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第14話「決意」

 俺とシャルは広場に寝転んで話をしていた。

 そして何故シャルが治療魔法を使えたのか俺に打ち明けてくれた。

 

 どうやらシャルはこの数週間、俺の知らない間によくオリヴィアと一緒にいたらしい。

 そして家の手伝いをしている間、オリヴィアはかつての俺のように色々とシャルに話を聞かせてくれたそうだ。

 その中には魔法の話もあったのだ。

 オリヴィアはシャルに《回復魔法(ヒール)》の詠唱呪文を教えてくれたのだという。

 もっとも、オリヴィアはシャルが魔法を使えるとは思っていなかったみたいで、

 「あくまで私もお母さんも冗談のように会話していた。」とシャルは言っていた。


 ちなみにだが、なんで俺が知らない間なのかというと、

 最初の頃シャルは俺の魔法の練習についてきていた。

 だが俺は新たな魔法の開発をしているし、もしかしたら何か危険なことが起こるかもしれない。

 俺はそう思い、シャルについてこないように言った。


 俺はかつてシャルに「いつでも一緒にいるよ」と言った。

 そのため俺はシャルに対して申し訳なく、少し無責任に感じた。

 そして実際シャルも悲しそうな顔をしていた。


 だが俺が魔法の開発は危険なこと。もしかしたらシャルに怪我を負わせてしまうかもしれないこと。その代わり家に帰ったら存分に構ってあげること。

 俺はそう熱意を込めて言った。


「そっか、クリスは私を心配してくれてるんだね。分かったよ、クリスの魔法を見たい気もするけど我慢してる。だけど絶対だよ?家に帰ったら私とずっと一緒にいてね。」


 シャルは分かってくれたのだ。

 しかも俺に心配をかけないように笑顔でそう言った。

 俺はシャルの頭を撫でながら、ごめんね。と謝った。

 シャルは許してくれた。

 本当に優しい子だ。

 俺はそれからシャルとは午後に別行動をしていたのだ。

 だが今日は、シャルが俺の杖を使った姿が見たいということで許してしまった。

 新たな魔法の開発も今日はしないつもりだったし。


 しかし俺は杖を使って魔法を使用しようとしたら大爆発を起こした。

 シャルは自分でも使えないと思っていた《回復魔法(ヒール)》を使って俺を助けてくれた。

 シャルには治療魔法の適性があったのだ。


 その結果俺は火傷の跡も残らず後遺症らしいものもない。

 いくら治療魔法とはいえども、早急に対応しなければ少なからず影響は出てしまうのだ。

 シャルは自分の魔力をほぼ使い切ってまで俺のことを治してくれた。

 俺はシャルに感謝しきれなかった。


 ちなみに俺を助けてくれたときのことをシャルに聞いてみると、

 無我夢中で偶然頭にオリヴィアとの会話で詠唱呪文を教えてもらったことが思い浮かんだ、でも私が使えるか分からなかったから破れかぶれだった。

 そう苦笑いで言っていた。



 この一件はオリヴィアにもらった杖が原因だが、オリヴィアは悪くない。

 むしろオリヴィアがシャルに《回復魔法(ヒール)》の詠唱呪文を教えてくれていたからこそ、

 今ここで何事もないように俺とシャルは話していれるのだ。

 悪いのは俺が杖の意義、杖のもたらす効果を十分に考えずに魔法使い=杖を使うのは当然、といったことを考えて魔法を使ったことである。

 だから俺とシャルはオリヴィアに自責の念を感じて欲しくなかったため、このことを二人の秘密にすることにした。


 俺は今回のことでシリルとオリヴィアのことについて考えた。

 前にも言ったが二人はいい親だ。

 人間性としてもよくできている。

 だが二人はその人間なのだ。

 人間は誰でも失敗するし予期しないことにも出くわす。

 それ自体はごく当たり前のことだし俺も気にしていない。

 オリヴィアは俺を賢いと思ってくれている。

 だからこそ俺は5歳だが自分の大切な杖を譲ってくれたのだ。

 しかし俺はその譲ってもらった杖で、もしかしたら死んでしまっていたかもしれない。

 オリヴィアはそれを予期していないだろう。

 俺はオリヴィアが思っているほど立派ではない。

 要するにこういうことなのだ。


 人間とは誰しもが自分の思っていない結果になる行動をしてしまうことがある。

 だからこそこの件はオリヴィアを傷つけないため秘密にすると決めたはずだった。

 

 だが俺はそのことだけではなく、なにかもっと別の何かを感じた。

 なにかもっと根本的な何かが。


 あぁ、今日は疲れたな。

 俺たちは今日はそのまま早めに家に帰った。



---



 翌日、目が覚めるとシャルと目が合った。

 ちなみにシャルは今日も俺に抱きついて寝ていたようだった。


 シャルは眠たそうな顔をしていた。

 しかし俺と目が合っていることにシャルが気付くと、恥ずかしくなったのか顔を俺の胸に当てて隠してしまった。

 ちなみに時計を見るとまだ5時だった。

 シャル可愛い。

 いや違う、そうじゃないだろ。

 あ、違うって言う意味はシャルが可愛くないってことじゃないよ?

