駄作(ネタじゃないです)
誰かと話しているとき、同じ感情を共有しているかのような一体感を感じたことはないだろうか。
帰り道の通学路、見慣れた景色のはずなのに心奪われたことはないだろうか。
不意に世界との繋がりを感じたことはないだろうか。
これが、本物だ。
少し古びた赤いレンガに彩られた大きな校舎、高校とは比べ物にならない広い中庭。教室の窓には白いカーテンが風と遊び、屋上から「入学おめでとう」と書かれた幕が垂れている。新品のスーツに身を包み不慣れな環境に不安を感じながらも、これからの楽しさに期待する人々。
「くっだらねー」
僕は、それらを三階から見下ろしながら呟いた。もちろんこの声は、誰かに宛てたものでもないただの独り言だ。誰もが抱く大学への期待。あれは嘘だ。友達関係は希薄になり、日常での楽しみは薄くなる。昔のように心が熱を帯びているわけでもなく、ただひたすらに倦怠感を感じる。楽しそうにしているのは、将来を考えていないか無理をしているだけで、それをバカにする人たちは自分が楽しめていないだけだ。最初のうちはまだ楽しい。同じ環境にある知らない人との交流は、新鮮で受験で枯れていた心に水を与えてくれる。だが、それはまやかしだ。こんな気持ちはすぐに褪せていき、やがてグループに孤立する。そのグループも仲が良いというわけでもなく、話し相手要員でしかない。
親友になろう、と遊びに誘っても狙いは女の子。高校のときのように心から笑えれることもない。好きになるという気持ちも薄れ、得られるのは空虚な感情だけだ。争わず戦わず向き合いもせず、ぬるま湯にずっとつかってふやけた皮膚のように。腰まである水位の中を歩いているかのように。薄灰色の曇り空の下で粘りのある湿気に抱かれているように。それなのに、誰も暗雲を晴らそうとせず、誰も叫ばない。そしていつしか僕もその一人となった。
本物を求め迷走している。走っても歌っても勉強しても手に入らない何か、または誰か。昔は誰もが幸せになれる絶対的な答えを探していた。他人を本当に救えれるような人になりたかった。誰かに必要とされる人になりたかった。
「くっだらねー……」
ため息がかさついた唇からこぼれた。僕の見つめる視線の向こうには、やっぱり輝く笑顔があって、でもその向こうに暗い未来を想像してしまう。それにまたもやため息をつくも、自分の中に応援する気持ちもある。俺みたいにならないでほしい。本物という幻想を追い続けて大切なものを見落としてしまった自分。
本当はわかっている。ダメなのは自分だって。失敗したのは自分なんだって。皆がんばっている。切れやすい関係を繋ぎ止めようと必死になって、ダメでも諦めずに何度も挑戦していたんだ。それを無駄だって決めつけて一人上から目線で勝手に批判して、わかった気になって自分に嘘ついて無理やり納得して、本当は心から欲しがっていたものなのに。自分だけが本物を知ってる気になって、追い求めて、縋って、結局見逃して後悔して、でもそうすると今までの行動に意味がなくなる気がして怖くて、そしてまだ追い続けてしまう。僕が探しているのは、僕をも救ってくれる答えなんだ。
耐えきれなくなって立ち上がった。春の風が顔に当たる。仄かな緑の匂い。太陽が少しぶれて、窓に映る自分の頬がきらりと輝いてた。