第8話「出会い」
俺は2週間ほど家と広場を行き来する生活を送った。
だがもちろんその間にシリルとオリヴィアとの会話やコミュニケーションを蔑ろにはしなかった。
何度も言うが俺はこの関係を心から望んでいる。
たとえ魔法が今より格段に上昇したとしても、その代償にこの家を離れるなど考えたくもない。
しかし、いつかは親離れをしないといけないとは俺も分かっている。
心苦しい思いもあるが、そのときは必ず最高の親孝行をするのだ。
そう考えつつ俺は今日も朝食を二人と一緒に食べていた。
「クリス、魔法の調子はどうだ?」
「うーん、とりあえず基本四属性はあらかた使えるようになったよ。あ、でもね。僕、なんか氷と雷の魔法も使えるようになったんだ。だから今日はそれを利用してまた新しく魔法を創ってみるよ。」
シリルが魔法のことを聞いてきたので、俺は魔法練習の報告をした。
まぁシリルはそれを聞き、苦笑いしてオリヴィアと顔を合わせたのだが。
多分俺の魔法の習得の早さ、そして一般的に大量の魔力を消費すると言われている氷・雷属性を俺が使えるというカミングアウトに困惑しているのだろう。
ちなみに俺は自分から魔法のことについては一切話さない。
俺は魔法なんか抜きで二人と純粋にこの生活を楽しみたいのだ。
だが魔法に憧れていた一面もあるし、日々鍛練するともあの広場で決めた。
だからその中立案として、最初に広場へ行った日以外は広場へ行くのは午後からとしていた。
といっても俺は自分からは魔法のことを話さないというだけで、二人の方から何か聞かれると俺は包み隠さず言うスタンスでいるのだ。
朝食を食べ終わった後はオリヴィアと会話しながら家事を手伝うことにしている。
前世では父さんと二人暮らしだったから家事は大体できるしね。
オリヴィアはよく俺に話してくれた。
オリヴィアが俺と彼女の二人に共通する淡い青髪に誇りを思っていること。何故自分は冒険者となったのかということ。そしてシリルと出会ったこと。
俺はオリヴィアが生き生きと話をしてくれるだけで心が温かくなっていた。
あぁ、母さんっていいな。
なんでこんなにも心が落ち着くんだろう。
俺がそう思っていると、次はオリヴィアがカミングアウトする番だった。
「あのねクリス。実はお母さんのお腹にはあなたの弟か妹がいるのよ。」
「え、そうなの!?じゃあ僕、お兄ちゃんになるんだね!」
「うふふ、そうよ。あなたは良いお兄ちゃんになるわ。」
俺は実際驚いたが、正直に言うとなんとなく予想はついていたのだ。
二人はまだ若い。
俺は書斎の一件以前から、二人に子供部屋に寝かしつけられた後に隣の部屋から聞こえてくる声でそれがなんなのか察していた。
しかしそれを聞いて二人への対応が変わるわけでもないし、ごく当然だと受け止めていた。
まぁ第一、対応を変えることは野暮であるし俺にもそんな気は微塵もなかった。
そして俺はなにより今、二人にとって恥のない息子として生きると決めているのだ。
いいか俺。
俺はクリスだ。
シリルとオリヴィアの息子クリスだ。
シリルとオリヴィアは周囲からよくできた夫婦として知られている。
しかし今まで俺が外に出なかったことで、周りから心配されているだろう。
俺は一度二人の顔に泥を塗ってしまっているのだ。
失敗はもう消せない。
だが今は俺の行動次第で周囲の印象はどうにでもなる。
そのための行動として俺はコミ障を克服するのだ。
そう思っているとオリヴィアが続けてこう言った。
「あ、でもこのことはお父さんに言っちゃダメよ?まだ秘密にしときたいから。」
Ok,MyMother.
俺は分かったと返事をし、手伝いを終えると今日も広場へと向かった。
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広場は俺が魔法の鍛練をしていたことで周りの木々がなぎ倒され、そこを整地しては家に帰るという生活を2週間も続けていたため、かなり広くなっていた。
そのことは広場がある山の麓に住む人たちの耳に入ったのか、俺が広場に来たときには俺ぐらいの年頃の子供が数人遊んでいた。
4~5人であろう子供達を見ると何かを中心にして囲っている。
そして足を動かして・・・ってあれは蹴っているのか?
