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第13話「誕生日」

 オリヴィアとシャルと一緒に出かけた日から数週間が経った。

 その日は肌寒い日だった。

 俺は寒さを感じながらも目が覚めた。

 時計を見ると、年は305年、日付は11月1日で時刻は朝の6時半であった。


 ちなみにこの世界の日付は前世の太陽暦と同じで、1日の長さも24時間である。

 しかし西暦は、かの『人魔大戦』で三人の英雄が活躍し、それを称えるため人間族は戦争を終わった年を基準として西暦を設定したらしい。

 まぁ西暦は別として、俺はこの前買った日用品のこともそうだが、なにかとこの世界は前世の世界と共通するものを感じていた。


 あれ、隣を見るといるはずのシャルがいない。

 いつもは俺の方が先に起きるんだけどなぁ。

 今日は寒いからシャルも早くに目が覚めたのかもしれない。

 俺はそう思いつつ部屋を出てリビングへと下りた。


 

 リビングに入ると、前世のパーティーで使うようなクラッカーの音が鳴り響いた。

 俺は思わず驚いて後ろに倒れ込んだ。


「おめでと~、クリス。今日はクリスの誕生日だよ!」


 シャルがそう言って倒れた俺に抱きついてきた。

 あぁ、今日は俺の誕生日だったのか。

 どうやらこの世界は15歳で成人と認められるそうなのだが、

 5歳、10歳、15歳の誕生日を盛大に祝うらしい。

 だがその反面、その歳以外の誕生日はおめでとうというぐらいしか祝わず、口頭で済ませるだけだと前にオリヴィアに聞いたことを思い出した。

 そのため俺は今まで自分の誕生日というものをあまり意識せず、こうして祝ってもらうことなど想像していなかったのである。


「クリス、おめでとう。後ろに倒れてたけど大丈夫?」


「ありがとう、お母さん。大丈夫だよ。」


 そうオリヴィアも俺を心配してくれながら祝ってくれた。

 どうやらクラッカーはこの前の買い物の時に俺に内緒で買っていたらしい。

 この世界に日用品が前世の世界と同じような物があるとは知っていたが、まさかパーティーグッズもあるとは想いもしてなかった。

 

「おめでとう、クリス。これでお前も今日から5歳だ。お前はもう十分賢いから本来言うべきではないのだろうけど、敢えて父親として言うよ。『クリス、大きくなったな』」


「うん!お父さんもありがとう。」


『クリス、大きくなったな』


 その言葉を聞いて嬉しくなった。

 シリルはそのことを言うべきではない、と言っていたが、俺はそんなこと全然思っていないのに。

 いつだって子供は父親に認めてもらったり褒めてもらったりすると嬉しいものなのだ。


 

 シャルは俺のシリルとオリヴィアとの様子を見て「えへへ。」と笑っていた。

 というかシャル。

 いつまで俺の上に乗って抱きついてるんだ。

 そろそろ重いぞ。


「シャル。動きたいからちょっと離れて?」


「えー、やだよ。私は今日ずっとクリスといて祝ってあげるんだ!」


 シャルはこの数週間で明るく、よく笑う子になった。

 そして何故か俺とのボディータッチがより多くなった気がする。

 俺たちは同じベッドで寝ているが、俺が朝起きるとシャルは俺に抱きついて寝ているのだ。

 まぁ可愛いから怒るに怒れないし、許しちゃうんだけどな。


「はぁ、分かったよ。だけど立たせて?このままじゃ何もできないよ。」


「はぁーい、よいしょっと。」


 そう言ってシャルは俺の上から下りた。

 だけど腕にはずっと抱きついていた。

 まぁ動ければそれでいいか。

 そう思って俺はテーブルの椅子に座った。

 もちろんシャルもその隣に座った。


 テーブルの上には朝だというのに豪華な食事がならんでいる。


「たしかクリスの生まれた日は今日みたいな肌寒い日だったわね。」


「そうだね。たしかこんな冬を感じる日だった。」


 オリヴィアとシリルがそう話をしている。

 ほう。俺はこういう日に生まれたのか。

 自分の生まれた日っていうのは自分に最も関係ある日にも関わらず、自分の知らない日だから話を聞いていて俺の知識欲がうずく。

 そう思ってるとシャルが口を開いた。


「私は1月の20日が誕生日だから、クリスの方がお兄ちゃんだね。お兄ちゃん!」


「へぇ、そうなの?じゃあもうすぐシャルの誕生日も祝わなきゃね。」


「えへへ、私クリスがお祝いしてくれるの楽しみに待ってるよ。」


 シャルは俺と2ヶ月とちょっとしか歳が離れていないのだが、冗談まじりに俺のことをお兄ちゃんと呼んでくれた。

 そういえばお兄ちゃんで思い出したのだが、オリヴィアはお腹の子のことをシリルに言ったのだろうか?

