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#8 エルフ


奴隷商。


繁華街からは離れた怪しげな店が建ち並ぶ通りのさらに奥、煉瓦造りで巨大な3階建ての建物がある。黒服に身を包んだ体躯のいい大柄な男が2人、入り口である鉄で出来た柵型の門の両側に立っていた。


そして門を潜ると次は館内に入るための重苦しい量開きのドアがあり、さらに2人の男が立っていた。この2人はドアを開けるドアマン兼見張りで、客が通ろうとすると片方の男が開けるという仕組みだった。


館内に入ると先ず目に入るのは、6mほど床から離れた天井から下がり、天井から明るく広い室内を照らし、見るからに高そうな宝石を満遍なく取り付けたシャンデリアだ。

そして次に目に入るのは豪華な装飾品の数々。


金の額縁に入れられた絵画、よくわからない形をした置物。見た目は生き物を模したのだろうか? 見た目は変だが素材だけは一丁前に高価な物を使ったのだろう。宝石のようにキラキラと輝いていた。


そして係りの者に案内され、長い通路を歩き、一階の1番奥、学校の校長室のような部屋に大智は来ていた。


***


「お客様、白金貨2枚ですとオークションで購入なされるのが良いかと思います」

「オークション? なんだそれは?」

「はい。一般的に知られているのが表市、つまり私のような者が経営する商館型です。そして一般的に知られていない、一部の方々のみが奴隷をお求めになられ参加する(・・・・)のが裏市、奴隷商各々が目玉の商品を競りに出すのです。皆その日の為に仕入れた奴隷ですので表市よりも質が良い上に、上玉揃い、でございます」


待っていたのは小太りの中年の男。

ちょび髭を生やし赤いベストを着ている。まさに商人といったなりをしている。

こちらをニコニコとしながら見てくる。不快だ。


さて、裏市か、普通じゃ買えない奴隷を買えるとな。

どうせ買うなら……うん、可愛い方が良いよな。


「……いつだ?」


その言葉を聞いて商人はニッコリと笑みを浮かべ、


「今夜でございます」






「まぁ適当に時間潰すか……」


オークションは今夜7の刻と言っていた。


時間を確認するのに使うのは、街の中央に建てられた一際高い時計台だ。四面に4つの大きな時計が取り付けられ、街のどんな方向からも見れるようになっている。


この世界は地球と似ていて、365日を一年としている。だが、月という概念は無い。


今の時間は午後の4の刻。


(後3時間、か……街をぶらぶらして周るか、丁度腹も減ったし)


予定を決めた俺は、商館を出てそのまま繁華街のある大通りへと向かい、腹を満たし鍛冶屋や薬屋などを見て回り時間を潰した。



***



「これはこれは……いらっしゃいませお客様、これから始まりますので会場へ案内致します」

「ん? 近いのか?」

「はい、それはもう……ここの地下ですから」

「ああ、なるほど」

「えぇ、ではこちらです」


午後7時、俺は再度商館へ来た。


一度来た時と同じように、係りの者に商人の下へ案内された俺は、一言二言言葉を交わし、相変わらずニコニコとしたままの商人の後を付いて行く。


本来なら案内係りの人間が案内するそうだが、どうやら俺は上客として判断されたらしく、こうして商人自ら案内してくれているとのこと。


商人曰く「こうした対応も商売の基本ですので」と。

奴隷商売という非人道的な事をしているのに、そこら辺はちゃんとしていた。


「着きました。こちらの扉の中でございます。私はこれから裏へ回らないといけませんので、ここで……中に居る部下から説明があるので、後はご安心を。私はこれで」


そう言って商人は、来た道を戻って行った。




「さぁやってまいりました皆様お待ちかねの裏市!!! 今回は13名の出品予定でございます!!! 皆様奮って御参加下さいませ!! 尚、入札の際は挙手をしたままでお願い致します。では、早速一人目の商品でございます!」


