもしれない。それに、もしもリアナが良からぬことを企てようとしているなら……俺が止める。

 普段の彼女の様子からは、悪いことを考えるような少女ではないんだが……。

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