第15話「幸せ①」
クリスは玄関のドアを開けて、私を家の中に入れてくれた。
そしてクリスのお父さんとお母さんに私のことを詳しく説明してくれた。
それもすごく熱意に。
クリスの説得しようとしている横顔はかっこよかった。
クリスは全体的に可愛いのだが、私はそれを見て可愛いと思う他にも別の感情が生まれた。
その感情を初めの頃はなんだか分からなかった。
だからこの感情が何なのか、私はずっと考えていた。
クリスが私の人生を左右するかもしれない大事な話をしてくれてるときに、だ。
だけど私は考えずにはいられなかったのだ。
クリスは私を孤独から救い出してくれたから。私のためにこんなに必死になってくれているから。そして私を受け入れようとしてくれるから。
やがてその感情がなんなのかハッキリ分かった。
私はクリスが好きなのだ。
クリスとずっと一緒にいたい。
もっと傍にいてクリスを感じていたい。
そしてクリスが困っていたら今度は私が助けよう。
そう決意した。
クリスは話の最後に、私をこの家においてくれ。
そう言い切った。
クリスのお父さんとお母さんは少し考えていたけど、やがて口を開いた。
「ああ、わかったよクリス。シャルはうちの家で預かろう。確かにうちなら一人家族が増えても養っていけるだろうしな。そしてシャル、君はもう今からうちの子だ。まずは暖かいお風呂にでも入ってきなさい。それから夕食を食べながら今後について話そう。」
私は嬉しかった。
もう孤独じゃなくなる。
また家族ができる。
そして私に優しくしてくれる人がこんなにもいる。
だけどそれ以上に私はクリスと一緒にいられる。
そのことが本当に嬉しかったのだ。
私は泣いてしまい、何度もお礼を言った。
そんな私を二人は抱きしめてくれた。
私はクリスのお父さんに言われて、お風呂に入るためクリスに案内されていた。
いや、もうクリスのお父さんじゃない。
私のお父さんでもあるのだ。
お父さんかぁ。
いつも他の子を見ていて、私はずっとお父さんの存在が欲しかった。
だけど私にもその存在ができたんだ。
それにお父さんだけじゃない。
お母さんもいるのだ。
私は許されるのなら二人に精一杯甘えよう
そう考えているとお風呂場に着いた。
「うわぁ~お風呂なんて久しぶりだよ。案内してくれてありがと、クリス。」
クリスはどう致しまして、と軽く言いながらそわそわと脱衣所から出て行った。
あれ、クリスは入らないのかな。
お風呂は家族で入るものだ、って聞いてたんだけどなぁ。
クリスはもしかしたら私のことがあんまり好きじゃないのかもしれない・・・。
それは悲しいことだけど、なら私のことを好きになってもらえるようになればいいんだ。
もう内気な性格ではいけないのだ。
よし、これからは明るく元気な子になろう。
そしてゆっくりでいいからクリスに私のことを好きになってもらえばいい。
私はそう考えながらお風呂に入った。
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お風呂から上がったらクリスが新しいタオルを持ってきてくれた。
そして私の髪を綺麗に拭いてくれた。
私はクリスに髪を拭かれているのが気持ちよかった。
そして私たちはこれからの生活について話し合った。
私たちが決めたことはこうだった。
一つ、私はクリスの家の子として扱う。
二つ、私は何も遠慮してはいけない。
三つ、クリスは私と一緒に過ごしてあげること。
特に三つ目はお父さんとお母さんが必ずだぞ、という雰囲気を出しながら決めてくれた。
私は文句などなかった。
お父さんとお母さんはすっごくいい人だなぁ。
いきなり現れた私にもこういう対応をしてくれるんだもん。
私は二人にクリスと同じぐらい感謝した。
そして寝るときは私はクリスと一緒に寝た。
私は今までずっと家の小さく寒いベッドでずっと一人で寝ていた。
だから誰かの温もりを感じて寝てみたかったのだ。
最初、クリスは私と別に寝ようとしていたけど私がそれを頑固に嫌だと言った。
それを聞いてクリスは恥ずかしそうにしながらも、私と一緒に寝てくれたのだ。
朝起きるとクリスはもういなかった。
私はクリスの温もりが感じられず少しパニックになったけど、やがて今の状況を思い出して落ち着きを取り戻した。
一階のリビングに下りるとお父さんとお母さん、そしてクリスがいた。