会場に入って直ぐ、オークションは始まった。若干の煩ささを覚えながらも、司会の言葉に耳を傾けつつ、ステージを見る。


最初にステージ脇から出てきたのは、20代の男性獣人だった。司会の説明だと、獣人は近接戦闘が得意で、迷宮やクエストなどでパーティーのメンバーとして、購入する人が多いとのこと。


1人目を落札したのは、冒険者らしき男だった。


「さぁ続いて2人目! 人族の男性奴隷グーカス!! 農業、雑務、戦闘まで熟します!! では──!!」


オークションは進み、8人目まで落札された。皆大体金貨6〜8枚で落札されていった。


「さぁさぁ、次は今回の目玉商品でございます!! 深き森に住まう誇り高き森の民、エルフだぁぁぁああ!!!」


会場が一気に湧き上がる。

男達は目の色を変え、何としても落札せんと張り切っている。現在会場に居るのは貴族らしき風体の者達が殆どで、一般の客も居るが、資金が足りないのか、どこか落胆したように見える。


男共の鬱陶しい熱気に包まれる中、出てきたのは、ミュシアという名前で、ライトグリーンの髪に碧眼という、超が付くような美女だった。エルフの特徴である尖った耳は、不安そうにピクピクと忙しなく動いている。


「これは……」


そして俺の中で、何かが湧き上がったのが分かった。キュンとするような、良く分からない、今まで体感したことのない何か……胸の奥が熱くなった。


決めた──


最初の奴隷は、あのエルフにしよう。

エルフはプライドが高く、決して他種族の者には懐かないという。

目線すらも合わさず、言葉も交わさないらしい。現に今も、自分に対し下卑た視線を向けてくる客達に、これでもかと言わんばかりに、睨みつけ、殺気の混じった視線を向けて、気丈に振舞っている。


「良い、凄くいい。あの気の強そうな感じ、最高じゃないか……!!」


あの生意気な感じ、最高に好みだ。

最初はツンツンしているが、後からデレてるパターンのやつか? 俺的には人がいるとこではツンツン、二人だけの時はデレデレというのが1番好ましいのだが……


(っと、勝手に妄想が……ヤバイな、今の俺、中々キモかったな。早くはじまんねぇかな、早く持って帰りたい)


「では金貨80枚からスタートです!!!」


おぉ、最初が今日落札された奴隷達の10倍からかよ。

流石に高いな。金貨80枚ってことは、中金貨8枚か……俺の資金は、金貨にすると2000枚、イケる!!


本当にイケるよな……? 何か心許ないぞ。

とりあえず様子見で、声が止まったとこで参加だな。


「34!!」

「40!!」

「43!!」

「50!!」

「57だ!!」


落ちろ、落ちろ、落ちろ、落ちろ……


「300」

「ぐっ、ぬぅ……310!!」

「くそっ……」


最初は20人近く居た入札者が、250を超えたとこで、残り3人となった。

そしてまた1人落ちて残りは2人。


そろそろかな?


「400」

「490」

「……む、今回は諦めよう……」

「ではこれで落札となりますが、宜しいですか?」


司会が会場をグルリと見渡す。

ここで俺が参加する。


「700だ」

「なっ!?」


声を上げる。

静かだった会場に俺の声が響き渡るのと同時に、最後の1人がバッ、と俺の方を向いた。会場からはどよめきが起こり、そして最後の1人へと、俺を含めた会場中からの視線が集まる。


「……僕の負けだ……」

「決まったぁぁぁあ!! 金貨700枚で落札だぁぁあ!!!」


会場からは何故か歓声が上がり、俺に負けた奴へは、良くやった、惜しかった、などと慰めの声が掛けられている。

逆に俺には、ズルい奴、でしゃばり、生意気、と関係の無い言葉まで浴びせられた。


「ぷっ」


負け犬共め、何とでも言え。

普段なら腹が立つが今なら言える。


──これが、勝ち組か……


まさかここまで心地が良いとは、クセになりそうだ……とそんな事を思いつつ、俺はブーブーと浴びせられる暴言の中、会場を後にした。


本当はまだオークションは続くが、それよりも早くあのエルフを手にしたかったので、俺は係りの者に案内してもらい、引き取り部屋へと向かった。


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