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好きだったの。  作者: 菜々子
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聞いてください。

私は、思い切って話しはじめました。

「知っていらっしゃいますか?私が婚約破棄になったこと。」

語尾が震えてしまいます。

「いいえ。」

「聞いていただけますか?」

オリバー様は無言で促されます。


「ずっと小さいときから私の両親は優秀な兄に夢中でした。

優秀で優しい兄の事は私も大好きでした。

でも私も兄のようにならないとってずっと背伸びしてたんだと思います。」

私にも関心を向けて欲しいと思っていたあの頃

「私が12歳で努力ではどうにもならない事があるとわかった時に、

父がコゲラ家のリチャード様との縁談を決めてまいりました。」

落ち着くように、深呼吸します。


「初めて、リチャード様にお会いした日。

リチャード様は片膝をついて私の顔を瞳を見て「はじめまして。私のお姫様。」

って言ってくださいました。

私、リチャード様の優しいお顔やお声に私の王子様だって思いました。

私だけを見てくれたみたいで、すごく嬉しかったんです。」

まだ上手く思い出になっていないようです。

涙が浮かんできますが、お腹に力を入れてがんばります。

「それからは、リチャード様をずっと見てました。隣に並ぶのに恥ずかしくないようにと、

マナースクールに入りました。

マーガレットとはそこで出会いました。

マーガレットは貴族にしては少し奔放で自由なところがあって、

でもそんなところが私には新鮮で素敵に映りました。

私たちは、すぐに仲良くなりました。

だから、私はなんの躊躇もなく婚約者だったリチャードを紹介したんです。

少し、自慢したい気持ちもありましたし。」

思い出すと苦い気持ちがよみがえります。

「リチャードがマーガレットに心惹かれていく様は手に取るように分かりました。

それでもマーガレットがリチャードの事を好きではなかったなら、黙っておこうと思いました。

私と結婚してマーガレットと離れれば、私のことをもう一度見てくれるかもしれないと。

甘い考えでした。

三人で会うたびに私は、だんだん居心地の悪さを感じるようになりました。

二人が交わす視線や笑顔。

時折、困ったような表情をする二人。

お互いに思いあっているのだろうと感じました。

結局、私はリチャードのお姫様ではなかったんです。

当然、お兄様は怒りました。融資を取りやめるとおっしゃいました。

でも、私は何もしないで欲しいと頼みました。

コゲラ家にも私から事情をお話し

今の融資と共同事業はそのままでいいとお伝えして婚約破棄になりました。

優しすぎるとお兄様はおっしゃいましたけど、違うんです。」

ゆっくりと、あの時の感情が私に浸透してきます。

「やっぱり我慢できないと思いました。

親友を想っている方と一緒に暮らすなんて。

いつかマーガレットにリチャードが奪われるかもしれないと思いながら生活するなんて。

融資を打ち切ると言ったら、公爵家は婚約破棄に応じないでしょう。

心はなくてもリチャードは私と結婚したでしょう。

でもそれは私のプライドが許さなかったんです。

こんなに私が思っているのに、彼が見ているのがマーガレットだなんて。

マーガレットが親友でなければ、何度もそう思いました。

そしたら見て見ぬ振りができたかもしれないと。

その時はそう思いました。

今では親友でなかったとしても、見て見ぬ振りが出来たかどうか本当の所は分かりませんが。」

あの時は、平静を装うだけで精一杯でした。

だって、心の中はまるで嵐のように荒れ狂っていたのですから。

「それからあっという間に二人は結婚しました。

二人が一緒の所を見るのは辛かった。

でも祝福しなくてはと。

笑わないとって

じゃないと私が余計惨めでしょう。」

オリバー様は、何も言わず聞いてくれています。


「ですから様子を見て社交界にも復帰しようと思いました。

でもそこで、ある方に祝福しながら未練たっぷりと言われて。

周りはそんな風に私を見ていたんだって、どうりでひどい噂が立つはずだって

そう思ったら今まで通り上手く振舞えなかったんです。」

だんだん涙で周りもオリバー様の顔もぼんやりとしてきました。

「私、本当はもっとちゃんとできるんです。

伯爵令嬢らしく、駆け引きや嫌味や全てを微笑んでかわすことなんて

空気を吸うぐらいに簡単にしていたんです。」

涙が頬を伝い、手の甲へ落ちてきました。

「でも、出来なくなった?」

オリバー様の優しい声に頷く

「それで少しの間、子供に戻ろうって思いました。

社交界から離れて、このまま1人で、そのうちお兄様にお店を一つ任せてもらってって。

まるで夢のような事考えて。

私も今のような生活を続けられるとは思っていません。

きっと、来シーズンは社交界へ戻らないといけないでしょう。

本当は、お兄様もメルも分かっていて何も言わず付き合ってくれてるんです。」

もう涙を止めることは出来ませんでした。

ごめんなさいと慌ててハンカチを取り出す、私の手をオリバー様がつかみ

「謝る必要はないでしょう。」

そういうと、私のハンカチを取り上げて隣に座り優しく涙を拭ってくれます。

でも、次から次へと涙があふれて。

切りが無いな。

ふっとオリバー様が笑われて。

そのお顔がなんだかとっても素敵で。

見上げたまま、見とれていた私のおでこにチュッと温かい何かか触れました。

えっ。

今度は頬にチュッと。

ええっ。

びっくりして固まってしまった私に

オリバー様はニヤリと笑いかけ

「顔が真っ赤になりましたが、涙は止まりましたよ。」

えええっ。


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