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王様の誓い

 死んでいった兵士は多い。けど、生き残っている兵士もいる。

 城内で囚われていた兵士。そして、王様。その他多数の人間は地下の牢獄に閉じ込められていた。

 多分、ウィゴが『奪取』に完全に取り込まれる前は捕えて牢屋に入れていただけだったんだろう。それが次第に『奪取』の意思に支配されていった……。


 その囚われた人々を助けた俺たちは、一種の英雄として祭り上げられることになる。

 人々が俺たちに感謝をしてくれ、涙を流す。

 恥ずかしいと思ったけど、これだけ俺の存在を認めてくれたことは今までなかった。だから、内心嬉しかったのかもしれない。

 お城の清掃はかなり時間がかかったらしい。誰かが汚しまくったせいだろう。まったく……。

 そんな、様々な事情が解消した後、国の危機を救った俺たちに謁見の許可を貰った。

 どうやら、リーダーのお墨付きだということで、王様も会いたがっているという。


 そんなわけで俺たちは今、王室でジッと立って王様を待っていた。

 どれも金ピカの装飾品が飾られていて、辺りが眩しい。しかも、その装飾品がこの場の雰囲気を厳粛な外交場へとステージを上げているのも特徴だ。場馴れしていないこの場所で、俺はゴクリとつばを飲み込んでいる。

 呼ばれたのは俺とサマリ、ユニにアリーだった。それと、リーダーも謁見を推薦した責任者として同席している。


 さすがの俺も、王様に初めて会うわけだから緊張する。

 ちゃ、ちゃんと敬語を使えるだろうか……。村出身であるから、俺はあまりそういうことを気にしたことがない。

 丁寧な言葉は何度か使ったことはあるけど……。

 あからさまな緊張に気がついたのか、サマリはニヤニヤしながら俺を眺めている。くそ……余計なことを……!


「あれ~? 後輩くん、もしかしてこういう場所は初めてかなぁ~」


「う、うるさいな。誰だって初めてはあるだろうが」


「ふっふーん。私は二度目だから大丈夫だもん」


「二度目? 一度目は何で……」


「それは後で。今言っちゃうと冷めちゃうもん」


 その彼女の言葉で大体は察しできる。恐らく、村が全滅した時に王様に会ったのだろう。

 あの過去があっても元気に笑っていられる彼女を、俺は見習いたいな。……ふざけるのは見習わないが。


「……ケイくん。今日、この場で全て話すの?」


「……ああ。謎の脅威に操られて、俺たちが争ってる場合じゃないってのを喋ろうと思う」


「ありがとう、なの」


「気にするな。王様に会えるなんて滅多にないからな。そのチャンスを無駄にしないようにしないとな」


 ユニはユニで緊張しているようだ。

 きっと、彼女なりに王様に話したいことがあるのだろう。


 側面のドアが開かれ、そこから王様が姿を現す。

 王様の体を覆っているマント。薄暗い赤色のそれは、床に垂れ下がるほど大きく、王様の体に合っていないのではと思わされる。

 しかし、これも意味があるのだろう。

 自身の証明のため、頭をすっぽりと覆う王冠。キラキラした宝石が装飾されていて、これも高価そうだ。

 ……誰が見ても王様だと言えるだろう。

 王様は高級感あふれる椅子に座り、俺たちの顔を一人一人眺め始めた。

 初老で人当たりの良さそうな人相だけど、その威厳は確かにある。


 話そうかどうか迷っている内に、王様が先に口を開いてしまった。


「あなたがケイか?」


「はい。そうです」


「……この国を救っていただきありがとうございました」


 王様が俺たちに対して頭を下げ始めた。お、王とあろう方が俺たちに頭を下げるなんて……!

 驚き、慌てふためく俺。あ……あああ、こういう時どうすればいいんだ……!?