 俺が言いたいのは何でシャルがこの時間に起きているのかということだ。

 シャルも俺と同様にあまり眠れていないのだろうか。

 俺はそう思いつつ、いつも起きる時間まで再び目を閉じた。



 その日はいつも通り動き出した。

 朝食を食べてシリルが仕事に行き、オリヴィアがそれを見送った後に朝食の片付けをする。

 何気ないいつも俺が幸せを感じている日々だ。


 だが俺はオリヴィアに今日は手伝いができない。ちょっと出かけたいところがあるんだ。

 そう伝えた。

 オリヴィアは理由を聞かなかった。

 ただ、「そう、分かったわ。気をつけて行くのよ。」と快く言ってくれた。

 そしてこれは今までのお手伝いの御代だと言っていくらかのお金が入った袋を渡してくれた。


 俺、いや俺とシャルは二人で出かけた。

 午前中からだ。

 行き先は広場ではない。

 俺たちはラーク海洋の恵みによって成り立っているシーモア自治地区に住んでいる。

 だが俺とシャルは海を間近で見たことがなかった。

 だから海を見に行った。


 

 俺たちは家を出た。

 俺が着ている服はこの前に呉服店で買った服といつもの黒い外套だ。

 シャルも同様に白いセーター、紺と黒のチェックが入ったスカート、そしてその上にベージュ色のボアコートを着ていた。

 シャルは可愛かった。


 外は寒く、雪が降っている。

 俺たちは手を繋いで街の中を通り、海についた。

 海は穏やかでとても澄んでいた。

 俺が行き先を海に選んだ理由、

 それは前世で都会に住んでいた俺は自分の目で海を見たことがなかった。

 そして広大な海を見れば、もしかしたらこのもやもやした気持ちが晴れるかもしれないと思ったからだ。


 俺とシャルは海辺に設置してあるベンチに座りながら海を見ていた。

 シャルは俺の腕を抱えて頭を預けてきた。


「うわぁ~きれいだね、クリス。」


「あぁ、そうだね、シャル。」


「ねぇクリス。この海の向こうには、私たちが知らない世界がどこまでも広がっているのかな?」


「あぁ、そうだね・・・。」


「どうしたのクリス?元気ないよ・・・。」


 ・・・はぁ。シャルにも分かっちゃうほど雰囲気に出ていたか。

 そうだよ。

 俺は今すごく悩んで迷っている。

 それこそ、この楽しいはずの時間を犠牲にしてでも悩んでいた。

 そして俺はシャルに聞いた。


「ねぇシャル・・・。もし、もし俺が今のこの生活を捨てて海の向こうに行きたいって言ったら。君はどこまでもついてきてくれるかい?」

 

 俺は今のこの生活に疑問を抱いていたのだ。

 俺は転生してから、シリルとオリヴィアに愛情をもらって変わることができた。

 そして二人との生活がすごく楽しかった。

 また、そこにシャルも来てくれたことですごく充実した生活になっていたと思う。

 そして俺はこの生活がずっと続けばいいな、と。

 そう思っていた。


 それは俺だけじゃなくてシリルとオリヴィア、シャルの望みでもあるだろう。

 俺たち四人は誰一人としてこの生活を嫌だとは思っていない。

 ずっと続くと信じている。

 

 だけどだからこそだ。

 今のこの生活を送っている俺は、言わば温室栽培で育っている。

 さらに前世で人とつながりを断っていて、それでいて学生のうちに死んでしまった俺は、本当の意味で外の世界の厳しさを知らない。

 俺は弱い人間なのだ。


 誰かの愛情、誰かに自分という存在を受け止めてもらえないと自分が自分を保てない。

 今はシリルとオリヴィアからの愛情で俺はこうして生きてられる。

 それはすっごく感謝することだし、だから俺は一生をかけて恩返しをしようと決意をしたのだ。

 だが今の生活を続けてきたことでうすうす感じていたものが、昨日の一件でハッキリ分かった。

 

 俺はおそらくこの生活を続けていれば何も変わることはできない。

 いや、違うな。変われないのではない。

 自分で変わろうとしないのだ。

 口先だけで「二人に一生をかけて恩を返す」などと言っていても、この生活をこれからも望む俺がいる限り、一生を二人の(すね)をかじって人生を終えそうな自分がいて怖い。

 

