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第17話「幸せ③」

 私は広場で寝転んでクリスと話をしていた。

 私は何故治療魔法を使ってクリスを助けられたのかを話した。

 私が破れかぶれでやってみただけ。と言っても

 クリスはすっごく感謝してくれているようだった。

 えへへ。私、少しぐらいはクリスの役に立ったかな。

 

 あとクリスは私にこのことは秘密にしようと言った。

 多分、お母さんに気を遣ってだ。

 私はもちろん。と返事をした。

 

 でもクリスは何か悩んでいるみたいだった。

 きっと、さっき私の中に流れ込んできた本当のクリスだ。

 私はそれを見て分かっていたけど、気づかない振りをしていた。

 いつか、いつか絶対必ず。

 クリスが私に助けを求めてきたら私はそれに応じよう。

 私はそう改めて思った。


 あぁ、今日はもう疲れちゃった。

 私たちはそのまま早めに家に帰った。



---



 翌日の朝。

 私は目が覚めた。

 いや、目が覚めたんじゃない。

 元々あまり眠れなかったんだ。

 私はクリスに抱きついている。

 クリスは恥ずかしそうだけど、私はそっちの方が安心するのだ。

 こうしているともう一人じゃないことを実感できる。

 それがただただ嬉しかった。


 クリスはまだ寝ている。

 相変わらず寝顔が可愛い。

 私はその寝顔を見ているだけで幸せだった。

 あぁ、なんだかやっと眠気がきたなぁ。


 だけどそのとき違和感に気が付いた。

 ん?あれ、クリスの目が開いてる・・・。

 え、クリス起きてるの?

 クリスは私を見つめていた。


 私から抱きついているとはいえ、こうして至近距離で見つめられると恥ずかしい。

 私はクリスとくっついていると安心するとはいえ少しぐらいは恥ずかしさを感じる。

 ちなみにいつもは積極的にアピールするためにクリスとボディータッチをしていた。

 だけど実は結構無理をしているのだ。

 内心いつもドキドキながらも頑張ってたんだよ。


 しかもそれが寝起きだとまだ心の準備が・・・。

 私は思わず顔をクリスの胸に押し当てた。

 私はまだ小さな子供とはいえ、なんだか他の子とは違う感情を知っている気がする。

 それが何でなのかは分かんなかったけど、そんな気がするのだ。


 

 その日は普段通り始まった。

 

 ただいつもと違うのは、クリスが今日はお母さんの手伝いをせずに出かけると言ったことだ。

 お母さんはそれを快く許していた。

 そしてクリスに何かの袋を渡していた。

 なんだろう。



 私はクリスに付いてった。

 外は寒くて雪が降っていた。

 私たちは手を繋いで街の中を進んでいった。


 私は行き先がどこなのかは分からなかった。

 だけど道中でクリスに聞くと海らしい。

 海かぁ。

 私も近くでは初めて見る。

 どんなところなんだろう。

 そう思って隣を見ると、クリスは悩んでそうだけど期待しているような顔だった。

 私はクリスに気づかれないように静かに唇を噛んだ。

 

 魔力切れからクリスに助けてもらって以降、何だか私の中でも変化が起こったような気がする。

 クリスの感情が私に入ってきただけじゃない。

 私の心にもそれは影響を与えたのだ。

 以前にも増して人の気持ちが分かったというか。少しだけ賢くなったというか。

 

 だけどそんなことはどうでもいいのだ。

 私にとって本当に大切なのはクリスなのだから。




 私たちは海に着いた。

 そしてそこに設置してあったベンチに座った。

 私はクリスの腕を抱えて頭を預けた。


「うわぁ~きれいだね、クリス。」


「あぁ、そうだね、シャル。」


「ねぇクリス。この海の向こうには、私たちが知らない世界がどこまでも広がっているのかな?」


「あぁ、そうだね・・・。」


 クリスは元気がない。

 やっぱり何か思い詰めているようだった。


「どうしたのクリス?元気ないよ・・・。」


 クリスはそれを聞いて一瞬驚いた顔をした。

 だけど(かす)かに笑って口を開いた。


「ねぇシャル・・・。もし、もし俺が今のこの生活を捨てて海の向こうに行きたいって言ったら。君はどこまでもついてきてくれるかい?」


 クリスはこう私に聞いてきた。

 その雰囲気から何となくとても大切なことなのは私でも分かった。

 そして同時に私を求めていると悟った。

 私はそのまま即答していた。


「え?そんなの当たり前じゃん。私はクリスとどこまでも一緒に行くよ。例えそれが辛いものであってもね。今のこの生活は確かに楽しいよ。だけどさ、私にとってはクリスと一緒にいる方がもっと楽しいんだよ?」


 私はクリスと一緒にいると楽しい。そう言った。

 だけど本当は違う。

 私はクリスを助けたいのだ。

 クリスを支えたい。

 ただクリスに自分のことを気遣っていると知られたくなかったら私は楽しいと言ったのだ。


 クリスは私の言葉を聞いてそのまま早口で言った。


「シャル。実は俺さ、あと数年したら本当に家を離れて外の世界に行ってみたいんだ。シャルにはまだこのことの重大さが分からないかもしれない。だから俺は君に強制はしないよ。人の人生はその人が決める物なんだ。だから俺はその、君に・・・!」


「大丈夫。ちゃんと分かってるよ、クリスの言いたいことの全部を分かってる。だからそんな顔して泣かないで。私はどこまでもクリスと一緒だからさ。よしよし、ほら大丈夫だよ。」


 私はクリスの早口な言葉と対象的にゆっくり優しく言った。

 そしてクリスの頭を撫でた。

 それをされているクリスは困ったような驚いたような嬉しそうな顔をしていた。

 

 その後、クリスは私を抱きしめてくれた。

 クリスから抱きしめてくれるのは初めてだった。

 ただ、私は自分が必要とされている気がして嬉しかった。



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