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好きだったの。  作者: 菜々子
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あっという間に

今日は式典の日。

私の心とは違い、雲一つない晴天。


浮かない顔で、ドレスを着ている私に

「お嬢様ぁ。何か気に入りませんか?」

メルが不安そうな声を上げます。

「大丈夫よ。ちょっと緊張してるだけ。」

とても素敵よと安心させるように微笑んで答える。

実際にドレスと同じ色のリボンを編み込んだ髪型は素敵である。


今回の式典はいつもと違い、オリバー様達騎士団の皆さんと近衛騎士団の皆さんで模範演習をなさるようです。

あれからオリバー様には、きちんとお会いしてません。

オリバー様が商会に来られた時に少し顔を合わせただけで。

この間のお話をするには、お忙しそうなのもありましたし、何よりきちんと話をできる自信がなかったのです。

自分がどうにかなってしまいそうで。


今日はオリバー様を見ることはできそうです。

すごく会いたくて見たい気持ちと、怖くて会いたくない思いが同じくらいで。


そっと、襟元のピンを撫でる。

あの日買ったチーフピン。

メルに見つかってしまって、今日のドレスにいいからと無理やり付けられてしまった。

男性用なのにと思ったが付けてみると意外と違和感がなかったので嫌だと言って外すのも、なんだか面倒になってそのままにしてある。

もう渡すこともきっと出来なんだろうな。

そう思うと切ない気持ちが身体中に溢れ出すように込み上げてきた。


コンコン。

「ローズ。そろそろ迎えが来たから行こうか?」

「ええ。お兄様。」

お兄様は光沢のあるグレーのタキシードを着こなしてる。

同系色の水玉のタイがなんともおしゃれである。

きっと今日もお嬢様達の視線を釘付けになさることでしょう。


なんとなく、くやしくてじっとり見つめると

少し不思議そうな顔をしたお兄様が

「んっ?どうしたんだい?」

なんでも言ってごらんとばかりに、小首をかしげる姿がなんとも素敵すぎて。

もう降参です。

「いいえ。参りましょう。」

血を分けた兄ですが、全てにおいて勝てる要素がありません。


商会の前には、公爵家の馬車が止まっていました。

あの家紋はコゲラ家の。

リチャード様を思い出して、一瞬足がすくみましたが、

開いている扉から、ウイリアム様が顔を覗かせたのでほっとして

なんで公爵様と一緒なのかしら?

不思議で仕方ないが、お兄様とウイリアム様があまりに自然に話されているので、お話に割って入る事もできずに式典会場に着いてしまった。


会場は普段近衛騎士団の公開演習にも使われているようで

すり鉢状の真ん中に競技場が観客席がそれを取りまくように階段状に作ってあります。

今回の式典は初めて市民にも公開されることになったそうで、沢山の人が溢れていました。

ただ私たちは貴族専用席だそうでウイリアム様が、今日のお席をご用意して下さったようです。

貴族席の中央には、優美な曲線を描いた白い屋根のある一際豪華な王族専用席があります。


既に第一王子が座られていました。


「やぁ、ウイリアム。

君も来ていたのかい?良かったらここで一緒に観覧しよう。」

白い軍服を着て、勲章を付けた第一王子のアルフレッド様が、にこやかにウイリアム様に声を掛けられました。

「あぁ、アルフレッド王子。

ありがとうございます。しかし、今日は私も連れがおりまして。」

ウイリアム様がお兄様と私を振り返り、第一王子に示されたので

二人で礼の形のまま、王子の言葉を待ちます。


「スワロウ伯爵ではないか。

良かったら君たちもここで一緒に観覧したらどうだい?」

「よろしいのでしょうか?」

王子に誘われて、お断りするはずないですよね。

まるで偶然一緒の席になりましたよ。と周りに思わせる為のような。

なんとなく芝居がかった感じがするのは気のせいですか?

お兄様。

戸惑った視線を向けると

大丈夫だというようにお兄様が小さく頷いたので、大人しく後について席に着きます。


さすが王族席というべきでしょう。

ゆったりとした柔らかい座り心地です。

サイドテーブルにおかれた薫り高い紅茶と座り心地を堪能していると、

「ローズ。ローズじゃない。」

リチャードを応援に来たのでしょう。

マーガレットが通路側から声を掛けてきました。

襟ぐりの広く開いた、豪華なドレスを着ています。

首元のネックレスも、中央の石が大きくなかなかの物のように感じます。

「マーガレット。素敵なドレスね。」

あまりに久しぶりで何を言っていいのか分からなくて、取り合えずドレスを誉めておいた。

「えぇ。ありがとう。なんだか、お父様の事業が上手くいってるみたいなの。」

ゴホッゴホッ。

ウイリアム様が紅茶に咽せてしまわれたようです。

「ねぇ。ローズ。私もこちらに一緒に座りたいわぁ。」

チラチラと私の向こう側を見ながらマーガレットがねだるように聞いてきます。

ウイリアム様、第一王子、お兄様、私の順で座っていますが、

全部で五席あるので確かに私の隣は空いています。

しかしここは私の一存で、どうぞと言えるような席ではありません。

困ってお兄様の方を見ますが、まるで何も聞こえていないかの様に前を向いたままです。


「マッ、マーガレット。

この場所に君の席はない。自分の席に行きなさい。」

ウイリアム様が慌ててマーガレットへ駆け寄って来られました。

「あら。お義兄様。

私ローズとは親友ですのよ。お義兄様からもお願いして頂きたいわ。」

にっこりと笑いながらマーガレットが、今度はウイリアム様に言い募ります。

どうしてもここに座りたいみたい。

オリバー様の事で悩んでいる今、マーガレットとの事はどうでもいいというか何も感じませんが

しかし、横でうるさくされるのは嫌だなぁと思っていると。

「何度も言う気はない。

君の席はここにはない。

自分の席に行きなさい。」

一言ずつ区切りながら、いつになく厳しい声でウイリアム様がマーガレットに言うと

「わっ、分かりましたわ。では席に戻ります。」

やっと、座れないと理解したマーガレットはそそくさと離れていきました。

ほっとして一息ついていると

「やぁローズ。」

やけに親しげな男性の声がしました。

今度はどなたかしら。

ややうんざりとしながら、顔を向けると。

「ランス様。」

第三王子がキラキラとした笑顔を浮かべ私の隣に座りました。

「今日は来てくれてありがとう。とても嬉しいよ。」

まるで私がランス様の為に来たような言い方。

今日のドレスも素敵だね。とかすごく誉め言葉を並べられます。

どう返事をしたものか。

悩んでいると

「ランス様、そろそろ下の競技場へ行かれたらどうですか。

もう皆さま揃われてるみたいですよ。」

お兄様からにこやかですが、有無を言わせないような圧力を感じます。

その様子にランス様も

あぁ、とか言葉にならないような声を発して下へ降りていかれました。


そのまま競技場へ目を向けると、じっとこちらを見つめるオリバー様。

あまりに鋭い視線に思わず俯いて手元に視線を落としてしまいました。

そっと視線を上げるとオリバー様はもうこちらを見ておらず、

こちらから視線を外したのに、なんだか振られたような気分になって

「はぁ。」

重いため息が口をついて出た。


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