石百用意し、一石二鳥す。
「このドレスはどうですか。こちらはハイネックになっておりまして、スカートの方はAラインになっております。」
私は暗殺者だ。ターゲットは新郎。大企業の御曹司である。
私はプロの殺し屋だから、潜入は得意だ。むしろ殺しの8割は潜入が占めているといっていいだろう。殺すのならガキでもできる。
そして今私は結婚式用のドレスをターゲットと一緒に選んでいるのだ。
はあー。めんどくさい。
自分の結婚式ならまだしも、所詮殺される相手と着る結婚式の衣装なんてどうでもいい。しかし、新郎は身なりに気にするタイプであり、何時間も試着を試している。今までの暗殺でも指折りに入る苦行である。
自分の結婚式ならどんなドレスを選ぶだろうか。考えもしたことなかったな。
私は15の時から暗殺業に手を染めているから、プライベートでの恋愛なぞしたことはなかった。
暗殺のために擬似的に男性とつきあうことは多々ある。だが、真の恋愛というものは今までしたことはない。
こんな汚れてしまっている私を愛してくれる不幸な男なんていないほうがいいのだ。
「あれ?みっちゃん。久しぶり。覚えてる?小学校の頃隣に住んでた、高崎だよ。」
ドレス屋で偶然出くわしたのは、小学校の頃近所に住んでいた幼馴染だった。名前を偽っているというのに、みっちゃん(本名)と呼ばれるのはまずい。
だが、私は違う意味でドキドキしていた。
「こんなところで出会うってことはもしかして結婚するの?」
「うん。今度ね。」
「そっかー。うれしいようでちょっと悲しいなあ。自分はみっちゃんのこと好きだったから。」
「え!?」
心が踊りだすのがわかる。潜在意識が、目的意識を、自律神経を凌駕している。
「なんでこんなこと言ってるんだろう。おかしいな。久しぶりにあえておかしくなっちゃてるみたい。僕もねこんど結婚するんだ。今日は嫁のドレスを選びに来たんだ。」
殺し屋は殺す瞬間が最も落ち着いている。さっきまで爆発しそうだった心拍は、まるで悟られないように息をひそめた。
「奥さんどこにいるの?」
「いまそこで試着してるよ。また、あとで紹介するね。」
「そう。」
この後、不幸な事故が試着室を襲った。犠牲者は二人。




