第11話「救い」
シャル目線です。
私は孤独だった。
お父さんはおらず、お母さんとも話す時間などなかった。
そのため家では常に1人だったし、よく外に行っては自然と遊んでいた。
周りの子はそんな私を変な目で見ていた。
私は周りとは違う、そう感じていた。
それからどれくらい時間がたっただろうか。
お母さんはすごく疲れて帰ってきた。
いつも疲れているように見えたのだが、それ以上に何か無気力だったのだ。
「お母さん・・・。」
私は、そう話しかけた。
お母さんは返事をしなかった。
ただ横になってそのまま寝てしまった。
翌日起きたらお母さんはいなかった。
そのときはただ毎日のように仕事に行ったのだろうと思っていた。
だけど何日経ってもお母さんは帰ってこなかった。
1~2日家を空けるのはたまにあったのだが、こんなに日が空いたのは初めてだ。
私は悲しかった。
お母さんとはほとんど喋らなかったけど、それでもたった1人のお母さんなのだ。
私は家に食べ物もなくなったので、山へ食べ物を探しに行った。
しかし、この辺りではもう他の人が粗方採ってしまってる。
だがら私は入ってはいけない山の奥へと進んでいった。
そこにはたくさんの木の実や山菜があった。
私はなんでこんなにたくさんあるのに誰も取りに来ないんだろうと思った。
だけど私は遠くに見つけてしまった。
それは動物ではなかった。
もっと怖いなにか死の危険すら感じる何かだった。
幸いにも私は自然の中で遊んでいたので目は良かった。
まだあっちは私に気が付いていない。
私は逃げた。
一目散により遠くに行こうと逃げた。
あれはなんだったろう。
怖い。
とっても怖い。
だけど生きて行くにはまたあそこに入らないといけない。
私は辛かった。
なんで私がこんな目に遭わないといけないのだと思った。
なんで・・・、なんで私が・・・。
私は一人で声を抑えて泣いた。
助けてよ。
だれか助けて。
いや、だれも助けてはくれない。
もう分かってるんだ。
自分でなんとかしないといけないことぐらい。
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私はその日、近くの広場にいた。
ここの広場はこの前まで小さかったのに、最近何故か大きくなってきた。
何でだろう。
私はそれを確かめるために広場で遊びながら待っていた。
他の子供達がやってきた。
彼らはよく私をいじめてきた。
彼らにとって私は都合の良い標的だったのだろう。
私は囲まれ、蹴られた。
痛い。
蹴らないで。
私をこれ以上いじめないで・・・。
そう思ってると彼らは蹴るのをやめた。
なんで?
そう思って顔を上げると一人の子が広場の入り口に立っていた。
私をいじめていた子達はその子に向かって怒鳴っていた。
だけどその子は何も言わずに睨んでいた。
「おいおい、なんだ。お前みたいなチビな女が俺たちに勝てるとでも思っているのか?怪我したくなかったらさっさと家に帰って大好きなママのおっぱいでも飲んでろよ。」
そう私をいじめていた子達のリーダーが言った。
危ない。
私はそう思った。
その子は青髪蒼目をしていて髪はさらさらで肩のあたりまで伸びてる。
そして青色に白の模様が入ったセーター、ゆったりとしたズボンを着ていてその上から真っ黒の大きい外套を羽織っていた。
私はその子が男の子か女の子か分からなかった。
可愛い顔をしているし、身長も私ぐらいしかなかったからだ。
その子は怒鳴られても何も言わなかった。
それどころか、まるで可愛そうなものを見る顔をしていたのだ。
「おい!いつまで無視してんだよ。おいお前ら、女だろうがこいつもやっちまうぞ。」
リーダーの子がそう叫んだ。
あぁ、私のせいであの子がやられちゃう。
だけど私は何もできない。
弱い私はその子がやられる様子をとても見ることはできなかった。
私は顔を俯かせた。
私は自分が不甲斐なかった。
だが派手な音が鳴り響いた。
私は何事かと思って顔を上げた。
見れば私をいじめていた子達が地面に倒れている。
なんで?