私はこういうことに慣れていなかったからあんまり上手におはよう。とは言えなかった。
だけど三人は私に笑顔でおはよう。と返してくれた。
この何気ないやりとりが私はすごく嬉しく感じた。
私たちはそのまま朝食を食べていた。
朝食は豪華だった。
以前の私なら決して食べれないようなものも多くあった。
私は初めは戸惑っていたけど、クリスに勧められて食べ始めた。
そうしているとお母さんとお父さんが口を開いた。
「クリス、シャル、ご飯を食べ終わったら買い物に行くわよ。シャルの服とかその他の生活に必要な物を買ってこなきゃね。それにクリスは今まで外に出なかったから、この街のことを何も知らないでしょ?シャルも同様ね。この街の案内も兼ねて今日は中心街に行きましょ。」
「おう、それがいいな。お父さんも中心街にある自衛団の本拠地で仕事をしてるんだぞ。もし行く機会があれば是非来てくれ。2人にも紹介したい人がいるんだ。」
私とクリスは分かった、と返事をしてそのままご飯を食べ続けていた。
ご飯を食べ終わったクリスは、私に寝間着とは違うまた新しい服を渡してくれた。
どうやらこれもクリスが昔に着ていた服らしい。
そしてまだ着ることを辞めて日が経ってないのか、服からはクリスの感じがした。
あぁクリスの匂いがする。
ずっと嗅いでいたいようないい匂いだ。
服を着た私はいつの間にか無意識に服の匂いを嗅いでいた。
あ、クリスに見られた。
クリスは何故か申し訳なさそうな顔をしている。
なんか私も恥ずかしい。
気まずいよぉ。
どうしたらいいのこの状況。
・・・はやく出かけたい。
「さぁ2人とも、準備はいい?そろそろ出かけるわよ。」
そう思っていると、丁度玄関からお母さんの声がした。
ありがとうお母さん!
私はクリスとお母さんと三人で街に出かけた。
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家から出かけた私たちは手を繋ぐことにした。
お母さんは自分を中心にして私とクリスと手を繋ごうとしていた。
実際、その方が私たち二人の存在をお母さんはこの人混みの中でも分かるからそっちの方がいいのだろう。
だけど私はクリスと手を繋ぎたかった。
だからお母さんに上目使いでお願いした。
お母さんは笑いながら「分かったわ。」と言ってくれた。
そして私はクリスと手を繋ぐことができた。
「えへへ。クリスの手、暖かいね」
クリスはそれを聞いて恥ずかしそうな顔をしていたけど、その後心配そうな顔にもなった。
なんでだろう。
私たちはしばらく歩いて服のお店に入った。
お母さんは出迎えてくれたおじいちゃんと話している。
わたしはクリスの後ろに移動した。
まだ家族以外の人と接するのに慣れていない。
いずれ直さないといけないのは分かっているけど、今は恥ずかしい気持ちが上回ってしまった。
しばらくしてお母さんとそのおじいちゃんが話し終わった。
私とクリスは体のサイズを測ってもらった。
最初はおじいちゃんに恥ずかしい気持ちを抱いていたけど、時間が経つにつれてなんだか別に気にならないようになっていた。
私はクリスを見た。
クリスも私に気が付いて微笑んでくれた。
そうこうしているうちに、おじいちゃんは手を止めてこう言った。
「ふむ、サイズは大体分かりました。服はそれぞれ2着ほど準備をいたしましょう。なにかデザイン等の要望はありますかな?また、服の素材等々も使う素材によっては多少高価になりますが受け付けております。どうなさいますかな?」
私は服の素材でなんで値段が変わるのかは分からなかった。
だけどデザインは自由に決められる、そう聞いて心が躍った。
クリスもそう聞いて私と一緒にお母さんの方を向いた。
お母さんは少し考えていたけど、やがて口を開いた。
「んー、デザインはクリスとシャルで決めていいわよ。だけどそうね、普通の服の他にもクリスはまた新しい外套も欲しいでしょ?どうせ今着ているそれもすぐ小さくなっちゃうわ。まだ新しいけど、今のうちに少し大きめのものを作っておいた方がいいかも。それにシャル、あなたもコートかなにかが必要だわ。これから寒くなってくるんだし。あ、だけどクリス。どれか一つの服には淡い青色をいれてほしいかも。なんだかんだでクリスは青が似合うと思うの。」
やった!