「あ……だ、大丈夫です! 俺たち、別に何もしてませんよ!」


「いえ、この国の兵士では今回の事態は収束できませんでした。国を守るための戦力なのに、あなたたちがいなければこの国は今頃……」


「ほ、ほら! 俺も似たようなもんです! 護衛隊の一員なんですから!」


 もはや王に失礼ではないかと思うが、俺はかなり焦っていた。

 シッチャカメッチャカな言葉を紡いでいると、後ろに控えていたリーダーがこの場を取り持ってくれた。


「ケイさん。確かに護衛隊はこの国の戦力です。けど、まだあなただけじゃないですか。この国のメイン戦力は兵士です」


「あ……ああ。そうですか……」


「王様。本日はこのような場を設けさせていただきありがとうございます。すでにご報告しているので失礼を承知の上で紹介させていただきます。ケイさんたちです」


 リーダーは話を進めるために、俺たちを王様に紹介し始める。

 なんと場馴れしているのだろう。そこら辺はやっぱりリーダーって感じはするなあ。

 一通りの紹介が終わったところで、話を俺に降り始めるリーダー。え……えーっと……。

 口をパクパクさせている俺の隣で、サマリが先に話を進めてくれた。


「王様。お久しぶりです」


「おお、サマリか。元気でやっているか?」


「はい。おかげさまで、自分の過去と向き合うことができました」


「記憶が戻ったのか……?」


「まあ、そこは色々とありまして……。それより王様。本日はご相談したいことがございます」


「……何かな?」


「……ほら、後輩くん。お膳立てはやったんだから、頑張って」


「……王様。今回起こった事件の張本人、ご存知ですか?」


「かつて奴隷だった者が集まった組織。そう聞いているが」


「ええ。……ですが、彼らはある人物に操られていたんです。それが『奪取』。モンスター……のリーダー的存在だと、俺は思っています」


「……今回の事件は人間が起こしたものではない。そう、言いたいのかな?」


「そうです。確かに彼らは人間でした。でも、操られていただけなんです。人の闇につけ込んで、彼らの体を奪っていたんです」


「その事件。前に似たような事例があったな? 確か、ギルドの隊長だった『ユリナ』も、同じように嵌められていたと聞いているが……」


「はい。隊長のことも、今回のことも。誰かが裏で手を引いている。しかも、そこに人間の意思は介在しておりません」


「ユリナの時は国と村の信頼関係を壊そうとする企み……。今回は国そのものを破壊しようとする企み……そういうことかね?」


「はい。もう、人間同士で争っている場合じゃないんです。本当の敵は、人間じゃない」


 俺はそこまで言い終わると、ユニに託す。

 後は彼女が言葉を紡いでくれるはずだ。

 俺はユニに視線を送ると、彼女は黙って頷いて一歩前に出る。


 彼女は懐から角を取り出した。一体何をする気だろうか。

 王様を守っている兵士が動き出すも、ユニはお構いなしに角を額に取り付ける。

 すると、彼女の姿は子供から大人へと変身してしまった。あの姿じゃ、逆に失礼なんじゃないのか?


 しかし、ユニは変身後でも王様に無礼を働くことなく、その場で跪いたのだった。


「王様。私の姿に……見覚えありますでしょうか」


「あなたは確か……ユリナが飼っていたユニコーンか?」


「ええ。今はケイくんの元にいます」


「おお……! そうだったのか。久しぶりじゃないか」


「……マスターの時にはご報告出来なかったことを今、お話します」


「ほう……」


「前回の事件と今回の事件の首謀者のことです……。それは……魔王です」


「魔王?」


「はい。私……モンスターの世界で支配している存在です。魔王が全ての元凶と言っても過言ではないでしょう。こちらの世界に来ているモンスターは、元々は魔王に反抗していた存在……。ですが、その心を失ったモンスターが多く、人を襲っているのです」


「失礼を承知で聞きたいのだが、何故ユリナの時に話さなかったのだ?」


「……私は、モンスターと人間との友好を目指しています。最初はマスターにも話す予定ではありました。しかし、『調整』が引き起こしたあの事件によってマスターの心が壊された。その状況で魔王が首謀者と言ってしまったら、マスターは増々モンスターの殲滅を選んでいたでしょう……」


