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第12話「日常」

 シャルが起きてきた後、俺たちは朝食を食べた。

 今日はシャルが新たに家族に加わった日としてオリヴィアが豪華に作ってくれた。

 シャルはこの生活が新鮮なのかとても楽しそうだ。

 シャルを見ていると、かつての俺のように感じる。

 うん、このままシャルが明るく元気に暮らしていくことが今の俺の望みだ。

 シャルには早くこの生活に慣れてもらってオリヴィアとシリルとも仲良くなってほしい。

 それには俺もシャルと一緒にいて、シャルに孤独を感じさせないようにしないとな。

 そう思って食べてるとオリヴィアとシリルが口を開いた。


「クリス、シャル、ご飯を食べ終わったら買い物に行くわよ。シャルの服とかその他の生活に必要な物を買ってこなきゃね。それにクリスは今まで外に出なかったから、この街のことを何も知らないでしょ?シャルも同様ね。この街の案内も兼ねて今日は中心街に行きましょ。」


「おう、それがいいな。お父さんも中心街にある自衛団の本拠地で仕事をしてるんだぞ。もし行く機会があれば是非来てくれ。2人にも紹介したい人がいるんだ。」


 俺とシャルは分かったと言って、そのまま朝食を食べ続けた。

 なおシリルは俺たちが朝食を食べている間に一足先に家を出て行ってしまった。

 オリヴィアもシリルを見送ると、出かける支度をしていた。

 俺もまたいつも通りに手編みのセーター、紺のズボン、そして真っ黒の外套を着て準備を整えた。

 シャルも俺のお古である青色の服を着ている。

 見ると何故か服のにおいを嗅いでいた。

 あれ、なんか変なにおいがするのかな。

 もしかしたらシャルは俺の服を着ることが嫌だが、しぶしぶ着ているのかもしれない。

 ・・・早く服を買いに行ってあげよう。


「さぁ2人とも、準備はいい?そろそろ出かけるわよ。」

 

 オリヴィアの声が玄関の方から聞こえた。

 俺とシャルは玄関に向かい、オリヴィアと3人で街に出かけていった。



---



 街の中は人で溢れている。

 人口20万人ほどと言っても、街自体は住宅街が密集してできたようなものなので、人が多くいるように感じるのである。

 オリヴィアは俺の手を繋いで街の中へと進んでいく。

 俺は左手をオリヴィアと、右手をシャルと繋いでいる。

 まぁ実は最初にはオリヴィアが自分を中心にして俺たちと手を繋いでいたのだが、シャルが俺と手を繋ぎたいと言ったのだ。


「えへへ。クリスの手、暖かいね」


 シャルはこんなことを言ってくれた。

 あぁシャルは可愛いなぁ。

 俺はシャルが誰かに攫われないか心配でしょうがないよ。


 ちなみに手を繋ぐ理由は俺たちが仲がいいからだけではない。

 この世界の人間族の平均身長は前世の日本より少し高い173cmほどである。

 そのため身長155cmで小柄のオリヴィアやまだ100cmほどしかない俺とシャルは人混みに入るとお互いを見失ってしまうかもしれないのだ。

 だがオリヴィアは慣れたものなのかスイスイと人を避けて通っている。

 オリヴィアは小さくまだ子供に見えるかもしれないが、ちゃんとした大人であり俺たちのお母さんなのだ。

 俺とシャルはオリヴィアに身を任せ、そのまま進んで行った。


 やがて俺たちはある店の中へと入った。

 その店はこぢんまりとしていたが、老舗の風格を感じる店だった。

 店に入ると品の良い老人が出迎えてくれた。

 だがシャルは恥ずかしがって俺の後ろに隠れてしまった。

 シャル可愛いよ。

 

「いらっしゃいませ、オリヴィア様。本日はそのお子様達の御洋服を、とお見受けさせてもらってもよろしいですかな?」


「ええ、そうですよー。アランさんも元気そうで何よりです。今日はこの子達の服を買おうと思ってきたんです。サイズを測ってもらってもいいですか?」


「もちろんでございます。ではサイズを測ったのちデザインの要望を聞いて制作しますので後日、ご自宅に配達させていただくことにしましょう。」


「はい、お願いしますね。それにしてもアランさんは変わっていませんねー。私が初めて会ったときからずっとそのままの気がします。」


「ほほほ、まぁ私も歳ですからね。私から見ると5年も10年もそう変わったことには感じませんよ。にしてもオリヴィア様は大きくなられましたね。外見の話ではないのです。私はあなたから大人として、母親としての何かが感じられます。お子様たちからも、あなたに対する親しみが非常によく伝わってきます。是非、これからも母親として自信を持って下さい。」


