表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕方廃病巡り 。  作者: 巡 ( ◎ )
1/1

日がくれれば僕は逝く。

貴方は、大事な人を失う事がどんなことか、わかりますか。

僕はいまいちよくわかりません。


そもそも、大事な人とは、どんな人なのでしょうか。


「ねぇ、姉さん。姉さん ?」


ニュースではよく、死亡事故とか、人の命が失われる事が放送されています。


命が失われる事は、悲しいことだと思うけど、僕にはまだ、いまいちピンとこない。


「姉さん、起きてよ。朝だって。」


僕が物心着く前に、じいちゃんやばあちゃんは亡くなっている。


母さんも父さんも姉さんも、悲しいと言っていたけど、僕にはまだよくわからなかった。


「ねぇ、なんか今日姉さん、体温低いね。」


でも、命の喪失は、僕が想像するより辛いことだと思う。


でも、一番辛いのは、不本意の殺人。


「ほら、学校遅れるよ。早く起きて。」


だって、現に今 ________




「姉さん ? 」



*



「あ、れ。」


気が付いたら、僕は知らない場所にいた。

なんとなく、見覚えはあるけど、知らない。


目の前の大きな建物は白く、古い。

ところどころ穴が空いてるし、苔が生えてる。

なんだか、禍々しい。


気味悪いから、早く帰ろっか。


_____何処に ?


「え、?」


ふと、そんな声が聞こえた気がした。

周りを見渡せば、誰もいない。


なんだ、気のせいか。


でも、その言葉は核心をついているようで。

あれ、僕の家、どこ ?

ていうか、僕、誰 ?


「え、ぁ、え ?」


わかんないわかんないわかんないわかんない。

ここは何処、私は誰、なんて良くある文句。


でも、実際はそんなこと言う暇無いと思う。

頭の中はわかんない、で埋め尽くされてる。


「ぁ、ぁ、わ、っかん、ない、? 」


頭が痛くなる。

次第に僕の体は自由に動かなくなる。


勝手に足が動いて、閉まっている錆びた柵を勝手に手で揺らす。


がしゃ。

がしゃがしゃがしゃがしゃ。


「開けて出して出して出してわかんないよ、だれ、だれだれだれ、出して出してて出出出、」


錆びて、脆そうなのに、いくら揺らしても柵は壊れない。


「あ、は。」


錆びた柵の一部が刺さって、手はいつの間にか血で塗れていた。


まるで、今から死ぬみたいな絶望感。

僕もわかんなければ、家族もわかんない。


友達は、いたの ?