服のデザインは私が自由に決められるんだ!
私はいままでシンプルな白色の服しか着ることができなかったけど他の子を見て、私ももっといろんな服を着てみたい。
そうずっと思っていた。
それが今、実現できるんだ。
私は嬉しくなってお母さんに抱きついた。
そしたらお母さんも私を抱きしめ返して、頭を撫でてくれた。
私は幸せだった。
私とクリスは服の要望を言った後、お店を出て市場に着いた。
市場では活気があって、様々な物が売っている。
その中から生活に必要だという物をお母さんは買っていた。
だけどお母さんはクリスに聞こえないように私に言った。
「シャル、実はもうすぐクリスの5歳の誕生日なの。だからこれを買ったことはクリスに秘密にしてね。」
そうして三角形の丸くて先っぽが尖ってそこから紐が出ている物を見せてくれた。
これが何なのかは私は分からなかったけど、お母さんがそう言うなら私は秘密にすると返事をした。
お母さんは笑顔でいい子ね、とそう言ってくれた。
その後はお父さんがいるって言ってたでっかい建物に着いた。
中に入ると、ロビーというおしゃれだけど落ち着いた部屋が広がっていた。
受付でお母さんが何か話したら奥に案内してくれた。
「おう来たな。子供達を連れてきてくれてありがとな、オリヴィア。」
「いえいえ、子供に父親の仕事を見せるのは母として当然でしょ?」
奥に行くとお父さんがそう言って出迎えてくれた。
横にいるクリスを見ると羨ましそうな顔をしていた。
そのままクリスを見ているとクリスと目が合った。
そして目が合った瞬間、私はなんとなく悟った。
あぁ、クリスはお父さんとお母さんの関係を羨ましく思ってたのか。
そして私を見たってことは・・・。
私は顔を下に向けてしまった。
顔が暑い。
自分でも顔が真っ赤なのが分かるから余計に恥ずかしい。
クリスにどう思われちゃったのだろう。
あぁ、もう。私の馬鹿・・・!
その後はこの出来事をなかったことにしようと、そのままお父さんの仕事を見学して回った。
そしてそろそろ家に帰ろうか、そう私たちが思っているときに扉が開いて大きい男の人が入ってきた。
優しそうなお父さんとは真逆でその人は怒っているように見えた。
だけどお父さんは笑いながらその人に話しかけていた。
「おお、やっときたか!もう来ないかと思って心配してたんだぞ?」
「ああ済まない。思った以上に今日は魔物の数が多くてな。それを片付けてこっちに来るのに時間が掛かったんだ。許してくれ。」
魔物?
あぁ、あの時見たよく分からない怖くて恐ろしいなにか、なのかな。
そんな怖いものをやっつけてたの・・・?
そう思っているとお父さんが私たちの方を向いて、この人を説明してくれた。
「クリス、シャル。紹介しよう、この人はアーロン。自衛団の隊長であり天星流の使い手だ。剣の腕前はお父さんと同じぐらい強いぞ。」
自衛団っていうのはお父さんが働いてるっていうところだ。
そして天星流がなんなのかは分からないけど、隊長って言ってる。
多分偉い人なのだ。
だけどその人、アーロンっていう人は怖い。
怒っているみたいだし、体も大きいから小さい私には怖く感じる。
私はクリスの後ろに隠れてクリスに抱きついた。
怖いよぉクリス・・・。
お父さんがいた建物から出て家に帰るとき、お父さんも一緒だった。
クリスはいつも何だかんだでお父さんとあまり喋れていなかったそうで、今よく喋っている。
クリスは楽しそうだ。
私ももっとクリスと喋って傍にいたいけど、今はしょうがない。
我慢も大切なのだ。
私たちは日が沈むぐらいに家に着いた。
お父さんとお母さんは夕食の準備をしている。
私はお風呂に入ることにした。
本当はクリスと入りたいけど、昨日の反応をされても困る。
だから一人で入ることにした。
だけど今のこの時間は悲しくも寂しくもなかった。
私は幸せだった。