気まずいんですの
私は、あれ以来ずっと誘いを断っていたので気まずい思いで立ち止まり
手をぶんぶん振りながら、息を弾ませ私の前に来たマーガレットを見ます。
相変わらず可愛らしく、表情豊かな大きな瞳が私を見つめます。
「ローズ。久しぶり。リチャードから療養中って聞いたのだけど、
もう身体の具合はいいの?
お見舞いに屋敷に行ったのだけど、別のところで療養中って言われて、
今どこにいるの?」
こてんっと顔を傾けてどうして、教えてくれなかったの?と頬を膨らます。
あぁ。
そうでした。
私は療養中という事で今は商会の最上階にあるプライベートルームで生活してたのでした。
どうしましょう。
マーガレットは親友ですが、なんだか今は本当の事を言いたくありません。
どういうか悩んでいると、それが目に入りました。
周りをダイヤで囲ったエメラルドの指輪。
地金は金で大きくはないが、上品な指輪。
リチャードのお祖母様が貴方の誕生石だからと私に贈ってくださった指輪。
婚約を破棄したときにお返した指輪。
一度視界に入ってしまうと、それから目が離せなくなりました。
マーガレットはそれに気づくと左手を私の方に差し出して
「リチャードのお祖母様が、持っている指輪を一つ譲ってくださるって言ってくれたの。
貴方が婚約中に付けていた指輪が素敵だったから、
これが欲しいって言ったのになかなか譲ってくださらなくて。
リチャードに言ってもらって、最近やっと頂けたのよ。」
やっぱり、この指輪素敵ね。
って無邪気に笑うマーガレット。
この指輪を返したとき、お祖母様は迷惑料代わりに私にもらって欲しいとおっしゃいました。
でも私は先代の公爵様が結婚の申し込みの時に、
お祖母様に贈った大切な指輪と知っていたので
そんな思い出の指輪を頂く事は出来ないと、
リチャードと結婚できない私が持つべきものではないとお返しした指輪。
指輪から目を離し、ゆっくりと顔を上げます。
「そう。とても貴方に似合っているわ。」
私は今どんな顔をしているのでしょう。
「ふふっ。ありがとう。」
ふんわりとマーガレットが笑います。
私は今笑えているのでしょうか?
「お嬢様。」
いつもより、そっとかけられた声にはっとしてオリバー様を見ます。
「そうそうローズ、その方はどなた?見たところ騎士の方みたいだけど。」
どういう関係か聞きたいのだろう
マーガレットがチラリとオリバー様を見て瞳をキラキラさせながら私に聞きます。
「私は、第一騎士団、隊長をしてます。オリバーといいます。」
オリバー様は、騎士らしく、とても礼儀正しくご挨拶されました。
「私はローズの親友でマーガレットと言います。」
そう言ってマーガレットも、とても可愛らしく笑うと綺麗な礼を返しました。
二人がただ挨拶をしただけなのに、心臓の辺りがぎゅっと苦しくなります。
オリバー様を見るといつもの不機嫌な感じではなく、少し微笑まれているようにも見えました。
駄目です。
何といったらいいのか分からない感情が、私の中で湧き上がってきました。
「お嬢様、お時間大丈夫ですか?」
オリバー様の問いかけに、とっさに返事が出来ずにいると、
私はスワロウ家の商会までお嬢様を送っているだけですよ。
とオリバー様がマーガレットに説明しています。
そう私は、送ってもらっているだけ。
オリバー様が私に特別な感情をもっているわけではない。
たぶんこれからも、そういうことにはならないのでは。
そう思うと、なんだか急に心がすっと冷えるような感じがしました。
いつも私1人が空回り。
ごめんなさい。時間がないの。
そうマーガレットに告げると、連絡してねと言うマーガレットに
曖昧に微笑んで、その場を離れました。