 そう言われてオリヴィアは照れていた。

 にしてもこの老人、アランさんはすごいな。

 言葉遣いもさることながら礼儀作法も完璧だ。

 さらに今はここの呉服店を営んでいるみたいだが、アランさんからは実力者の風格が漂ってくる。

 多分、オリヴィアは冒険者時代にアランさんと出会って知り合ったのだろう。

 何があったのかは俺には分からなかったが、オリヴィアはアランさんにかなり懐いているみたいだ。

 というか何気に俺の服も買うつもりだったのか。

 まぁ確かに俺の服も今着ている1セットだけ、っていうのもあれだしな。

 ここは俺もお言葉に甘えるとしよう。


 俺とシャルは体のサイズを測られた。

 シャルは初めこそ恥ずかしがっていたが、さっきのオリヴィアとの会話を聞いてアランさんに警戒心を解いていた。

 シャルは今までずっと一人だったから、初めて会う人には大抵こういう対応をするだろう。

 だがこれでいいんだ。

 ゆっくりでいい。

 俺と同じように心を開いてくれればそれでいいのだ。

 そう思っていると、しばらくしてアランさんが手を止めた。

 どうやらサイズを測り終わったようだ。

 そしてこう言った。


「ふむ、サイズは大体分かりました。服はそれぞれ2着ほど準備をいたしましょう。なにかデザイン等の要望はありますかな?また、服の素材等々も使う素材によっては多少高価になりますが受け付けております。どうなさいますかな?」


 俺たちはオリヴィアの方を向いた。

 オリヴィアは少し考えていたが、やがて考えがまとまったのか口を開いた。


「んー、デザインはクリスとシャルで決めていいわよ。だけどそうね、普通の服の他にもクリスはまた新しい外套も欲しいでしょ?どうせ今着ているそれもすぐ小さくなっちゃうわ。まだ新しいけど、今のうちに少し大きめのものを作っておいた方がいいかも。それにシャル、あなたもコートかなにかが必要だわ。これから寒くなってくるんだし。あ、だけどクリス。どれか一つの服には淡い青色をいれてほしいかも。なんだかんだでクリスは青が似合うと思うの。」


 ん、そうなのか。

 まぁどうせ上から外套を着るならそこまで目立たないだろ。

 オリヴィアには日頃感謝してるし、それぐらいの要望なら聞いてあげたい。

 シャルもファッションというものに興味津々だったので、デザインを自分で決めていいということをオリヴィアから聞くとオリヴィアに抱きついてお礼を言った。

 またオリヴィアもシャルを抱きしめ返して頭を撫でていた。

 あぁいいな、こういう光景を見ると2人が本当の親子のように感じる。

 俺は眼福だった。


 

---



 俺たちは服の要望を言った後、日用品を買うために市場へと向かった。


 ちなみに服の要望は、俺は淡い青色を元に白・黒色の模様が入った服を、

 下は落ち着いた紺色と灰色のズボンを2着ずつ頼んだ。

 まぁ要は今着ている服とそんなに変わりのないものをアランさんに言ったのだ。

 俺にファッションセンスはなかったし、それならオリヴィアが選んだ感覚の方がいいと思ったからである。

 そして新しい外套であるが、俺は黒色で長さは140cmほどのものを作ってもらうことにした。

 さらにその外套はとある魔物の素材を使った。

 そのため高価にはなったのだが、オリヴィアが俺が魔法の練習で失敗したときに魔法耐性があったほうがいい。と俺を心配してそう決めたのだ。

 なんかシャルのために買いに来たのに、俺の物を買ってしまって少し申し訳ない気がする。

 シャルにはごめんと言ったのだが、シャルはそんなの気にしないでと笑って言ってくれた。

 シャルはいい子だなぁ。

 そして当たり前だが、今の俺がそれを着ると余裕で裾を引きずって歩くことになる。

 はやく着てみたいので体が成長することを望むばかりだ。

 

 なおシャルであるが、シャルは白色のセーターと青色のゆったりとした服を1着ずつ、

 そして薄い赤色のズボンと紺色と黒色のチェックが入ったスカートを頼んでいた。

 また、オリヴィアに言われていたコートはベージュ色のボアコートを選んだようだった。

 これらを着たシャルをはやく見てみたいと俺は思った。

 

 あと、アランさんは俺たちにサービスで下着を無料で制作すると言ってくれた。

 俺は普通のものを頼んだのだが、シャルはオリヴィアと相談していた。

 女の子にとって下着はやっぱり大切なのだろうか。

 前世で彼女などいなかった俺はそう思って、二人の話を聞かないように少し離れて店の中を見て回っていた。


 