 そう思って俺はオリヴィアの方を見た。

 オリヴィアは俺の疑問を察して、首を横に振った。


 だが俺の誕生日祝いの朝食を終えて片付けが済むと、オリヴィアはとうとうみんなに聞こえるように言った。


「あなた、シャル。実は私、お腹の中に赤ちゃんがいるみたいなの。」


 それを聞いたシリルは大喜びでオリヴィアを抱きしめた。

 シャルもオリヴィアが俺の名前を呼ばなかったことから「知ってたの?」と聞いてきたので俺は頷いた。


「あぁ今日は最高の日だよ。クリスの誕生日だし、もう一人子どもができているって分かったなんて・・・。」


 そしてシリルはそう呟いた。

 それを聞いたオリヴィアも幸せそうだった。



 その報告も一段落すると俺は二人から誕生日プレゼントを渡された。


「はい、クリス。私からはこれよ。」

 

 そうオリヴィアに言われて俺は細長い箱を渡された。

 

 俺は開けてもいい?と聞いて返事をもらうと、俺はその箱を開けた。

 中には魔法使いの杖が入っていた。

 それを見て驚いている俺にオリヴィアは続けてこう言った。


「それはね、お母さんが冒険者の時に使って杖なの。たしかその持ち手の所は南大陸にある世界樹の一部を材料にしててね、その先端の宝石みたいなものは竜の血を固めて作った最上級品の杖よ。」


 俺はその話を聞いてよりいっそう驚いた。

 オリヴィアは俺の顔を見て楽しそうに笑っていた。


「え、でもお母さん。そんな大事な杖をなんで僕にくれるの?大事な物なんでしょ?」


「ええ、大事な物よ。だけどねクリス。本当に大事なのは杖じゃなくてあなたよ。あなたはこれから先の未来、外の世界へと旅立っていくでしょ。だからそのときにその杖があなたを守ってくれるような気がするの。それに治療魔法しか使えない私より、あなたみたいな魔法の才能の塊のような子が使ってくれた方が杖も嬉しいのよ。」


 俺は思わず泣きそうになってしまったが、シャルも見ているしなんとか泣かずに済んだ。

 オリヴィアはそんな俺の様子を見て頭を撫でてくれた。


「クリス、お父さんからもプレゼントだ。まぁそう言ってもお母さんのプレゼントをもらった後じゃあ、ちっぽけな物だと感じると思うけどな。」


 そう言ってシリルも俺に小包みを渡してくれた。

 

 オリヴィアのとき同様に俺は開けてもいいかと確認をもらって小包を開けた。

 小包の中には指輪が入っていた。

 俺が疑問に思っているとシリルが説明してくれた。


「その指輪もな、お父さんが冒険者の時に使ってたんだ。指輪をつけると別次元と空間が繫げられるようになって、持ち物をその中に入れておけるんだぞ。」


 いわゆる魔法の鞄の指輪バージョンだろうか。

 

「全然ちっぽけな物なんかじゃないよ!お父さんありがとう!」


 そう言って俺はシリルに抱きついた。

 シリルは少し恥ずかしそうにしていたが、笑いながら俺の頭を撫でてくれた。



 そして、それを見ていたシャルが俺に言った。


「クリス、ごめんね。私も何か上げようと思ってたんだけど、クリスの欲しいものが見つからなかったからプレゼントは『私』で勘弁して?」


 それを聞いたシリルとオリヴィアが大声で笑った。

 しかしシャルよ。

 できればそれは10年後に言って欲しかったな。

 というか最初に俺がリビングに入ったときに言ってたのはそういうことだったのか。 



---



 その後は日常だった。

 

 シリルもいつも通り仕事へ行ったし、オリヴィアも家事をしている。

 俺はオリヴィアの手伝いを終えると、午前中のんびりして過ごした。


 午後になると俺は今日も魔法の練習のため例の広場へと向かおうとした。

 さっそく俺はもらった杖を使ってみたかったのだ。

 ただ、シリルからもらった指輪は俺の指にはまだ大きすぎて填められなかった。

 これはこの前届いた外套同様、俺が成長するのを待つアイテムになりそうだな。


「待ってクリス~!私も行くよ!」 


 俺が玄関を出ようとすると、そう可愛い声が聞こえた。

 あ、そういえば俺へのプレゼントはシャルだったな。

 いかん、いかん。

 せっかくもらったプレゼントを忘れるとこだった。

 この日一日だけのプレゼントだからこそ、大切に扱わないといけなかったのだ。

 まぁ、俺はいつもシャルを大事にしてるけどね。

 

