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春子と最強執事  作者: 白川れもん
2/20

学園生活初日

 こうやって前世と見比べると、家や家具、その他もろもろ、ほとんどが変わらない世界。


 ……さて、今日から新しい学校だ。以前通っていた学校よりも制服は可愛いから、私的には満足。能力者向けの学校だが、普通科も存在する。

 その為、数少ない能力者は学費が半額だ。

 一般家庭の私には、何から何までラッキーだ。



 ふーっと一息ついて、一言。


「き、緊張してきた」


 制服に身を包んだ私は、ハラハラしながら、玄関の全身鏡とにらめっこしていた。


「春子、大丈夫だよ。緊張しないで。とっても可愛いから」


「あ、ありがとう。いや、別に格好とかじゃないんだよ? ただ、新しい学校、だから……」


「通学路? それなら、僕に任せて。覚えてるから。春子は何も考えなくて良い」


 本当か? 疑いの眼差しで見上げれば、いつもと同じスマイルが返ってくる。

 そういえば、紺と、知らない街まで出掛けるのは、初めてだ。


「紺、あんた、もっと違う服、無いわけ?」


「春子のお母さんがくれたのは、これだよ?」


 登場時と、ほとんど変わりない格好。

 毎日ローテーションだが、初登校まで、これで行くのか?


「ちょっと、もっとさあ、他の服でも……」


「あ! まだいた! 良かったあ、紺ちゃん!」


 お母さんが、バタバタと走って来たかと思えば、手には見慣れない制服が握られている。

 男子生徒用?


「お母さん、何? それ」


「紺ちゃんの制服よ! 春子と一緒に貰ったでしょ?」


 え、そうだったっけ?

 紺、お前知ってるのか、と目線を上げれば「あ、そうだった」と、私に照れ笑いをした。


「早く着替えてきて!」


「分かった、待ってて、春子!」


 お母さんから制服を受けとり、バタバタと走って行く。

 苦笑いをしながら、お母さんが呟いた。


「紺ちゃんって不思議よねえ? 能力っていうのは、皆、ああなのかしら?」


「え、何が?」


「紺ちゃんよ。春子には、とっても優しいのに……」


 そう言って、お母さんは、紺が去っていった方を見つめて、何故か悲しそうな顔をした。

 意味が分からず、私は首を捻るだけ。



 結論から言うと、紺の記憶力は優秀だった。

 方向音痴の私には、頼もしく思えたくらいだ。



 大きな、どこか外国に来たのか? というくらいの、門。

 そして、これ本当に学校? どこかの城じゃない? ってくらい、外観が格好良い。


「春子が好きそうな学校だね」


「……そうだね」


 何故バレるのか、これも私の能力だからか?

 まあいい。


「今日から、勉強頑張る。紺、あんたの事も。何故、私に紺なのか、とか、きちんと学ぶ!」


「えっとね、それは、何度も言うけど、運命なんだよ。春子が呼んだんだ、僕を。だから、僕は春子を選んだ」


「……はいはい」


 絶対に嘘だ。紺じゃなくても、良いはずだ。こんなイケメンオーラなんか、出さない人が。

 そう、例えば、素敵なダンディなおじさまとか!

 理想はそうね、三十路手前かしら。


「……春子、僕以外を考えてる」


 隣から、低い声と共に、いつもの笑顔を失い、眉間に皺を寄せた紺が、忌ま忌ましそうに見つめてくるけど、無視して学校へ足を踏み入れる。


 最近気づいたことだが、紺は嫉妬深い。

 何故なのかは、全く分からないのだが、私に別の人間を感じとると、途端に不機嫌になる。


 まるで子供だ。執事っていうのは、そういうものなのだろうか?




 初日だから、周囲の視線を浴びるのは、覚悟していたけれど、こんなにとは。


 歩いて教室へ向かっているだけにも関わらず、周囲からヒソヒソと声が聞こえる。

 何だろう、声掛けてくれれば良いのに。


 登校時間だから、人が多いのは仕方ないが、それにしては、皆遠巻きだ。

 見るからに貧乏そうだからかな?

 私から見れば、皆セレブなお嬢様に思える。髪も巻いているし、男子生徒も、髪をばっちり決めている。


 言うなれば、リア充の集まり、といったところか。



 あー、向いてないかもな。


「春子、春子。悲しまないで、僕がいるよ」


「ああ、ありがとう」


 いつもの笑顔に戻っていた紺を見れば、少し安心できた。

 一人だったら絶対無理だった。こんなコソコソ言われるなんて、いじめだよ……。



 あれ、そういえば、執事らしき人を見ないな。

 皆も能力者だから、執事がいるはずなのに……。



 辺りを見回しても、執事らしき人はいない。

 不思議に思いながらも、教室へと入る。すでに室内にいた何人かが、私を見て、ヒソヒソとし始めた。ああ、またか、と思う。


 何なの、もう!