「なるほどな」


 その時、ふいにサマリの方を見た。

 彼女の拳は、心なしか震えていた。……モンスターによって生まれの村が滅ぼされたこと……だろうな。

 俺に視線に気が付いたのか、サマリは無理をしたような笑顔で俺に応えてくれた。

『自分は大丈夫。気にしないで』そう言いたげな顔で……。

 ……今はそこを触れる時じゃない。そういうことだな、サマリ。


 ユニと王様の問答は続いていく。

 彼女が求めているのはモンスターと人間の協力。しかし、それにはまず人間同士の争いを止めなければならない。

 俺という存在は、ユリナ隊長が起こしていた悲劇を救い、人間同士の争いの一端を止めた。

 そして『調整』を倒したことから魔王に対抗できる人間と判断した。だから、魔王に反抗する。今がその時なのだという。

 ユニの言い分はもっともだが、モンスターとの協力は果たして可能なのだろうか。

 どちらも犠牲を出し過ぎてしまった。そのことについて、わだかたまりがないわけではない。

 言葉で表すのは簡単だが、いざ実行するとこうも難しくなるとはな……。


 ユニの話が終わると、王様はため息をつきながら深く考え込んでいた。

 ……王様でも、無理なのだろうか。


「……ユニ。あなたの意見は分かった」


「王様……」


「人間との友好はまだ簡単だ。現在でも国と国との協力網は出来つつある。しかし、モンスターとなると話は異なってくるだろう……」


「そう……ですか」


「……しかし、ユニの話が本当であるなら、我々は魔王によって無意味な戦いを今まで強いられていたことになる。彼の手のひらの上で、踊らされていたのだからな」


「王様……!」


「人間と人間との友好。モンスターと人間との友好……。そのどちらも実行に移せるのが国であり、王としての役目だろう」


「ありがとうございます……王様!」


 ユニの声が上ずっている。それほど嬉しいってことだろう。

 ようやく見えてきた人間とモンスターとの友好。その希望が今、この国の王によって宣言されたんだ。

 感謝を声と体で表現しているユニに対して、王様は妙に恥ずかしそうに照れていた。


「いや……それもこれも全て君のおかげだ……ケイ」


「お、俺ですか!?」


「ああ。君がこの国を救わなければ、私は今ここにこうして宣言することさえ叶わなかった」


「お……お褒めに預かり光栄です……」


 まさか俺に話を振ってくるとは思わず、気が抜けていて曲がっていた背をピンと伸ばす。

 ……今までは、自分が恐れられないように人助けをして、感謝されていた。その感謝は俺を認めてくれるただ一つの事象だと思っていた。けど違う。

 俺を認めてくれるから、なおかつ感謝もしてくれるんだ。感謝があるから認められているんじゃない。

 それを……この事件で教わった。

 恐れる必要はない。今の俺はしっかりと王様へ視線を向けることが出来ていた。


「王様、みんなのためなら俺は何でも協力するつもりです」


「ありがとう、ケイ。また、君の力を借りることになるだろう。しかし、まだ私が宣言しただけ。計画を立てて進めていかなければならない」


「それは承知の上です」


「だからそれまでの間……君たちはゆっくりと休んでいてくれ」


「え? でも、私はギルドの任務が……」


 サマリがきょとんとしたような目つきで王様を見つめる。

 その様子だと、まさか自分が含まれるとは思わなかったのだろう。

 王様はそんな彼女の様子をあごひげを撫でながら微笑んでいた。


「サマリ。君も同じだ。この事件を解決に導いた内の一人。本日ここへ来てもらった者全員がそうだ」


「あ……ありがとうございます!!」




 王様との謁見が終了し、俺とサマリは城の庭へ足を運んでいた。

 そう、ここは俺がウィゴに能力を奪われた場所だ。ここで俺がしっかりしてれば、決着は早かったんだよな。

 惨めだった自分に少し苦笑する。


「ん? どうしたの後輩くん?」