 シャルは俺に忘れられたことを怒っていた。

 

「ごめんよ、シャル。もう忘れたりしないから許して。」


 俺がそう言うと、シャルは恥ずかしそうに「許してあげるからもう忘れないでね?」と機嫌を直してくれた。

 やっぱりシャルは可愛いなぁ。



 

 しばらく歩いて俺たちは広場についた。


 俺は早速杖を持って魔法のイメージをした。

 思い浮かべる魔法は《火炎ノ球(ファイアーボール)


 俺はそのままいつもの魔力量で魔法を使おうとした。

 だがそれがいけなかった。


 杖を通して魔法を使ったことで、魔法が手で使うより何倍も少ない魔力で使えたのだ。

 例えるなら、電流を流したときに杖が導体で、手が不導体に近い物質だったと言えば分かりやすいだろうか。


 そしてその結果、俺は手元で大爆発を起こして倒れた。


「クリス!!!」


 シャルの叫ぶ声が聞こえる。

 シャルがこっちに走って近づいてくるのが見える。

 

 俺は自分の手を見た。

 ひどい火傷だ。

 《風裂ノ球(エアーボム)》のような風属性に分類されるが直接属性を持つわけではない魔法と違い、《火炎ノ球(ファイアーボール)》のような属性を直接持つ魔法は使用者にもダメージが喰らう。


 俺はそのまま意識が途切れそうだった。

 シャルを見ると泣いていた。

 そしてクリス!クリス!と何度も名前を呼んでくれている。


 俺はそのまま意識を手放しそうになるとき確かに聞いた。


「『تعويذةصلاة 』《回復魔法(ヒール)》!」


 しばらくして気が付くと、俺は自分の手を見ると火傷の跡は綺麗になくなり、痛みもなかった。

 俺はシャルが魔法を使って治してくれたことを疑問に思いながら、シャルがいた方を向いた。


「シャル!!!」


 シャルはそこに倒れていた。

 意識はない。

 おそらく魔力切れだろう。

 魔力切れでは死ぬことはない。

 だが、長時間放っておくと後遺症が残る可能性だってある。

 俺は体の大きさ上、シャルを抱えて家には帰ることができなかった。

 

 どうしたらいい。

 俺は焦った。


 このまま誰かに助けを求めてもいいかもしれないが、シャルを一人にするのは心配だ。

 なにか、なにか手はないのか。

 くそっ、どうすればいい。

 こんなことなら俺が自分で治療魔法を覚えておくんだった。

 俺はそう後悔した。 


 実は俺は治療魔法にも適性があったのだ。

 だが基本四属性と異なり、人を治すという具体的なイメージが湧かなかった俺は覚えようとしなかった。

 そしてその結果がこれだ。

 あの時の俺を殴ってやりたい。

 だが今ここでそう思ってもしょうがないのだ。


 俺は必死に思考を凝らした。

 そうして一つの考えが思い浮かんだ。

 

 魔力切れなら、俺が魔力をシャルに譲渡すればいいのではないか、と。

 魔力を人に渡すということは聞いたことがなかった。

 だがやってみる価値はあるはずだ。


 俺は倒れているシャルを仰向けにして心臓の辺りに手を置いた。

 俺は魔法を使うようにして、手に魔力を集めた。

 そして、何もイメージを加えずに手から魔力を出した。


 手から魔力が大量に抜けていく感じがする。

 だが俺は構わずに魔力を送り続けた。

 やがて俺の膨大な魔力も底を着きそうになった。


「うぅ、あれ。クリス?」


 俺は自分の限界を覚悟したとき、シャルの意識が戻った。

 俺はそのままシャルの身を抱きしめた。


「クリス・・・。私のためにがんばってくれたんだね。ありがとう。」

 

「いいや、お礼を言うのは俺の方だよ。ありがとう、シャル。」


 そして俺とシャルは広場の草むらの上で一緒に寝転んだ。

 お互いに魔力が残り僅かになったのか疲れていたのだが、俺たちは何故かとてもすがすがしい気分になっていた。



 

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