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お次は公園と博物館!

 お次は少し歩いたところにある公園だった。国立の公園になっているのか、キレイな風景が見える。

 木々は外観を損なわない程度に枝が切られており、丸太という壁で覆われた花壇は毎日手入れされているのだろう。城で見た花と変わらないということは、そういうことだ。


 木々があると村での澄んだ空気が蘇ってくるようで少し嬉しく感じる。

 村の時は常に空気が美味しかったように感じる。……まあ、数十年住んだ故郷の方が慣れているのかもしれないが。

 この国もいずれは俺の故郷になるのだろうか。そんな気持ちに浸っていると、サマリの張り切った声が耳に入った。


「さてと皆さん! ここがあの有名な公園です!」


「有名……ねえ」


 周りを見渡しても、特に有名になりそうなものはない……あ。あれか?

 公園の中央に見える場所。そこなのか?

 あまり見ないようにしておこう。またサマリがガッカリするかもしれないし。

 記憶に留めないよう、俺は今見た光景を必死に忘れることにしたのだった。


「そうだよ後輩くん! と、ここで問題。この公園には何があるでしょうか!」


「はい! なの」


「はいユニちゃん!」


「ここには遊具がいっぱいあって楽しそうなのー」


「不正解! 違います!」


「はい!」


「次、アリーちゃん!」


「花壇がたくさんある! 可愛い!」


「残念! かわいい回答だけどそれも違うよ!」


 ……このノリは何なのだろうか。お、俺も乗らないとダメなのか?

 俺が無言を貫いていると、サマリがニヤけた顔で俺を見下してくる。アイツぅ……俺が答えられないのを見て優越感に浸ってやがるな?


「フッフッフッ……後輩くん。君はまだこのレベルに達していないようだね」


「そのキャラは何だよ。……ったく、この公園だけ、特別な何かがあるってことだろ?」


「いいヒントだねぇ! そうだよ。さ、さ、周りを見て探してみよう!」


 意気揚々と公園内を探すアリーとユニ。

 そのうち、ユニが先にあの存在に気がついた。


「あ、サマリさん。あそこにあるものは何なのー?」


「ユニちゃん、正解! そうなのです! あそこにある剣、あれがこの公園にしかないモノなんです!」


 サマリが先陣を切ってその剣に近づいていく。

 少し錆びついた台座の上にある剣。剣はタイル状の地面に突き刺さっており、簡単に引き抜くことは出来なさそうだ。

 台座を見回し、この剣の名前を知る。……『神殺しの剣』か。おいおい、ちょっと待て。


「うわぁ……けーくん、これって使えるのかな?」


「こんなのでモンスターに戦いを挑んだら、俺でも勝てないぞ」


「そうなんだ……」


「でも、神には勝てそうな名前なのー」


「いや、名前だけだろ、これ」


 こんなのに大それた名前がついてていいのかよ。

 俺が見た感じ、その剣は台座と同じくところどころ錆びついている。かつては銀色の光を放っていたであろう剣の刃。すでに茶色の焦げのようなものが張り付いている。

 剣身とグリップの境目である柄。これが酷い。禍々しいデザインは老朽化のせいで塗装は剥げているわ、左側の意匠がぽっきりと折れていてアシンメトリーになっているわで、ボロボロだ。

 グリップはかろうじて壊れていないようだ。これもあと数年でバキッといきそうだがな……。


 そんな、名前に似合わない酷い剣のグリップに、サマリの手が重なった。


「それ……引き抜けるのか?」


「失礼な! 私だってこれを引き抜くくらいの握力はあるよーっだ!」


「何か……壊れそうだね」


「大丈夫大丈夫♪ よいしょ……っと!」


 サマリが簡単に引き抜いてしまう。

 刺さっているというより、そこに置いてあると言った方がいいくらい軽く引き抜けた。

 伝説の剣も真っ青だぜこりゃ。


 しかし、日に照らされた自称『神殺しの剣』は意外と様になっている。

 太古の眠りから蘇りし意思。そんな感じの印象がその剣から伝わってくるのだ。……ボロボロなのもいい味になるんだなあ。


 サマリはその剣を俺に手渡した。


「何だよ」


「どう? 重さは」


「んー……軽いな。これ、本物じゃないだろ?」


「さあーどうだかねえ。説明によると、一応ね、使われたことはあったみたいだよ? はるか昔に」


「へぇー……この剣がねぇ」


「ねえ後輩くん。その剣で私を切って!」


「……はいぃ?」


「しょうがないなあ。もう一度だけ言うよ? その剣で私を切れぇー! 私が悪を抑えているうちに早くぅー!!」


「いやいや、これで切ったらお前怪我するだろうが。それとも新しい何かに目覚めたのか?」


「違うのー! ほら、絶対に大丈夫だから! 死んでも死なないサマリお姉ちゃんだぞー?」


「……じゃ、斬るぞ」


 一体何を考えているのか。まあ、サマリなら怪我しても最悪大丈夫だろう。

 ……万が一があっても、知らないからな。

 俺はそれだけを念頭に置いて、サマリに向けて剣を振り下ろした。


「あぁ!!」


 肉が切れる感覚。驚くアリーとユニ。

 ……ただ、飛び散らばる鮮血は無かった。

 サマリを見るとピンピンしている。まるで斬られたこと自体なかったかのように振る舞っているではないか。

 確かにサマリの体を切断した感触は両手に広がっていた。これは確かだ。

 それなのに、サマリの体に傷一つついちゃいない。

 どういうことだ……?


