見てられません。
近衛騎士団長であるランス様より開会宣言がなされると
会場は一気に盛り上がりました。
今回は例年になく初めての試みが多く、その中でも一番注目を集めているのが騎士団と近衛騎士団による
実技演習だそうで、
早い話が
騎士団VS近衛騎士団
なのだとか。
騎士団の団長はオリバー様が務められるようです。
近衛騎士はもちろんランス様。
大丈夫でしょうか。
騎士団の皆さんは、オリバー様は強いとよくおっしゃっていましたが。
近衛騎士がランス様の元に、騎士達がオリバー様の元に、並びだしました。
綺麗に整列するとランス様の掛け声で全員が、一糸乱れずに
第一王子に向かって片膝をついて右手を胸に当て忠誠を誓います。
ざわついていた会場もいつの間にか静かになりました。
いよいよ始まるようです。
えっ?
数が全然違うじゃないですか。
騎士の皆さんの倍以上は近衛騎士がいます。
どういうことでしょう。
第一王子が立ち上がると、右手を上げ忠誠に応えながら
「近衛騎士の立候補が後を絶たず、数に若干の差が出てしまったが
お互いの力を出し切り正々堂々と戦って欲しい。」
拡声器をとおして王子の声が会場に響き渡ります。
若干の差?
なんだか嫌な予感がします。
この数の差のまま戦う?
ありえないとお兄様に視線を送ると、
お兄様も厳しい表情で第一王子を見つめていました。
私はたまらずに、立ち上がりそうになりましたが前を向いたままの
お兄様が私の手を諭すようにぎゅっと握りしめるので
諦めて座りなおしました。
こんなのって。
誰もおかしいって思わないのかしら。
私の憤りはそのままで、試合は始まった。
第一試合。
全員騎士団の勝利。
民衆の皆さんの歓声が響き渡ります。
そして、試合が終わると何故か私の隣にはランス様が来る。
頼んでいないのに解説を始めます。
「第一試合は、優秀ではあるけど若い経験の浅い者を選んだんだ。
こういう実戦形式の経験も大事だろう?」
負けているのに得意げに語る感じにうんざりして、周りを見ると
貴族のお嬢様方がうっとりとランス様を見つめています。
席を代わって差し上げたい。
第二試合。
全員騎士団の勝利。
民衆の皆さんの歓声。若干の貴族のため息。
私はまたランス様が来るかもしれないと思い、
「お兄様。少し席を。すぐに戻りますから。」
お兄様は分かったとばかりに頷くと、
「下に貴族専用の休憩所がある。そこからは出ないように。」
一番下の階に降りると飲み物や軽食が置かれた休憩所が作られていた。
特に喉が渇いたわけではないが、フルーツジュースを取り空いている席がないかと見渡していると、
軽い衝撃ととともにグラスを持ってない腕を取られた。
「ローズ。良かったじゃない。」
マーガレットの声は弾んでいる。
私は意図のわからない言葉と、あまりに礼儀のない接触に眉を顰めてしまうが、
気が付かないマーガレットは興奮した声で話し続ける。
「ランス様なら上々じゃない。っていうかこれ以上はないんじゃないの?」
上々?これ以上ない?
「マーガレット何のことを言っているか分からないわ。」
「隠さなくたっていいじゃない。今日はそういう事なんでしょう。」
口を尖らせ不満げな様子でマーガレットが続けます。
「ランス様と婚約するんでしょう。」
えっ。
「今日は最後にランス様が勝って、ローズとの婚約を発表するんじゃないの?」
驚きすぎて声が出ない私に
「私、ずっとローズの事心配してたのよ。
この前、会ったとき騎士団の方と一緒にいたでしょう?
一体どうしたのかと思ったのよ。
私のせいでって。でも安心したわ。
ランス様なら第三王子だもの。」
良かったじゃないって笑いかけるマーガレットに
「私とランス様が結婚なんて、そんなお話はないわ。あったとしても私は結婚しないわ。」
と冷たく返すと
「何言ってるのローズ。今の貴方にとっては、これ以上ない縁談よ。」
まるで理解ができないと言うマーガレットに
「でも、貴方も好きな人と結婚したじゃない。私も同じよ。」
少し強い口調で返すと
マーガレットは少し考えるような感じで
「そうね。でも、もしリチャード様が公爵家でなくて近衛騎士でもなければ
そもそも私は好きになっていないと思うわ。そういうものでしょう?」
そう言うと、マーガレットは可愛らしく小首を傾げた。