第7話「魔法適正」
俺は一日中広場で魔法の練習をしていた。
俺は前世の知識とイメージにより《火炎ノ球》の他に水属性の《水ノ創造》、土属性の《土遁ノ壁》、風属性の《風裂ノ球》を造り出した。
これらの魔法の能力はこうだ。
《火炎ノ球》:火属性の炎の球を前方に発射する魔法
《水ノ創造》:何もない空間から真水を造り出す魔法 (飲料可能)
《土遁ノ壁》:地面から高さ1~10m厚さ1~10m程の四角形の壁を俺の周囲に出現させる魔法 (使用魔力量で調節可能)
《風裂ノ球》:周囲の空気を圧縮し小さな球体にする。球体は任意で移動させることができ破裂すると派手な音が鳴り響く魔法
たった一日の成果にしてはかなり良いのではないだろうか。
もっとも魔力はまだ余っているのだが、新しい魔法を生み出すのは長い集中力と繊細なイメージが要求されるのだ。
今日はもう疲れたし、このへんでいいだろう。
そして俺はこれらの魔法を使っているうちにあることに気付いた。
それは通常ならば同じ魔力量を使用すれば、魔法適性が異なるため属性によって効果に偏りが出るはずである。
だが俺が造り出したこれらの魔法を同じ魔力で使用しても効果は全て均等だったのだ。
ということは俺には基本四属性全てに適性があることになる。
つまり理論上は俺は将来的に光魔法を使えることになるだろう。
だが書斎にあったあの本には『基本四属性を極めし者』としか光魔法の習得条件は表記されていなかったのだ。
つまり『極める』の定義がハッキリしない以上、日々鍛練してその極めた日がくるのを待つしかないようだな。
また、俺は魔法を練習していく中で自分のイメージする魔法の大きさを発生させるのに適切な魔力量が分かってきた。
これでもうあの書斎のような惨劇は繰り返されないだろう。
あとこれは魔法を創造しているときに発見したんだが、どうやら基本四属性の『水属性』と『風属性』にはそれぞれ『氷属性』と『雷属性』が含まれているということが分かったのだ。
しかも氷属性は水属性の上位互換であり、雷属性も風属性の上位互換だ。
この属性を使えば戦闘用の魔法以外にもこの世界で電気製品というものを作れるかもしれないな。
そしてもう一つ今回の魔法についての練習で分かったことがある。
それは、魔力量についてなのだが俺の魔力量はかなり多いみたいだ。
それもなんと、体内で魔力を循環させることで日々増えていく感じがする。
いつかは最大魔力量も上昇が止まるだろうが、これも日課にするべきだろうな。
魔法の威力は使用者の魔法量によって比例するからね。
あ、そうそう。
他にも結構大事なことがあった。
これはオリヴィアから教えてもらった話なのだが
この世界における魔法には、『○○級』といったランク付けがされないらしい。
俺も聞いた時は疑問に思っていた。
というのもまずこの世界において、魔法を使うときには個人の魔法適正の他に詠唱・イメージ・魔力この三つが必要である
そもそも魔法は使用者が詠唱を唱えている中で、複雑な発音が入っている詠唱を一度も間違えることなく、自分の魔力に高度なイメージを加え続けた結果が、一般的に魔法と呼ばれる具体化現象なのである。
また、一つの魔法に対して詠唱は1パターンと決まっているが、
詠唱が同じ魔法のものだからといって、必ずしも同じ具体化現象が起こるのではない。
使用者のイメージできる技量によって『使用者独自』とよばれる強力な魔法のアレンジ具体化現象が使用可能になるのだ。
『イメージできる技量』と聞くとあまり難しくなさそうだが、ここで重要なのは複雑な詠唱できるだけ早くを口で言いながら一度も詠唱を間違うことなくイメージをするということである。
当たり前だが戦闘中に魔物が迫って生死が掛かっているのに、ゆっくりと詠唱なんかしてられないだろう。
また、ゆっくり詠唱を唱えていても同時に自分の行いたい魔法のイメージをするのはどのみち非常に難易度が高いのだ。
前世での世界で例えるとするならば、そうだな。
インターハイ出場がかかっている100m走の大会で、全力疾走している最中にこれから進学する大学を選べ。
と、遠くにいるコーチから言われた様な感じだ。
え?
そんなめちゃくちゃな例は例じゃないって?