「ふっふーん。これこそが名物たる所以なんだよ。この剣なら何と、いくら斬られても全然何ともないんです!」


「な、なるほど……」


 どんな原理なのかは知らないが、きっと剣自体に魔法が仕掛けられているのだろう。

 ……魔法に詳しくない俺は、どの魔法が使われているのかは知らない。


「へー、ユニちゃん? 今斬ってるけど、痛くない?」


「全然痛くないの……」


 サマリから剣を手渡されたアリーは試し斬りと称してユニを切り刻んでいる。

 その様子はどこかのサイコパスのようだが、実のところユニにダメージはない。

 ……何とも変な武器が世の中にはあったものだ。あ、一応注意しておくか。


「アリー……それ、本物の剣でやるんじゃないぞ」


「やらないよ! もー、それくらいは区別できるよー!」


「そっか。な、ならいいんだ」


 遊んでいる二人を尻目に、俺はふとサマリを見た。

 彼女は俺の視線に気がついてすぐに笑顔になったが、俺は忘れない。

 俺たちの目がいかないところで、彼女は俯いていたんだ。俺たちに隠した表情。それは心の内に秘めた感情に戸惑い、嫌悪しているように見える。

 ……まったく。サマリは自分に不安なことがあっても誰にも話さないんだよな。それで無理に笑顔を押し売りして自分を疲れさせていく。……って、これは前の俺も同じだったか。

 これは、次の観光名所で二人きりになるしかないようだな。


 サマリが次に連れてってくれた名所。

 そこは大きな建物だった。白を基調とした、厳正な雰囲気を醸し出すこの建物。

 人気はあるようで、しきりに人の行き来がある。


 俺たちが視線を向けている間だけは、サマリは『いつもの』表情で俺たちに話しかけていた。


「さーて、お次はここです! 一体、どんな建物でしょうか!」


「えーっと……何だろう……」


 サマリの質問にアリーが一生懸命考えている。

 こういうのは考えるだけ無駄なんだ。どっかにヒントがあるんだからな。

 そう思って辺りを探そうとしたが、すでにユニが見つけていたようだ。この建物の答えを。


 ユニはトコトコとサマリの元に歩いていき、その答えを見せた。


「ねえねえサマリさん」


「お、早いねーユニちゃん! で、答えは見つかったのかな?」


「ここ……博物館、ってところなの」


「おーっ! 正解! もしかして……来たことあった?」


「ううん、これ見たの」


「あっ……そ、その手があったか」


 ユニがサマリに見せつけたモノ。それは一枚の紙だった。内容は『国の歴史展』。そしてラフスケッチとしてこの建物の絵が描かれている。

 というかっ! こんなのすぐに考えつくだろうが! まったく……。

 少し呆れつつも、クイズが終わったサマリが丁寧に説明を続けていく。


「ユニちゃんが渡してくれたこの紙に書いてあるとおり、ここは博物館です! 色んな歴史が見れるんだよー?」


「へー、ここに来ればお勉強はバッチリだねっ! けーくん!」


「……あくまで歴史のお勉強はな」


「うぐぅ……やっぱりそっかー……」


「他にもね、この紙でも説明があるけど、時期によっては個展が開かれたりするんだー」


「それで、サマリさん。ここはステル国の歴史しかないの?」


「……違うよ。色んなところの歴史が詰まってるの。この博物館には」


「……なの?」


 サマリが遠くを見つめた表情になる。そうか……ここは……。


「……私が暮らしてた村の痕跡は、ここにしか残ってないんだ。と言っても、ほとんど燃えちゃったんだけどね」


 寂しそうな表情をするサマリ。それでも、彼女は何とか笑顔を絶やさずにいた。


「確か、サマリさんの村はモンスターによって……」


「うん。そう。……あっ! でも全然気にしなくても大丈夫だよ! 私、ユニちゃんがやろうとしていることはちゃんと応援するから!」


「サマリさん……」


「ご……ごめんねみんな! 村の歴史がここにあるからって暗くなっちゃって! もーダメだなー私はー!」


 テヘヘと言いながら、彼女は自分の拳を頭にゴツンとぶつける。

 ふざけているように見えるが、彼女は本気で自分の頭を殴っていた。

 ……ったく、世話の焼けるやつだ。


「アリー、ユニ。お前たち二人で見に行ってくれ」


「え? でもけーくんは?」


「俺は……実は見たんだ」


「えぇー! 私のいない間に見たのー!?」


「あ、ああ。悪いなアリー」


「何か怪しーなー……ホントに見たことあるの?」


「本当だよ。この埋め合わせは後でするからさ」


「……それならしょうがないよね。うん、分かった! じゃあ、後で美味しいもの食べたい!」


「よし。任せろ! サマリと一緒に考える!」


「……分かったの。ケイくん。後は頼んだの」


 さすがはユニといったところか。彼女は俺の嘘を見破り、そして、何をしようとしているのかも理解しているようだ。

『後は頼んだ』その言葉の意味するものとは恐らく……。

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