「いや……あんなことがあったのに、庭はもうその記憶を忘れているようでさ……」


「……そだね。本当に……あの時は悪夢だったよ」


「あの時、俺を命がけで守ってくれたんだよな」


「あ……あー、あれはホラ! その場のノリってやつだよ! だって後輩くんが倒れるなんてこの世の終わりみたいじゃない!!」


「ありがとうな、サマリ」


「ほえ……?」


 目を見開いて何かを待っているサマリ。そんな感じだと俺まで緊張してくるじゃないか。

 ただお礼を言いたかっただけなのに……。

 ここで無言を貫いても意味がない。だから、俺はさっさと自分の言いたいことを伝えることにしたのだった。


「お前のおかげで、俺は力を取り戻せたんだ」


「い……いやあ、面と向かって言われると照れますなー……」


 何照れてるんだよ。ったく……。


「……なあ」


「な、何?」


「……もし、俺に力が無くなっても……俺を認めてくれるか?」


「もちろん! だって、後輩くんは後輩くんだから! 力だけが全てじゃないよ。後輩くんの優しさは、ちゃんと伝わってるって。……だから、あの時も一生懸命頑張ったんだよ」


「そっか――っ!!」


 その時、俺の背中に何かが乗っかる。自然とサマリに向かってお辞儀するような動作になってしまったからか、その正体はサマリの口から判明した。


「あっ! アリーちゃん!」


「こんなところにいたんだねけーくん! もー、私を置いて先に行っちゃうなんてダメだよ!」


「お、お前アリーか!」


「ちゃんと遊んでくれるって言ったでしょ? 今がその時だよ!」


「そ、そんなこと言ったか……?」


 ようやくアリーを背負うことができた俺。

 そんな俺に彼女が耳元で大声を出す。う……。


「言った! 洞窟に行こうって言った!」


「あ……あの時のか」


「さ、行こうよけーくん! 今日くらいはわがままでも良いでしょー?」


「あ、ああ分かった……! だけど近場にしような……?」


「うん! けーくんと一緒ならどこの洞窟だっていいよ!」


 そう言ってくれるのが唯一の救いだ。

 ふとサマリを見ると、少しだけ残念そうな表情を浮かべていた。

 ……なるほど。俺は彼女を茶化すような言葉を放った。


「羨ましいのか? 俺におんぶされるのが」


「え!? そ、そんなわけないじゃん! これでも私、一応、大人に近い方なんだから!」


「まあ……『先輩』だしなあ」


「そ、その言い方はどうかと思うよ後輩くん! というか、ずっと忘れてたけどいい加減呼び捨てを止めてよ!」


「いや、これはもう癖みたいなものだし……もうサマリって言い方がしっくり来てるんだよ、これが」


「も……もーっ! ……でも、後輩くんならいっか」


「お、認めてくれるのか? これで気が楽なった。ありがとうなサマリ」


「――そ、そこは聞こえないところじゃないの!?」


「悪いが耳が良いんでね。よし、アリー。サマリから呼び捨ての許可も貰ったし、洞窟に行くとするか!」


「うん! サマリお姉ちゃんもおいでよ! ユニちゃんも来るんだよ!」


 サマリは大きなため息をつきながら、頭を抱える。

 あれは自分の思い通りに行ってない時にするような動作だ。でも、俺には分からない。彼女の思い描いている道筋というのが。


「……あーもー! 分かった分かった! 今日は洞窟で暴れてやるーっ!!」


「お、おいサマリ! 洞窟だけは壊すなよ!?」


「そんなの知らないもーん! 全部後輩くんのせいなんだから!」


 まだ平和への道は遠い。でも、今だけは……この瞬間だけはこのまま続いていてほしい。

 戦いを忘れてみんなと笑い合えるこの時間。俺はこれからも大切にしていきたい。

 この安心を守るために戦う。みんなを守るために戦う。

 能力を一度奪われたあの日から、俺の決意と戦いは変わったのだから。

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