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春子と最強執事  作者: 白川れもん
4/20

お昼休み

 午前中の授業が終わった。


 学園の、授業内容は、以前の学校と対して変わりはしなかった。全くもって普通だ。

 まあ、午前中は執事禁止みたいだから、午後から特別授業なのかもしれない。


 お昼休みに、一緒にご飯を食べようと椿が誘ってくれた。

 クラスだと視線が疲れるから、と、わざわざ二人で講堂までやってきた。


「椿、ごめんね、私のせいで、クラスの皆、冷たいよね……何も言わないから、余計にさ」


「ううん、いいの。どうせ、春子が来る前から、あんな感じだったの。私は、春子がいて助かってる。あれこれ言わずに、済んでいるもの」


 優しく微笑んでくれる。近くで見ると、椿は笑窪がある。いいなー、笑窪。可愛い。


「春子は、今でも十分可愛いよ!」


 突如として、人の心を読んだ紺は、叫びながら現れた。


「ちょ、紺! あんたまた、勝手に!」


「午後は良いんでしょ? 影は、下から春子を眺めれて楽しいけど、やっぱり僕は、春子の見上げてくれる顔が好き」


 全くもって意味が分からない。

 呆れるしかない。そんなに私が好きなら、何故言うことを素直に従ってくれないのか。

 焼そばパンを口に入れながら、考える。紺もお腹が空いたのか、メロンパンを食べ始めた。


「あ、あの、私ね、言っておきたいことがあって」


 紺を見て何かを思い出したらしい、椿は、私の隣に座った紺と、私に向き合う。

 何かを警戒したらしい紺は「還らないよ、僕は! 余計なことしないでよ」犬のように、椿に唸って威嚇している。


「こら」ぽんっと頭を軽く叩く。仕方ない執事だな「椿、何?」柔らかく促す。


「今朝、二メートルって話したよね、春子と紺さんが離れることが可能な距離。ちなみに私は、五キロメートルくらいなんだけど……」


「はっ、五キロ!? 遠い! 凄い! 私めちゃくちゃ弱いよね……」


 そして、私は二メートル。改めて実感する、私の弱さ。


「あ、ち、違うの! あのね、私が言いたかったのは、標準は二キロメートルとかなんだけど、私、最初から五キロまで離れられたの。で、調べたんだけど、どうやら、私達の力も必要だけど、執事のレベルによっても変わるらしいの」


「執事のレベル? そういえば、椿の執事は弱いって……」


「そう。だから、たぶん、私は他の人より自由に操れるの。私の目には、紺さんは、相当強く見えた。だから、春子は紺さんを操れないのよ。たぶん、紺さんが強すぎるの」


 紺が強い? ゴロゴロしていただけの紺が?

 不思議に思って、紺を横目で見る。話を聞いていないのか、既に私に視線を合せ、ニコニコと愛想を振り撒いている。強そうには、見えない。


「紺、あんた強いの? だから、操れないの? なら、弱くなりなさいよ」


「嫌だよ。確かに僕は強いけど、春子も弱いんだよ。だから、凄く良い関係だと思うんだ。弱い春子を、僕が守る。格好良いでしょ?」


「良くない!」


 何を言っているのか、この執事は。

 強いのは確かに良いことだけど、二メートルは、酷い。もう少し、こう、あるだろう。


「執事にもレベルがあるんだね。ところで椿、執事の還す方法ってさ……」


「嫌だ! 春子、そんな酷いこと言わないでよ!」


 私の発言で、慌て始めた紺。

 そんなに還りたくないのか。ぎゃんぎゃんと、私の腕にすがり付いてくる。

 少し可哀想な気もするけど、常識らしいし、知らないままだと、私が恥ずかしい。


「ちょっと、紺、黙って。聞くだけだから!」


「本当? 約束だよ? 嘘だったら、僕、暴れるからね!」


 暴れるって、何をするつもりなのだろう? 疑問に思ったが「分かった分かった」と、宥める。

 視線だけで椿を見れば、半分に減ったお弁当の、卵焼きを口に入れてから、椿は話始めた。


「執事を還す方法は、えっと、召喚と一緒なんだけど、覚えてる?」


「……両手を上に伸ばすやつ?」


 召喚したときの雰囲気をなんとなく、再現するために、両手を天井に伸ばした。そして「これ?」と、改めて聞く。


「……」


 違ったっぽい。椿は苦笑いをしている。恥ずかしい。


「ごめん、だって、二ヶ月前なんだよ? それから、一度もしてないから、忘れたよ」


「じゃあ、方法だけど……まず、目を閉じて。手を組んでから、ゆっくりと両手を開いて、掌を、上に伸ばすの。掌に執事を意識してね」


 説明しながら、椿は実行していく。

 伏せられた瞼から、精神統一しているような、真剣さが感じられた。

 ゆっくりと上へ伸ばされる手。


 すると、次の瞬間、椿の掌から光り始めた。


 還す方法は、召喚する方法と、同じ。

 ということは、椿は執事を召喚しているんだ!

 そう気づいた私は、どうやって執事が召喚されるのか、見てみたい反面、光が眩しすぎて目が勝手に閉じてしまう。


 瞼だけが明るくて、しばらく待機していたら、瞼から光が消えていくのが分かった。


 改めて、目を開ける。

 どんな執事だろう、と、淡い期待を胸に。


「……何やってるの、紺」


 目の前には、紺がいた。

 至近距離で私の顔を不思議そうに、見つめている。

 私の淡い期待を返せ!


「春子が眩しそうだったから」


「眩しそうにしていたからって、こんなに近くに来て、人の顔見るのに、なんの意味があるの?」


「春子の眩しそうな顔が見れる!」


 始めて見ました! みたいな喜びの声を上げているが、この距離から離れる気はないらしい。


「ちょっと、退いて」


 頬を片手で押せば、すんなりと離れた。

 次いで目に入ってきたのは。


「……それが、椿の執事?」


 ヤンキーだ。それが第一印象。

 ロングの金髪に、つり目、黒いマスク。学校指定の制服は着ているが、なんだか全体的にだるーんとしている。


 ……紺より強いんじゃね?


 そう思わずにはいられない、滲み出たヤンキー魂。


「そうよ。あの、見た目はあれだけど、弱いの……」


「いやいや、強いでしょ、絶対」


「…………自分、弱いっす」


 目玉が飛び出るかと思った。ヤンキーから出た声は、ありえないくらい可愛かった。

 幼女ですか? というくらいには、ロリ声だった。


 唖然としていると、椿が、ため息混じりに「この子、女の子なの」と答えた。


「お、女の子?」


 言われてみれば、背丈も私くらいだな、と思う。

 私を見て、小さく照れる姿は、絶対に近づかないって決めてたヤンキーでも、可愛らしく思える。


 え、まって。執事って、女の子も、アリなの?

 それなら私、女の子の方が良かった……そう、一瞬でも思ったのは、紺には内緒だ。





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