_______おいでよ。


不意にそんな声が聞こえて。

あぁ、さっきのは幻聴じゃ無かったんだ。


ゆっくり柵から手を離せば、おぼつかない足取りで、廃病院の前に立つ。


ゆっくりと扉を開ければ、歓迎の笑い声が聞こえて、ぎぃぃぃ、と扉が鳴った。


最初に目に入ったのは、青白い光で出来た、今にも消えそうな女の子だった。



*



取り敢えず、目の前のものに縋りたくて、女の子に近付こうと足を進めた。


「あ、の」


「えっ、? 」


女の子らしい声をあげて、その子は僕を見た。

よかった、ちゃんと会話できる。

そうしてもう1歩、進めようとすると彼女は声をあげた。


「う、動かないで。」


「え、な、なんで、?」


意味がわからないけど、彼女は悲鳴にも近い声で言うから、びくりと体は硬直する。


「看板、気付かないの ? 」


看板、と言われて辺りを見渡せば、わかりにくい場所に看板があった。

そこには、血で書きなぐられた文字がつらつらと並んでいた。


少し、不快だ。


「え、っと、土足厳禁。汚い足で踏み込むならば、足を捨てろ、?」


どういうことだろう。

足、と書いてあるから、足をなんかしなきゃなのかな。


そう思い、自分の足元を見ると靴は泥と血でぐちゃぐちゃだ。


病院玄関の先は血と泥で塗ったくられている。


「あぁ、そういうこと。」


僕は靴を脱げば靴箱に入れて、近くにあったスリッパを履いた。


そうして病院内に上がり込む。


「よくできました。」


女の子はそうやって笑った。

何処か、懐かしい雰囲気だ。


「教えてくれて有難う。

あれ、そのままだったらどうなってたんですか?」


そう問えば彼女は少し俯いて、口を開いた。


「血と泥の足跡、途中で途切れてるでしょ?」


そう言われて、足跡を観察すれば、途中で何かが爆ぜたように血が広がっていて、少し引きずった跡が続けば大きな血だまりになっていた。


「死ぬ、んだ、。」


「うん。」


何人も死んだのか、明確にわかるのは数少なかった。


「ねぇ、君の名前は?」


彼女の名前が知りたくなって、問うたけど、彼女は寂しげに笑うだけ。


広くて冷たい病院内に僕の声が響く。


「私より、自分を知りなよ。」


そうやって笑えば、彼女は消えてしまった。

忽然と。


「え、ちょっと、。」


彼女が居た場所に手を伸ばすけどなんにもない。


また、会えるのだろうか。

うぅん、会いたい。なんとなく、会いたくなった。


「取り敢えず、ここ、探そうかな。」


今更だけど、僕は案外冷静みたいだ。


玄関のすぐ近くには受付があって、受付には名簿があった。


名簿には名前が沢山書いてあって、もしかしたらあの子と自分のことも書いてあるかも。


そう思って、1通り読んでみる。


「花宮時雨101113、平浜忍131202、泡寺幸村131226、

緋山定140319、花咲奏斗150921、____ 花宮柚季170105 。

この数字は...日付、かな?10年...だいぶ前の数字だから、これは入院した人、かな。

あ、この時雨さんと柚季さんは兄弟、かな。」


この名簿は何か役に立つだろう、と思い身に付けていたエプロンのポケットにしまう。

そういえば、僕の今の格好は全く気に止めていなかった。


普通のシャツ、黒いズボンの上に可愛らしいペンギンが描かれたエプロン。

そして、黄色いレインコート。


エプロンは少しふるぼったいのに対して、レインコートは真新しい。

けれど下の方は泥で汚れてしまっている。


「なんとなく、外したくないな。」


そう思い、深くフードを被った。





ロビーをもう一度見渡す。

柔らかそうなソファは破け、ふわふわの綿がはみ出ている。


一部は血でしなしなで、まるで腸みたいだった。


名簿の他には資料らしき資料はなく、管理が行き届いてるな、と思う。


まずは、この病院の構成を頭に入れたい。

そこまで広くはなさそうだけど、彷徨き歩くのは少し怖い。


「資料、欲しいなぁ。受け付けの奥、地図とかあるかな。」


構成だけでなく、この病院の事も知りたい。

ならまずは受け付けの奥の部屋、職員の職場と、資料室を見よう。


受け付けのカウンターの中に入り、簡単に机を漁る。

紙らしきものはあったが、殆どが血塗れで、触りたくない。


人らしい物は、ひとつもなかった。


受け付けカウンターの扉を開けて、職場に入る。

幸い、鍵はかかっていなかった。


職場は狭く、やはりこの病院はあまり大きい病院ではないことを教えてくれる。

職員の机を漁れば、これも何もなく、見つけた物は壁にかけてあったカレンダーと、

病院内の案内図だけだった。


カレンダーには、2016年、5月5日のところまで印がついている。

つまり、今日は2016年5月5日だろうか。


______いや、さっきの名簿、一番新しい日付は、柚季さん、2017年1月5日だった。


なんで、日付が合わないんだ?

考えたけど、わかるはずもなくて、諦めた。


案内図を見る限り、此処は簡単な構成で出来ているらしい。

少しの病室と、診察室。

それと、ロビーと職員室、資料室、薬剤庫、手術室、レントゲン室、リハビリ室、食堂、浴場。


これじゃ何病院か、わかんないじゃないか。


もっと情報がいる。

職場の奥にはもうひとつ、扉があって、案内図を見る限り、そこは資料室だろう。


その扉に手を掛けるも、開かない。鍵が必要だ。


「やっぱ、しかたないよね。」


病院を、歩き回るしかなさそうだ。

僕はもう一度、ロビーへと戻った。



始めまして、巡 ( めぐり ) です。


ホラー好きなので、前々から友人と設定を組み込んでいた小説を執筆させていただきました。


連載型の小説です。


此方のサイトは始めて投稿致します。


誤字、脱字や文章の至らないところもあると思いますが、お付き合い願います。


それでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