 俺たち3人はしばらく歩いて市場に着いた。

 このシーモア自治区はラーク海洋の湾岸に位置しているので、波が穏やかであり養殖産業が盛んだったのだ。

 そのためそれらの海産物を貿易で売り、様々なものを輸入している。

 よって輸入した便利な外国製品が多くこの市場には売っているのだ。

 市場で俺たちは日用品を購入する。

 購入した品は前世の日本で使っていたものと同じようなものが揃っていた。

 もっとも品質は少し劣っていたが、そこまで高望みはしない。

 それだけこの世界と俺の環境は十分に整っているのだ。


 市場で買い物を済ませた俺たちはシリルの仕事場である自衛団の本部を訪れた。

 自衛団であるシリルが何故魔物を狩りに行かずに本部にいるのかというと、どうやら隊長が自衛団を率いて魔物を狩りに、副隊長のシリルは本部で雑務を行うという分担を行っているらしい。

 まぁみんながみんな魔物を狩りに行けばいいということではないのだ。

 組織というものは前衛と後衛がいて初めて機能できる。

 俺はそう改めて実感した。

 本部に入って受付でシリルに会いに来たというと、奥へと案内してくれた。


「おう来たな。子供達を連れてきてくれてありがとな、オリヴィア。」


「いえいえ、子供に父親の仕事を見せるのは母として当然でしょ?」


 シリルはそう俺たちを出迎えてオリヴィアと話していた。

 うん、夫婦というものはいいな。

 俺も将来こうなれるのだろうか。

 そう思い、なんとなく隣を見るとシャルと目が合った。

 シャルは顔を赤めて、その淡い赤髪で顔を隠してしまった。

 あーやばい。シャルめっちゃ可愛いんだけど。

 俺はシャルが俺のことをどう思っているのかは分からない。

 だが別に嫌いというわけではないと思う。

 むしろ仕草を見る分には俺を好意的に感じてくれているだろう。

 俺はシャルが望むならそういう恋愛をしてもいいと思ったのだった。


 その後も俺たちはそのままシリルの仕事を見学した。



---



 やがて見学が大方終わり、そろそろ帰ろうとするとがたいがいい30代前半の男の人が部屋に入ってきた。

 シリルとは対象的でその人はかなりマッチョで筋肉が非常に目立った。

 

「おお、やっときたか!もう来ないかと思って心配してたんだぞ?」


 シリルがその男の人に笑いながら言った。

 

「ああ済まない。思った以上に今日は魔物の数が多くてな。それを片付けてこっちに来るのに時間が掛かったんだ。許してくれ。」


 その男の人も同様に笑いながら返事をした。

 どうやらシリルと仲が良いらしい。

 そしておそらくだが、話を聞いている限りこの人は・・・


「クリス、シャル。紹介しよう、この人はアーロン。自衛団の隊長であり天星流の使い手だ。剣の腕前はお父さんと同じぐらい強いぞ。」


 まぁやっぱりそうだよなぁ。

 俺の予想通りの人物だった。

 にしてもアーロンさんは威圧感がすごい。

 がたいもそうなのだが、本人にその気がなくてもその強面の顔は見る人を少なからず怖がらせる。

 そのせいでシャルはまた俺の後ろに隠れて、抱きついてしまっている。

 何度も言うが、シャルのその仕草が可愛い。


 だけどアーロンさんは見た目は怖いが人間性はいい人だ。

 気さくだし、すごく俺に話しかけてくれる。

 ほんの少し前の俺ならこういうタイプの人は一番苦手だった。

 だが俺はもう変わったのだ。

 こうしてみるとこういう人と会話するのは楽しいし嬉しい。

 俺はアーロンさんに懐いた。


 そろそろ日が暮れる頃になった。

 シリルは仕事を済ませて俺たちと一緒に帰ることにした。

 俺は家族四人で帰ることをなんだか嬉しく感じた。

 前世ではこういう経験がなかったからなぁ。

 シャルも楽しそうだ。

 俺はその間シリルと話すことにした。

 普段は家事の手伝いでオリヴィアと話すことが多かったのだが、シリルとは朝食と夕食の時ぐらいしか話せていなかったからだ。

 シリルは本当は俺に剣術を学ばせたかったらしい。

 だが魔法に才能があった俺に無理を言うのは野暮だと思ったそうだ。

 俺はちょっと申し訳なく思い、朝の素振りの時間ぐらいは剣を振るよとシリルに言った。

 シリルはそれを聞いて嬉しそうな表情をし、俺の頭を撫でた。



 日が沈む時刻になった頃、俺たちは家に着いた。

 オリヴィアは夕食の準備に取りかかり、シリルはそれの手伝いをする。

 シャルはお風呂に入ると言って風呂場に行った。

 俺はというと、今日は魔法の練習ができなかったのでリビングにあるソファーに座り、魔力を自分の中で循環させて魔力量を上げる鍛練をするのだった。



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