兄。アルバート
今日は織物関係のパーティーに、出席している。
もしあの方が私に会いたいと思っていれば、来るだろうと思って。
来なければあの家は終わりだが、それはそれで都合がいい。
「アルバート様。ウイリアム様が来られています。
やはり、アルバート様を探しておられるようです。」
私の代わりに会場を見張らせていたロイが戻ってきました。
やっぱり、公爵家の跡取りが彼じゃなければ良かったのにね。
重たい腰を上げると、私は借りていた応接室を出てウイリアム様に声をかけるべく
会場へ向かいます。
「アルバート。ローズ嬢の事本当にすまない。
まさか、隣国にいる間にこんな事になっているなんて。」
応接室に案内するなりウイリアム様は頭を下げます。
確かに隣国に行っている間に婚約者が代わっていて、結婚式だと戻ったら全然知らない女で
驚いたことでしょう。
「だから、貴方に会うのは嫌だったんですよ。謝られるのが分かっていましたからね。」
ウイリアム様はポカンとして
「じゃあ、私が帰国してから全然会えなかったのは。」
「もちろん、わざとですよ。」
当たり前じゃないですか。
「じゃあ、なんで今日は私に声をかけたんだい。」
不思議そうなウイリアム様に私は一つ提案をします。
「そろそろ、貴方が公爵になりませんか?
もしその気があれば、お手伝いしますよ。」
二人の間に一瞬沈黙がおります。
「父上は、まだ元気だからその予定はないよ。」
慌ててウイリアム様が否定しますが、
「そうですか。それでは公爵様と弟君と一緒に没落されますか?」
別にかまいませんよ。
絶句しているウイリアム様に私は優しく話しかけます。
「実際、今でも公爵家がやっていけてるのは貴方のおかげですよね。
隣国まで行って、新しい販売ルートを確保するのは大変だったでしょう。
そうやって貴方が必死に稼いだお金を父君は惜しみなく弟君に与えてしまう。
違いますか?」
ウイリアム様は、下唇をかんで悔しそうに俯きます。
「そう。マーガレットの実家のコンドル家ですが、今は羽振りが良いそうですね。」
ハッとしたように私を見るウイリアム様に
「もしも、コンドル家が事業に失敗したら公爵様は支援するんでしょうね。」
情報を操作して数回儲けさせてあげたら、
偽の相場師をすっかり信用して、今は小麦を大量に買っていますよ。
来年が楽しみです。
「そっそんな。」
潰さないだけありがたいと思ってくださいね。
「私はね。あの二人が結婚する前にちゃんとローズに謝罪してくれて、
公爵家とも縁を切って、社交界から離れて子爵家に戻ると言ったら
婚約解消も認めたでしょう。
人が人を好きになるのは、仕方ありませんからね。
でも、リチャードとマーガレットはどうですか?
ローズに婚約破棄させて、自分たちは数ヵ月後に結婚。
社交界に居座り続け、何食わぬ顔でローズをパーティに誘い出して
ひどい噂も知らん顔。」
私には彼らの誠意がこれっぽっちも感じられません。
でも貴方は別です。
だから、選んでください。
公爵家を継いで、コンドル家を見捨てるか。
みんなで一緒に没落するか。
ねぇ。優しい選択じゃありませんか?