まぁそれだけ難しいと思ってくれ・・・。
あと前に言っていた、使う魔法をより強力なモノにして発動させようとしても詠唱自体の難易度は変わらないということだが、
どうやら詠唱は思考の大半を奪われるということで意味をなしているらしいので、
長さ・難易度はさほど重要ではないらしい。
ただ詠唱中に行う具現化現象のイメージの難易度が跳ね上がるということなのだ。
さて今度は分かりやすいように《火炎ノ球》を例に挙げてみる。
《火炎ノ球》を意味する詠唱式は1パターンだ。
これはなにも《火炎ノ球》のみに当てはまるのではなく、先ほども言ったがこの世界の全ての魔法にはそれぞれ決まった1パターンの詠唱式があるのだ。
しかし、詠唱を唱えるだけでは魔法が発生しない。
強力な魔法が使いたいなら、それだけ強力な具現化現象をする高度なイメージが必要だ。
さてそこで二種類の状況を考えよう。
仮に初心者魔法使いが《火炎ノ球》を使うとする。
その具体化現象は一般的な魔力量と詠唱中にイメージできる難易度を考慮してもせいぜいテニスボール程の大きさの炎の球が発射されるだけだ。
一方熟練魔法使いが《火炎ノ球》を使うとしよう。
その具現化現象はまず魔力量からしてバスケットボール程の炎の球を生み出すだろう。だがさらに詠唱中に高度なイメージができると、ただ炎の球が発射されるのではなく対象を追跡したり分裂したりと、強力な付属能力が付くのだ。
これら前者と後者の違いは明らかだ。
そしてここで本題に戻る。
何故この世界の魔法は『○○級』と言ったランク付けされていないのか。と
まぁつまりこうだ。
『○○級というのは魔法の種類別における強さ・難易度を示すモノだが、強さ・難易度が使用者によって激しく変化するなら魔法に対するランクの付けようがないじゃん!』ということなのだ。
さてそこでだ。
俺は無詠唱で魔法が使える。
それが意味するのは俺は詠唱をする負担がなくなり、思考が100%具現化現象のイメージに費やせることである。
その結果、俺はほぼほぼ反則級な魔法の使用が可能なのである。
この話を聞いてから俺も、何故普段冷静なシリルとオリヴィアが俺が無詠唱で魔法を使えると言ったら感情的に魔法を学ばせようとしたのかがよく分かった。
さらに元々魔力量が多い俺はその具現化現象をさせるイメージが高度でなくても高威力な魔法が使える。
そのことは書斎の一件が証明してくれてるわけだし・・・。
ましてや俺が鍛練の成果で、最大限の力で魔法を使えるようになったら一体どんな魔法が使えるのだろうか。
二人の慌て様が今になってようやく理解できた。
あ、あとそういえばだ。
最後になるが俺は昨日シリルから『英雄・ペテルギウス』について綴られた本をもらった。
シリルが俺のためにわざわざ買ってきてくれたらしい。
昨晩にそれを読んだのだが、どうやらペテルギウスも無詠唱で魔法が使えたそうだ。
ちなみに世間では無詠唱で魔法が使える人は人間族の歴史上数人しか確認されていないので、俺もそのうちの一人になるということか。
また本の内容は、300年ぐらい昔に起こった人間族vs魔族の戦争『通称:人魔大戦』でペテルギウスと共に他の二人の英雄が活躍して人間族の勝利へと導いた。という話だ。
ちなみに二人の英雄というのは『時雨流の元祖である英雄・リゲル』と『天星流の元祖である英雄・レグルス」であるらしい。
無詠唱の魔法使いに、対照的な剣術を使う二人、か。
だが俺は話の内容よりか最後の数文に書いてあることが妙に気になった。
内容はこうだ。
『その後英雄と成ったペテルギウス・リゲル・レグルスは北の大陸とへ向かい、その行方は誰も知らない。だが三人は最後にこう言い残していった。北の大陸へ侵入することを禁じる。もし破れば再びこの世界に混乱と死が舞い戻るだろう、と。』
北の大陸は未踏の地で詳細不明になっていたはずだ。
しかし何故三人は北の大陸に入るなと言ったんだろう。
これをただの伝記として蔑ろにするのは簡単だが、俺はどうもそんな気が起きなかった。
将来的には必ず行ってみたい地でもあるんだ。
さて、思考整理はこの辺にして現実に目を向けようか。俺よ。
目の前には魔法の威力によって荒れ果てた元広場があった。
本当は魔法の練習って威力を上げるモノなんだろうけどな。
俺の場合、練習の目的の半分は強すぎる威力を制御して逆に減らすためだったし。
最初の方に制御できなくて少しやり過ぎたって言うか・・・。
しかしもうすぐ日が暮れる。
さすがに完全に日が暮れるまでには帰らないとまずいだろう。
片道で40分近くあるわけだし。
だけどさ。
このまま放置していったら間違いなく別の問題に発展しそうだよね。
はぁ。
俺はため息をついて、疲れた脳を働かせながら《土遁ノ壁》の応用魔法で荒れた広場を整地し終わった後にようやく家路についたのだった。