好きだったの。
今日は、親友と私の元婚約者の結婚式。
親友のマーガレットはそれはそれは可愛らしいの。
真っ白な肌に可愛らしい唇、なんと言っても大きな瞳はみんなを惹きつける。
マーガレット・コンドルは、子爵家で私の幼馴染。
太陽のような金髪、優しい目元、引き締まった体、男女問わず惹きつけられる魅力を持つ男。
リチャード・コゲラは、公爵家で私の元婚約者。
大丈夫よ。ローズ・スワロウ
上手く祝えるわ。
いいえ。二人を祝うのよ。
控え室の前で大きく息を吸い、ドアを開けた。
「おめでとう。マーガレット。リチャード。」
私は社交界で鍛えた、笑顔を見せる。
「ありがとう。ローズ。」
マーガレットはその大きな瞳に涙を浮かべる。
対するリチャードは複雑な感情をその瞳に浮かべた。
「ローズ。すまない。」
「リチャード謝らないで、マーガレットは私の大切な親友で幼馴染。
絶対に幸せにしてね。」
そういって笑った。
「ああ、大丈夫だ。」
リチャードも安心したように笑い、見詰め合う二人。
もう一度幸せになってね。と言って部屋を後にした。
誰もいない、遠くから式を見つめる。
リチャード。
私、貴方の事好きだっわ。
涙がこぼれる。
会わせるべきではなかったのかもしれない。
マーガレットにリチャードが惹かれていくのも。
マーガレットがリチャードに恋をしていくのも。
手に取るように分かったの。
だって婚約者になったその日からずっと私、貴方しか見ていなかったのですもの。
二人は優しすぎてなかなか私に言い出せなかった。
私は、知っていて知らないふりをした。
だって好きだったんですもの。
そして好きになってもらいたかったの。
でも、二人の悲しい顔を見たいわけでもなかった。
結局、私から婚約を破棄してもらうように働きかけた。
「こんなところで何してるんだ?」
誰もいないと思っていた所に声を掛けられて、心臓がビクリと音を立てた。
振り向けば、逆光で顔はよく見えないけど背の高い若い男が立っていた。
フォーマルな装いではないので招待客ではなさそう、でも着ている服の生地が良さそうなので貴族相手の商人かもしれない。
「今から、帰るところなのです。失礼しますね。」
若い男とこんなところで長居はしたくない。
そそくさと、逃げようとした私の腕をつかんで
「泣いていたのか。元婚約者に逃げられて。」
耳元でささやかれた言葉に身体がすくんだ。
私の事を知っている。
それもそうか、私は婚約者に逃げられた女として社交界でうわさの的だ。
それでも今の言葉は私の心に刺さった。
「関係ありませんでしょう。」
にっこりと微笑み、腕を振り払うついでに足を思い切り踏んづけた。
あまりの痛みに声にならないようだ。
ふふっ。ヒールって素敵。
でも私の心の痛みは、そんなものではありませんでしたの。
私はドレスを持ち上げ、そのまま走って逃げ出した。