おいおい。
しかもよく見ると中心には一人の子供が蹲っている。
これはイジメだ。
それも集団リンチ。
俺は迷った。
俺はシリルとオリヴィアの息子として恥ずかしくない子供に生きようと決めていたはずなのに、だ。
情けない・・・。
いざ実際に行動に移そうと思ったらこれなのかよ。
だが俺は怖かったのだ。
未だに二人以外の人と接することが。
いや、だがここでこの状況を見捨てたら俺は一生変わることができないだろう。
俺は意を決して、そばにあった小石をイジメている子供達に投げた。
そして小石は見事に当たり、そいつらは俺に気が付いた。
「おい、石を投げたのはお前だな。なにすんだよ。俺たちはただこいつと遊んでやってただけだろ。」
そう言ってこいつらのリーダーだと思われるヤツが蹲っている子を指さして言ってきた。
色々思うことはあるのだが、もし本気で言ってるのなら親の顔が見てみたいものだな。
まぁ冗談でそう言っているとしても、コイツらのやってることはとても健全な子供の行為ではない。
イジメは許さない。
イジメはぼっちを標的にする。
俺は二人の子供としても同じぼっちとしても絶対にイジメを許してはいけないのだ。
俺はコミ障を発揮させて言葉では言えなかったが、そいつらを睨んだ。
「おいおい、なんだ。お前みたいなチビな女が俺たちに勝てるとでも思っているのか?怪我したくなかったらさっさと家に帰って大好きなママのおっぱいでも飲んでろよ。」
しかしなんなんだ。
こいつホントに4~6歳ぐらいの子供なのか?
言ってるセリフが完全に出オチの悪役だぞ・・・。
まぁ実際俺の発育が遅くてチビなのは認めよう。
おそらく身長はオリヴィアの遺伝でもあるのだろうし。
だが俺は女じゃない。男だ。
そして俺はママであるオリヴィアが好きだよ。
すべてにおいて好きだ。
とてつもない感謝があるの。
だがもう乳離れは済んでいるのだ。
馬鹿にしないでくれたまえ。
そして今気が付いたのだが、何度もオリヴィア大好きと言ってるが俺はマザコンじゃないぞ。
あくまで母親としてオリヴィアが好きなのだ。
あれ。結局それは俺がマザコンに当てはまるということになる気が・・・。
クソッ、なんだコイツ・・・。
出オチの悪役のセリフを言っていると見せかけて俺を巧妙な罠に嵌めていたのか・・・!
はい、もう茶番はここまでにしよう。
問題はコイツらをどうするかだ。
一応俺にはイジメられていた子を守るという大義名目がある。
それならコイツらをボコったとしてもシリルとオリヴィアは分かってくれるはずである。
よし、なら話は早い。
幸いにもリーダーっぽいヤツは俺が無視していると思ってかなり怒っている。
これなら先にあっちが手を出したという名目もできるな。
あ、先に手を出したのは石を投げた俺だったけ。
・・・まぁそんなことは些細な問題なのだ。
気にしたら負けである。
やがて黙ってる俺にしびれを切らしたのかヤツが怒鳴る。
「おい!いつまで無視してんだよ。おいお前ら、女だろうがこいつもやっちまうぞ。」
そして俺に突っかかってきた。
同じくイジメていた三人も同時にだ。
俺は無詠唱で《風裂ノ球》を発動させた。
俺自身は効果を受けないが、蹲っている子にも被害は出てはいけない。
俺はこっちに向かってくるヤツらをできるだけ引きつけた。
そして十分に引きつけると俺は《風裂ノ球》を破裂させる。
球は派手な音を周りに響かせた。
ちなみに威力は魔力を調節して、球の近くで音を聞くと気絶するようにしてある。
本気でやったらコイツらの鼓膜が破れるからなぁ。
音を間近で聞いたコイツらはその場で地に伏せた。
ふぅ、魔力調整もだいぶ完璧になってきたな。
だが俺にとってはここからが一番の問題だ。
俺はイジメられていた子の元へと歩き出す。
その子はいつの間にか蹲っておらずこっちを見ていた。
さぁー、どうしようなこれ。
これ絶対俺も喋らないといけないパターンだよね。
俺はそう思いつつイジメられていた子の近くに、その子と同じ目線になるため座った。