第4話「魔法」
俺は書斎の壁を凝視したまま固まっていた。
それもそのはず、なんと二階にある書斎の本棚がある壁にきれいな大穴が空いてるのだ。
そして部屋の中には火花の飛び散り跡があり、少し焦げ臭いにおいがした。
幸いにも大穴が空いただけで、他の物体に引火はしていない。
うん。綺麗な海と山が見える。
アア、シゼンハスバラシイナ。
「・・・。」
はぁ、まてまて。そうじゃないだろ。
いや、頭では自分も分かってるんだ。
だけど現状を飲み込みたくない。
これが現実逃避というモノか。
ただただ心の底からどうしようもない感が漂ってくるな。
・・・まぁそうだな。
とりあえず、状況を整理しようか。
まず結果から言うと俺には魔法適性があった。
といっても本によると、
魔力適正があるかどうかを調べるのは完全に個人のイメージによるものだそうだ。
だが実を言うと俺には魔力をこの世界に転生したときに感じていたのだ。
そう、転生した時に感じた妙な違和感だ。
最初は体がいきなり高校生から赤ん坊になったことによる、脳の混乱かと思っていたが違ったのだ。
その正体こそが魔力であるらしい。
俺はその違和感を液体のようなモノだと考えて体の中で循環させ、最終的には体の中心である心臓のあたりに集めるイメージをした。
不思議と心拍数と体温が上がってきた。
やがてそれは違和感ではなくなり、むしろ心地の良い感覚になった。
俺はその液体に火属性のイメージを込めて、液体の一部を手に集めてみた。
そしてそのまま液体を手から離す感じで、心の中で叫んだ。
(最初の魔法といったらこれだろう!《火炎ノ球》)
と、まぁその結果がこれさ。
なんでだろうね。
最初の魔法がこんな威力だし、しかも無詠唱だよ。
魔法の使用は詠唱が必要だと書いてあったじゃないか・・・。
はぁ。
なんかグダグダ悩んでた俺が馬鹿みたいだ。
こんなことならもう魔法を極めて自由奔放に生きてみるのもいいかもしれない。
いや、だが調子に乗ってはいけないんだ。
前世でも学んだろう。
調子に乗ると碌なことがないんだ。
それだけはハッキリ断言できる。
これから毎日は勤勉に徹して、魔法の精度の練習と他の属性魔法が使えないか試してみよう。
まぁ最も優先すべきなのはこの壁の大穴のことだけどな・・・。
一体シリルとオリヴィアになんと説明しようか。
だがこういう場合は包み隠さずに言った方が後先のことを考えると良いのかもしれない。
そう考えていると二階へ上がる階段を大急ぎで上ってくる音が聞こえた。
俺は急激に襲ってくる眠気に逆らえず、思想を放棄し座り込んだ。
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二階からもの凄い音がした。
俺はそのとき丁度クリスとの時間を多く取ろうと思い、仕事を早めに切り上げて家に帰ってきていた。
手には英雄・ペテルギウスの活躍伝について綴られた本を持って、だ。
音の方向は書斎からだった。
台所で夕食の準備をしていたオリヴィアも何事かと俺の方を心配そうに見ていた。
そしてクリスがその場にいないことに気が付いた。
俺は無意識のうちに階段を駆け上がって一直線に書斎に向かっていた。
そして俺は書斎の扉を勢いよく開けた。
書斎にはクリスが眼を閉じて床に座り込んでいた。
よかった。呼吸はある。
目立った外傷もない。
どうやら眠っているだけのようだ。
クリスはオリヴィアから受け継いだ肩に掛からない程の淡い青髪を風に靡かせて少し不安そうな表情をしている。
ん?髪が風で靡いている・・・?
あれ、おかしいな。
部屋の中に風の流れがあるなんて・・・
そして俺は目の前に広がる外の光景に目を奪われた。
(あぁ、まったくこの子はほんとに・・・)
そう思って再びクリスに眼を向けるが、その寝顔を見ると何も言えなくなる。
もうすぐ5歳になるのだが、クリスは本当にオリヴィアそっくりに成長した。
クリスもオリヴィアと同様に守ってあげたくなる印象を感じるが、おそらくこの大穴を空けたのがこの子であったとするならば、一体この子はどう成長していくのだろうか。
『守ってあげたい人物が実は自分より遙かに強かった』ということになりそうだ。
そして俺はその後クリスをベッドに寝かせると、オリヴィアと壁の大穴について頭を悩ませるのだった。