マスターエレベーション
エレベーターのボタンをおすと、意識した訳ではないがすぐに扉が開いた。その軽やかさゆえに、私は4階へのボタンをすこしかっこよく押したのだった。
つまり後ろを向きながら右手で左後方のボタンを押したのだった。
エレベーター内に誰かいれば、まるでかかってこいよと言っているように見えたであろう。
このかっこよくボタンをおすという行為は段々エスカレートしていった(エレベーターだが)
太極拳をとりえれたり、道具をつかったり、あげくのはてには男装やコスプレまでするようになった。
ボタンを押してるうちに体の操作の仕方も覚えた。そこらへんの体操選手レベルなのではないだろうか。色々な道具も使えるようになったし、変装や演技もうまくなった。
しかし、これらはすべて無人のエレベーターで行っていた。
他人にも見せてみたい。
意を決して私は他人の乗っているエレベーターへ。
「何階ですか?」
「すいません。4階です。みててください。」
私は最高の技をみせようと気をためた。
「はい」
そのとき同乗者はものすごい勢いで体を動かし始めた。
その動きはやっとのことで目におえるほどのはやさであった。いな、それは私の目に追わせていたのだ。
私の目のなかでは優雅に振る舞いながらも、見えない速さ、死角では絶望的なまでの力が溜め込まれている動きだった。職人が何十年もかけて洗練したような技であった。
「4階ですね。」
同乗者はしっかり4のボタンを押していた。
「ありがとうございます。」
そういうのが精一杯だった。




