炊飯ジャー
「なんかね。つきあって数か月ぐらいの恋人同士が結婚することになったっていうのがやるせないの。わかる?」
「それは嫉妬とかじゃなくて?」
「そういうのとは違うと思いたいけど。まあ少しはあるかもしれないけどさ。」
「ふーん。まあわからんでもないよ。たかが数か月でなにわかった気になってるんだかって感じでしょ。」
「あー。そういうのもあるのか。私の場合は、結婚する片方を知ってる感じで、その人が素敵な人だったら『つりあうもっと素敵な人がほかにいるんじゃないか』とか思うの。逆にいまいちな人だったら『数か月で結婚とかするからわからないんだなあ。この人の本性が。』とか考えちゃうの。」
「ふーん。お互い知ってる人で、どちらも素敵な人だったら?」
「それでも、そういうカップルは逆に長いことゆっくり愛をはぐくんでほしいなと思っちゃう。」
「それは少し偏見がはいっちゃってるんじゃないの。適わぬ恋とか、ずっと小さい時から愛し続けているとかを憧れとかにとらえちゃってるんだよ。恋はひとそれぞれ。でしょ?」
「・・・そうはいってもやっぱりまだ早いよ。」
「緊張してる?」
「まあ、そりゃ多少はするけどね。でもまああんたとしばらくいてたら、慣れたということもあるけど。あんたはやっぱり我慢できないの?」
「そりゃねえ。男は安定をのぞまないのさ。」
「私だってどきどきすることはしたいよ。あんたといっしょだったら。」
「ジャーしちゃう?」
私の炊飯器はほかほかで赤飯がたけていた。




