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存 be

「ねえちょっと、僕が誰だかわかりますか?」

死人が語りかけたときは相場がきまっている。

「逃げろ!ゾンビーだ。」


ゾンビは何らかの感染症にかかった人のことをいうのではないかという説がある。触れれば感染することを知っていたのだ。


「ゾンビーになっても意外と普通ですね。」

ゾンビ歴数日の若造がしっかりした口調でしゃべる。

「そりゃそうしゃ。しぇいしぇんにひためたほころによるがにゃ(そりゃそうさ。生前に痛めたところによるがな)」

ゾンビ歴二か月の禿頭は肉がところどころ腐り落ちているため、構音障害があった。

「たしかにぼくは記憶がちょっとさだかではなくて。」

若造の頭には噛まれた痕があった。そこから脳味噌がぷつんとみえる。

「でも、ゾンビーってなんで人間を襲うんだろう。」

「人間を襲うゾンビーなんかほんのわずかさ。逆だよ。ゾンビーが人間に襲われているのさ。」

ゾンビ歴1週間の旦那が地獄をみてきたかのようにつぶやく。

「ほらきたぜ。人間どもだ。」

先ほどの哀れな若者とは違い、全身に防護服で覆われた人間がこちらへゆっくりと向かってくる。

「逃げろ!消毒されるぞ」

ゾンビと思えないほどの素早さで駆け逃げた。逆に人間はのそりのそりとこけないように歩いてくる。

「ゾンビー生活も楽じゃないっすね。」

はあはあ息を切らした分、足の指が腐りかけてきた。

「ゾンビーの楽しみっていうか生きがいってなんですか?」

「そりゃあお前よう。人間だった時に生きがいなんかあったか。」

「あったらゾンビーなんかになってないっすわ。」

「そうだな。まあ、俺はゾンビーになってよかったと思うことが一つだけあるんだ。自分には一人娘がいるんだが、最近ストーカーの被害にあっててね。だからそのストーカー野郎の頭にかみついてやったわけさ。あの時は死ぬほど噛みついてやったな。だから俺の歯はぼろぼろ。」

「はあ。」

「ゾンビーてのはさ。こういううがつのあがらねえあわれなやつらに神様がくれた最後のチャンスなんじゃないかって思うんだよ。お前も体が腐る前にしたいことをするんだな。」

したいことか・・・

生前は好きな女性がいたような気がする。その娘に会いに行くか・・・。




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