 席も分からないし、することもないので、窓を眺めていた。すると。


「あ、あの」


 近くに気配を感じて、振り返ると、今どき珍しいお下げ髪の、弱そうな女子生徒。

 近くからクスクスと笑う声が聞こえてくるから、何か罰ゲームか、じゃんけんに負けて、私に話しかけに来たのかな。


「おい、気安く近寄るな」


 私が答えるより早く、紺がお下げ髪女子生徒に近づいた。

 目を見張る。こんな紺、見たことなかったからだ。鋭い目で、まるで親の仇とでもいうかの如く、私を背に隠す仕草をする。


 紺を前にして、お下げ髪女子生徒が「ひっ」と、怯えているのが分かる。


「ちょ、ちょっと! 何してるの、馬鹿!」


 声と共に、紺の後頭部に、グーパンチをねじ込んだ。


「うっ!」


 頭を抑えて、その場にうずくまる紺。

 それを横目に見ながら、お下げ髪女子生徒に近寄る。


「だ、大丈夫ですか?」


「あ、は、はい。あの、ありがとうございました」


 一瞬ぽかんとしていたが、私と向き合った。

 何か用事だろうか?


「それで、あの、私に何か?」


「あ、えっと、転校生さん、ですよね。それに、その方、執事、ですよね? あの、この学校では、午前中は、執事を召喚するのは、禁止なんです」


「え、そうなんですか! し、知らなかった……」


 だから、皆見てたのか! なんだ、そんな事なら、教えてくれよ! 恥ずかしい。転校生丸出しじゃん!


「あの、なので、執事を向こうに還して……」


「還す? え、あの、ごめんなさい、還し方、分かりません」


「えっ?」


 今度は、お下げ髪女子生徒が、驚く顔をする。


 え、何? 還すのって普通に皆出来るの? っていうか、還せたの? 執事って召喚したら出っぱなしなのかと、思ってた!


「あ、あの、学ぶ以前の、常識だったりしますか?」


「あ、えっと……私は、そうだと……」


 ぐあー!!! やってしまった! 無知って恥ずかしい!


「ちょ、ちょっと、紺、還りなさいよ!」


「どうして? 嫌だよ! 僕は春子と一心同体なんだ。どうして急にそんな……そこの女かな、僕の春子に余計なことを!」


 僕を捨てないで! と言わんばかりに、身なりも気にせず、すがり付いてくる。

 そして、何かを察した紺は、勢いよくお下げ髪女子生徒を睨む。


「あ、あの、ごめんなさい」


 お下げ髪女子生徒は、紺のあまりの迫力に気押されたのか、謝り始めた。


「ああ、謝らないで! あなたは何も悪くない……」


「だっせえなあ、大前(おおまえ)! 執事に謝ってんじゃねーよ! 気持ち悪っ」


 笑い声と共に、私たちの元に近づいてきた、数人の男女。

 罰ゲームではなく、いじめだったみたいだ。下品な笑い声が漂う。


「おい、転校生。お前も自分の執事還す方法も知らねーなんて、ど素人じゃねえか!」


「うける。二人ともお似合いだよね。大前さんは、いつも一人ぼっちだし、転校生さんも、その感じじゃ、友達なんて出来ないでしょ。貧乏そうだし」


「どうせ、突発的に執事を召喚出来るようになった、低レベルだろ?」



 寄って集って何なんだ!

 勝手にランク付けしたり、貧乏だって、まあ、貧乏だけど!

 イラッときた!


「ちょっと、あんた達、急に何……」


「僕に任せて、春子。蹴散らすのは得意なんだ」


 ぼそっと、耳打ちしてきた、紺。

 は? 蹴散らす? 聞き返そうとした、その時。


 音もなく、先程まで笑っていたクラスの生徒達が、沈んでいた。

 私とお下げ髪女子生徒だけを残して。


「は? え?」


 苦しみながら、床で悶えている、数人の生徒。

 一体何が起こったのか分からず、お下げ髪女子生徒と唖然としていると、颯爽として目の前に現れた紺。


「春子、どう? 僕はやれば出来る子なんだよ! 見てた? ねえ、見てた? 春子?」


「ちょ、紺、あんたがやったの、これ!」


「……そこの女も沈める? 春子が怒っていたのは、こいつらだと思ったんだけど」


「ち、違う! 私は、紺、あんたに怒っているの!」


 そんな、あり得ないって顔で私の顔を覗くが、理由も分からないらしい。ただ、ただ、悲しそうに私を見つめる。


 教室の隅に紺を座らせた。


「そこで、よく考えて、反省してなさい!」


 動いたら還らせる! とだけ言い、思いっきり無視して、お下げ髪女子生徒に、この後どうすればいいか聞く。


「そ、そんなあ、春子おー、どうして? 僕は春子の為に……お願い、春子、そんなことを言わないでえ! ごめんなさいー」


 うわーんっと、何だかんだ言っているが、今も悶えているクラスメイトを見ると、可哀想になる。絶対、鳩尾入ってる。



 お下げ髪女子生徒に向き直る。


「あの、ところで、こいう事は、よくあるよね?」


 こういう学校だもの! こうやって執事が暴走することだって、きっと……


「……無いです」


「ですよねー」



 二人で、何をするわけでもなく、ただ立ち尽くしていたところに。


「な、なんなの!? この騒ぎは!」


 担任がやってきて、私は紺を教室に置いたまま、お下げ髪女子生徒と職員室へ連行された。


「事情を、説明して!」



 そして、みっちり叱られた。

 私の能力の責任は、私ってわけね。なるほど、オーケー、そういう世界か。




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