ルミリアの懐妊 TwitterSS
ルミリアが体調を崩している。
凡そ一週間程前から頭痛と倦怠感を訴えて療養中のルミリアは、今日もベッドの中で安静に過ごしていた。その様子を側で見つめ、ルミリアの眠りを妨げないようドミトリアスは静かに執務室へと向かう。
この所ルミリアは体調不良が長引いている為か喋る元気も無く、声にも張りが無い。それ程高熱では無いらしいが、熱で頬を赤く染めるルミリアの姿が痛々しい。
そのルミリアが医師の診断の結果、懐妊している事が分かったのは、それから三日後の事だった。
「ルミリア!」
ベッドに横たわったルミリアは、表情を明るくしているものの、その顔色は冴えない。
「ドミトリアス、」
ルミリアは、一度声を上げたものの反射的に嘔吐感が増したのか、吐き気を堪えるように口元に手を当てた。
「ルミリア、無理をしなくても良い」
「ありがとうございます」
上半身を起こしたルミリアの背に、侍女達が手早くクッションを積み上げていく。少しだけ楽な姿勢になったからか、ルミリアは吐き気を飲み込む様に眉を顰め、落ち着いてきた頃にほうっと息を吐いた。ルミリアの体調を慮りつつ同席した侍医の話に耳を傾ける。
どうやら侍医の見立てによれば、ルミリアは懐妊した事による悪阻で体調を崩していたらしい。風邪のような症状はその典型例だという。
そういえば最近、胸が張っていると言っては居なかったか。
その時に気付いて居れば、何か対処の仕様もあっただろうにと、悔やんでも悔やみきれない。
―――そうしてルミリアが懐妊して早一月が経った。
侍医の見立てによるとルミリアの悪阻は比較的激しい物のようで、水は飲めている物の食事は殆ど摂れていない。食べても戻してしまい、栄養が不足している為、見るたびにやつれて行っているようだった。痛ましい事この上ない。
何も手伝える事が無いという事は、何とも歯痒いものだ。
、今現在悪阻の激しさからルミリアの案によって寝室を別にし、食事時ですらも分けている。だからドミトリアスは執務の合間にルミリアを見舞い、激しく嘔吐を繰り返すルミリアの背を撫でたり水を飲ませる事しか出来ない。
結局、ルミリアの悪阻は臨月に入る頃まで続いた。
そうして迎えた出産日。
長く続いた悪阻によって体力が衰えていたルミリアの出産は長時間に及んだ。力む力も気力も失い、最後には侍医がルミリアの腹を押す事で漸く出産に至る。
「殿下、王子でございます!
」侍女がそう声を上げるのを見ながらドミトリアスは居ても立ってもいられず、力なく横たわるルミリアに駆け寄った
「ドミトリアス」
縺れた髪を額や頬に張り付けたルミリアは産婆から手渡された王子を胸に抱き、まだ血の匂いが残る王子を覗き込んだ。
「元気な子を産んでくれてありがとう」
その言葉に答えるように、ルミリアは微笑み、ベッドの端に座るドミトリアスの手を握りしめた。