双頭の悪魔
「絶対許さないという人ほど許しそうじゃない?感情的だから。」
「どういうことだ?」
「なんか、貴様のことは絶対許さない!なんて叫んじゃう人って、まあ感情的じゃん。そんな感情的な人だったら、なんらかの感情で許しちゃいそうなんだよね。理由があったとか。助けてくれたとか。キャラの人気が出たとか。」
「なるほどな。絶対許さないからどうなんだってのはあるよな。許す許さないの問題って結局許されないことはほとんどない。しかるべき罰が与えられたら許されてしまうし、死が許しだったりするし。」
「そうそう。やっぱりこのセリフは負け犬の遠吠えというか。許さないんだったら、そこで殺してしまうとかさ。だからそのときはこういうのが正解なんだよ。『お前はバカ丸出しだッ!あの世でお前が来るのを楽しみに待っててやるぞッ!』」
「でも、たとえば『君がなくまで殴るのをやめない』とかはどう?これも許さないって言ってるのと同じだと思うけど。」
「そうね。この場合は決め台詞に近いわね。たしかに決め台詞に『絶対許さない』なんか言っちゃう人は怖いわね。かっこ悪いけど。」
「かっこいい決め台詞ってどういうのだろう?」
「そうね。オリジナリティが欲しいわね。いままでにない切り口の。それがクールってやつよ。」
「じゃあ、そろそろいこうかしらね。」「では、そろそろ終いだ。」
右顔と左顔を同時に突き出してその化け物はおろかな半妖を屠る最後の一撃を放とうとした。
その時、満身創痍だったはずの半妖の少年の右腕にわずかながら力が集まっていたのだ。
大きな破裂音と共に化け物は後ろへ吹っ飛んだ。
「最後に油断しやがって。てめえが時間をくれたおかげで気(機)がきたぜ。」
半妖は強がりを言ったが、もうほとんど体に力は残っていなかった。これで倒していなければ終わりだ。
「ふん。ここまで予定通りだ。」
砂ぼこりの中から化け物の声が一つ響く。
「けして、いい決め台詞がおもいつかなかったわけではないがな。最後に暴れられては、猫も鼠にかまれかねない。わざと貴様の残った力を出し切る隙を用意していたというわけだ。」
「だからバカだっていってんだよ。俺が力を出し切ったといつ言った。」
「強っても無駄だ。私にはわかる。お前の気がもはやヒョウタンの酒ほどのこっていないことはな。死ね。سمح(許し)!」
砂ぼこりがさらにまう。いったい半妖の少年はどうなってしまうのか・・
「ぐはあ。なぜだ!」
青草を千切るようにとどろく叫び声は化け物の声だった。
「てめえの甲高い左顔の声がしなくなってることに気づいてなかったようだな。俺のさっきの一撃は正真正銘最後のいたちっぺだった。その一撃でお前の左顔を右顔に固定しておいたのさ。お前の必殺技を自分でくらったってわけだ。さすがに砂ぼこりが晴れてしまったら、バカなお前でも気づいてしまうからな。今度は挑発してはやくとどめをさすように誘導したぜ。」
「くそが!半妖の分際で・・絶対に許さんぞ。」
「そうか?俺は許してあげたい気分だぜ。礼を言うよ。で、こうだったっけ、かっこいいセリフ?سمح!」