 俺はいつかは自分で行動を起こさないと変われないと、かつて二人から学んだ。

 だかそれは所詮(しょせん)学んだつもりに過ぎなかったのだ。

 実際は何も身についていない。

 だから俺は変わりたい。

 俺のためにも、シリルとオリヴィアのためにもだ。

 二人からしても自分たちの手元から息子が離れていくのは悲しいが、

 人間として成長し、自律してくれるのが結局は一番いいことなのだ。

 俺は家から遠ざかり、外の世界で経験を積むことが必要だと考えていた。

 

 しかし世間的には俺はまだ5歳だ。

 だからこそ二人は俺が家を出て行くことを反対するだろう。

 もう少し歳を重ねてからでもいいだろう、と。

 この世界では成人するまでは親元を離れないのが普通だし。


 だが俺の中身は5歳ではない。

 二人はこのことを知らないが、俺は前世の歳を合わせるともう20歳を越えている。

 そのことを考えると本当にこの生活を続けていてもいいのだろうか。

 そう疑問に思ってしょうがなかった。


 だが(たち)の悪いことに、俺は誰かが俺を受け止めて助けてくれないと、かつての弱い自分に戻ってしまいそうなのだ。

 孤独は嫌だ。

 せっかく強くなって人と接することができたのに。

 本当に弱くて情けない自分が不甲斐ない。

 だから正直に言うと俺は家から遠ざかるとき、シャルに付いてきて欲しかった。

 数週間前も思ったが、俺は自分で「いつでも一緒にいるよ」と言ってたにも関わらず、無責任だと思う。

 そして、俺とは違って本当にまだ5歳になるかならないかのシャルにこんなことを聞く俺はひどいヤツだ。

 シャルは皮肉にもその生まれた過酷な環境のおかげで、他の子よりずっと賢い。

 シャルなら俺の今の雰囲気と照らし合わせて、この質問の意味がなんとなく分かるだろう。

 だがそれを考慮してもまだ5歳前後なのだ。

 シャルはこれからの人生を大きく左右するかもしれない俺の質問に答えなければいけなかった。


 だがシャルの返答は俺の予想を上回るものだった。

 

「え?そんなの当たり前じゃん。私はクリスとどこまでも一緒に行くよ。例えそれが辛いものであってもね。今のこの生活は確かに楽しいよ。だけどさ、私にとってはクリスと一緒にいる方がもっと楽しいんだよ?」


 シャルはそう笑顔で即答した。


 俺は嬉しかった。

 だけど心配になった。

 俺は『もし』と仮定形の話で質問したのだ。

 シャルにとっては現実味を帯びていないことを想像したのかもしれない。

 それに賢いシャルだが、俺の言っている意味が分かっていないことだって十分にある。

 そう思って俺は口を開いた。


「シャル。実は俺さ、あと数年したら本当に家を離れて外の世界に行ってみたいんだ。シャルにはまだこのことの重大さが分からないかもしれない。だから俺は君に強制はしないよ。人の人生はその人が決める物なんだ。だから俺はその、君に・・・!」


「大丈夫。ちゃんと分かってるよ、クリスの言いたいことの全部を分かってる。だからそんな顔して泣かないで。私はどこまでもクリスと一緒だからさ。よしよし、ほら大丈夫だよ。」


 シャルはそう言って俺の頭を撫でた。

 ・・・はは。ほんの少し前は立場が逆で、俺がこうやってシャルを受け止めてたんだけどなぁ・・・。

 いつの間にか逆転してたのか。

 にしてもシャルは何でこんなに強いんだろう。

 元々賢くて優しい子だと思ってたけど、今日のシャルから感じるものはまた別の雰囲気だ。


 だけどそんなのどうでもいいんだ。

 シャルはしっかりと理解している。

 そしてその上で俺に付いてきてくれると言ってくれた。

 俺はシャルを抱きしめた。

 シャルも抱きしめ返してくれた。


 傍から見るとベンチに座る赤髪と青髪の女の子二人が泣いて抱き合っているように見えるかもしれない。

 そしてその内容も誰かに聞かれていたらその人は、たかが現実味のない子どもの約束だろう。と鼻で笑うかもしれない。

 だがそれでもいいのだ。

 俺もシャルもこのやりとりが本心なのはお互いに理解している。

 他の誰からどう思われたっていい。

 本当に重要なのは俺たち自身なのだ。


 その後、俺たちはオリヴィアに渡してもらったお金を持って再び街の中へ入っていった。

 

 

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