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第5話「家族」

 朝、目が覚めると俺は与えられた子供部屋のベッドにいた。


 あれ。

 昨日俺は確か急に襲ってくる睡魔に負けてそのまま寝てしまったはずなんだが。


 まぁ大方シリルかオリヴィアが大穴が空くときの音で気が付いて、寝ている俺を運んだんだろう。

 眠る直前、階段を上がってくる音が聞こえたし。

 

 だが問題なのはそこじゃない。


 あの書斎の惨劇だ。


 俺が撃った《火炎ノ球(ファイアーボール)》が本棚を直撃してほとんどの本を燃やし、二階の一部を外にしてしまった件。


 あの時は魔法が使えた興奮とあまりの出来事に深く考えられなかったが、改めて考えると俺はとんでもないことをしでかしたのだ。


 やっぱりシリルとオリヴィアには怒られるだろう。

 いや、前世の例がある。

 怒られるなんかじゃ済まない可能性だってあるんだ。


 はぁ。

 もうずっとベッドの中で毛布に包まっていたい。


 今更な気もするが、

 コミ障な俺がシリルとオリヴィアには普通に接することができるのは、血の繋がった親子として認識できているおかげだろう。


 俺的にはそれが、二人は俺を愛してくれるという俺の信頼による感情と、二人もまた俺を無条件で受け入れて愛しているという事実を元に成り立っていると考えている。


 俺はその関係が崩れることが怖いのだ。


 こんな子供の状態で二人に見捨てられたらどうしよう。


 シリルとオリヴィア以外、禄に人と接することができない俺に何ができるだろうか。


 この世界に転生して以来、状況に慣れようと憂鬱で不安な思いを出さずに4年近くも思考をこらしてきたが、今回のことで素に戻ってしまった。

 

 これが本当の俺なのだ。


 俺は誰かとの新しい関係を拒むくせに、既にある関係を何より大事にしてきた。


 だが、その分その関係が崩れることを何より恐れるのが俺という人間なのだ。


 

 あぁ・・・。

 やばい、泣きそうになってきた。


 やっぱり心を強く保とうとしても、所詮まだ俺の精神は高校生であることを実感させられるよ。



 そう考えているとドアからノックの音がした。



「クリス、起きてるか?入るぞ。」


 シリルと眼が合った。


 シリルは俺の顔を見て、一瞬驚いたような顔をしたがすぐに微笑んで言った。


「クリス、泣かなくてもいいんだぞ。まぁ何があったかは聞くが、何もお前を責めたりはしないよ。俺や母さんはお前を信じてるからな。とりあえず朝食でも食べようか。」


 俺はその言葉を聞いて、一瞬わけが分からなかった。


 だが俺はとりあえず頷き、そのままシリルと一緒にリビングへと下りた。



 リビングではオリヴィアが待っていた。


 彼女もまた俺を見ると微笑んでいた。

 

「おはよう。昨日はよく眠れた?」


 俺はなんと言って良いか分からず、ただ頷くばかりだった。


「そう、じゃあご飯を食べましょ。冷めちゃうと美味しくなくなっちゃうわ。」


 俺の脳内にオリヴィアの言葉がリフレインされた。


 俺には二人の対応が分からなかった。

 

 なんでこんなにいつも通りなんだ。

 なんでなんだよ。

 俺はあんなことをしたのに・・・。

 いくら自分たちの息子だからって、俺のしたことは度が過ぎるだろう。

 なのになんで俺にそんなに優しくしてくれるんだよ・・・。


 分からない。

 何にも分からないよ・・・。


 思わず涙が出た。


 そして俺はオリヴィアに抱きしめられた。


「泣かなくてもいいのよ。大丈夫だから。あなたは何も悪くないわ。何も心配しなくていいのよ。あなたは私が絶対守ってあげるから。だからどんなときでも頼っていいのよ。あなたは私の可愛いクリスよ。だから泣かないで。」


 俺はその言葉を聞いてようやく理解した。


 親というのは子供が出した損害に対してストレスを感じ、それを子供にぶつけるのではないのだ。


 親が怒るのは子供のため。

 子供に教育をしているのだ。


 前世のときもそうだったのだろう。

 俺のしたことは怒られるだけじゃ済まなかった。

 だが親はそれ以上に俺のやったことがどれだけいけなかったのかを示してくれたのだ。


 そして親は子供のしたことを受け入れて愛情で包み込み、育てていく。


 今オリヴィアはそれを俺に対して行ってくれているのだ。 


 思えば、前世の俺は中学1年の頃に母親と別れていたんだ。


 その後は父さんとの二人きりの生活で父さんは仕事が忙しく、申し訳なさそうにしていたが結局のところは父さんともあまり喋らなかった。


 要するに俺は思春期という大事な時期を親の愛情を知らないまま成長した。


 だがオリヴィアの精一杯の愛情を込めたこの言葉は、これまで閉ざしていた俺の心に大きな影響を与えたのだ。


 いつの間にか俺は無意識のうちに声を上げて泣いていた。


 ただ、日々を憂鬱に感じていた前世や、この世界に転生してからずっと疑問に思っていた自分の存在意義についての感情が、もはや自分のものではなく過去の産物になった気がした。



 この日、俺は本当の意味でクリストファーという一人の人間として転生したのだった。


 

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