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春子と最強執事  作者: 白川れもん
1/20

召喚してました

「お初に御目にかかります。僕の名前は、(こん)。貴方の執事です。これから末長く、よろしくどうぞ」


 サラサラとした銀髪、長い睫毛、切れ長の二重瞼、通った鼻筋、薄く開いた唇。

 薄いセーターに、ピッチリとしたGパン。細身の身体だから、よく似合っている。

 だが、私には、疑問がある。


「……あなた、誰?」


 突如として現れた彼。歳は私と同じくらいだろうか。


 私は自室で、何気なく、本当に、物思いにふけながら、天井に両手を伸ばした時だった。

 両手が突如として光り、驚きつつ、目を閉じて、身を縮めていた。

 両手から何か出た気がしたな、と、薄目を開けた先に、テレポートしてきました、みたいな顔した紺がいた。


 血の気が音をたてて下がるのが分り、私は叫んだ。


「おおお、おかあさーん! なんか知らない人が! 知らない人が現れた!!」



 これが、高二の夏である。




 この世界では、こういう能力を持った者が、いる。


 というのも、私には前世の記憶があり、前世では都内在住の小学生だったはずなのだ。

 どうにも、その後の人生が思い出せない辺り、もしかしたら私は小学五年生で生涯を終えたのかもしれない。

 思い出そうにも、そこから先は、今の私……三星(みつぼし) 春子(はるこ)の今までの、覚えている限りの記憶に繋がってしまう。



 この能力のことは、聞いていたし、恐らく能力らしき人を連れて歩く姿を、街でも見かけたことがある。

 別に特別なことではないが、金持ちに多い傾向。というのが、私の偏見だ。


 自らの能力、という名の、全くの別人を召喚するのだ。そう、あの召喚。モンスターを召喚するが如く、人を召喚するのだ。


 能力者、この場合、私に当てはまるのだが、能力者は、召喚した人を、意のままに操ることが出来る。

 つまり、下僕にでもなんにでも出来るのだ。そう、聞いている。


 この世界のほとんどの能力者は、召喚した人物を〔執事〕と呼ぶ。

 身の回りの世話がやらせる者が多いからだ。


 つまり、私が、自分で専用の執事を、召喚することが出来る。自分の能力なので、執事は私の全てを把握でき、意思のままに、動く。

 そう、私の執事は紺なのだ! それなら、何でもしてくれるわ!


 その、はずだった。




「あのさ、何してるの、紺」


「んー、僕? 今は漫画読んでいるよ」


「それ、私のだよね? 勝手に読まないで!」


「どうして? 主の趣味を知るのも、僕の役目だ」


 あれから二ヶ月経っても、この通り、ゴロゴロして、全く言うことを効かない。

 私を見ては、ただ、ニコニコしているだけだ。



 執事を召喚出来ても、扱うには、やはり、力がいるのか、今の私は全く扱えない。

 どんなに命令しようが、紺はニコニコして、僕の仕事はそれじゃない、と、笑う。

 私の事は主と認めているみたいだし、好意も感じる。それじゃ、何故動かないの!



 ……今までの学校を、直ぐに、辞めた。

 そういう、能力を持った、専門の学校が存在するらしい。そこで学ばなければ、ずっとこのままだろう。

 まさに、宝の持ち腐れ。

 どんだけ使えない執事だよ。


「ねえ、明日から学校行くんだよ、私と!」


「うん、分かっているよ。僕も何かするんだろ? 大丈夫、春子は何だって出来るし、僕が守ってあげる」


 何故呼び捨て?

 舐めてる、この執事は、確実に私を下にみている!


「春子? どうしたの、どこか不安? ……いや、怒ってる? 何かあったの?」


 どこか焦ったように、私の元まで来る。そして、顔を覗き込んでくる。


「……何でもない」


「春子? 何に怒っているの? 誰かに、何かされた?」


 こいつは、いつもそうだ。

 私の感情には、とても敏感だ。どんなに隠しても、直ぐにバレてしまう。

 それなのに、原因が自分とは、夢にも思わないらしい。



 明日から、九月。

 私は、紺を連れて、新しい学校。

 どんな授業なのか、紺も何をするのか、全く想像つかない。どうなるんだろう。


 両親も執事を召喚なんて出来ないから、知識は皆無だ。勉強して、この出来損ないを、使いこなしてやる!


 怒りを沈めようと、別の事を考えていると、じーっと私の顔を見ている紺は「怒り収まったの? 大丈夫?」と、長い睫毛をパチパチさせて、微笑む。


「紺、近い、離れて」


「どうして? 僕は春子が近くにいると、安心する」


 安心? こいつは馬鹿なのか?

 距離は、先程よりも縮まって、互いの鼻がつきそう。紺が両手で私の肩を掴んでいる為、動けない。

 いくら自分の能力といえど、歳の近い異性と、それも、こんな綺麗な男の人と、こんな距離まで近づくのだ。どこかソワソワ、ドキドキしてしまう。


 そんな私の心情を、読み取った私の執事は。



「ん? 春子、トイレ行きたいの?」


「ち、違う! 離れて、変態!」


 思いっきり突き飛ばすと、案外すんなりと離れた。不思議そうな顔をして。

 こんな出来損ないの執事と、上手く生活していけるかしら。


 友達、出来るかな?

 これから、未知の学園生活が、始まる。




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