一体何があったの。
そう思っているとその子はこっちに歩いてきた。
そして私の目の前で座った。
その子は私のことをじっと見ていた。
長い沈黙が訪れる。
私はなにかしなきゃと思い、口を開いた。
「え、えっと・・・その。た、たすけてくれて、ありがとう・・・。」
だけどその子に反応はなかった。
私は少し不安になった。
この子は一体誰なんだろう。
なんで私を助けてくれたのだろうか。
そう思ってると小さい声が聞こえた。
「・・・え・・・て・・・。」
「え?」
その子は何か言っていたが私は良く聞き取れなかった。
「・・・名前・・おしえて・・。」
「え。あ、うん。」
なんだ、この子は名前が知りたかったのか。
不思議な子だし正直少し怖かったのだが、それを聞いてどこか安心した。
「・・・シャル。」
私はそう言った。
本名はシャルロットだが昔のお母さんがよくそう言ってくれていた。
私がそう言うとその子も再び口を開いた。
「・・・クリス。」
・・・クリス?
あぁ、この子の名前か。
にしてもクリスってことは本名はなんだろう。
クリスチャン?クリストファー?それともクリスティナ?
私は名前では性別を判断できなかった。
「・・・大丈夫?」
「え?」
「怪我。・・・蹴られてたから。」
「うん・・・。なんとか大丈夫、かな。」
その子、クリスは私を心配してくれた。
初めての経験だった。
なんだか不思議な気持ちになった。
なんだろうこれ。
心が温かい。
そして私はクリスに言った。
「ねぇ、クリス・・・。どうして助けてくれたの?」
私は疑問に思っていることを言った。
周りのみんなは誰も私を助けてくれなかった。
なのにクリスは助けてくれた。
私はその理由が知りたかった。
「・・・可愛そうだった。」
クリスはそう言った。
私は泣きそうになった。
私は誰かが救いの手を差し伸べてくれたことが嬉しかったのだ。
「そっか。ありがとね、クリス・・・。私はじめてだったんだ・・・。こうして誰かに助けてもらったの。」
私は思ったことをクリスに言った。
クリスは疑問を思ったような顔をしたが、その後も私に話しかけてくれた。
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話しているうちにクリスは段々普通に喋るようになっていった。
最初の様子はなんだったんだろうか。
ただ恥ずかしかったのかな。
私はクリスに今までの経緯を全て話した。
だけど私にも微かながらプライドがあったので、
できるだけ明るく、私は大丈夫だぞ。という感じに言ってしまった。
そしてクリスはしばらく考えた様子だったが、やがてこう言った。
「シャル、一つ提案があるんだ。聞いてもらっていいかな?」
「うん、いいよ。私はどうせ時間ならいくらでもあるし。」
そうだ。
私には時間なんて大量にあるのだ。
こうしてクリスと話せるだけで楽しい。
私にとってはそれだけで十分なのだ。
にしても提案ってなんだろう。
私は何かを提案されても、その代わりになるようなことなんて何もできないのに。
「シャル、いいかい。君はこのままだと生きていけない。君は死んでしまう。シャルは山の奥地から木の実を集めて食べていたと言ってたね?だがあそこには魔物がいるんだ。シャルは偶然にも遭遇しなかったようだけど。だから俺は君にうちの家で暮らしてもらいたいと思ってるんだ。どうかな?俺で良ければいつでも一緒にいるし、話相手にでも何にでもなるよ。俺は君をこの状況から助けたいんだ。だからお願いする。もう提案じゃない、『一緒に暮らそう』」
『一緒に暮らそう』
その言葉がひどく印象に残った。
クリスは私を助けようとしてくれているのだ。
そしてずっと私といてくれると言った。
私はまた不思議な気持ちになってしまった。
そして思わず大声で泣いた。
私は今度こそクリスに全部話した。
今まで辛かったこと。寂しかったこと。悲しかったこと。
全てを打ち明けた。
日はいつの間にか暮れようとしていた。
私はクリスと一緒にクリスの家へと向かった。
私は歩いている最中にずっと考えていた。
クリスの家はどんなところだろうか。
クリスのお父さんとお母さんはどんな人だろう。
私は正直に言うとこれからの生活に期待と不安を覚えた。
だけどクリスなら私を悪いようにはしない、
何故かそう信じることができていた。
やがて私たちはクリスの家に着いた。
私はクリスの方をみて頷いた。
それを見たクリスはゆっくりと玄関のドアを開けた。