王宮で取り調べ
「さて、んーアーリどの、性別女年齢不明身分不明住所不定…って取り調べ用がないじゃないの!」
「こら!ロレッタ!」
取り調べなう。そして美人さん(本名ロレッティ・タリンス)にほとんど白紙な取り調べたことを書く紙の束を投げつけられてるなう。
そしてそれを王国騎士長サマたちが止めている。暴れる美人さん。じっとするローブ(俺)。それを黙って見ている騎士たち
……なんだこのカオス。もう美人さん取り調べちまえよ。
「済まない……私がロレッタに任せたばっかりに……」
騎士長サマが額を押さえて凹んでる。
いや、そもそもなんでこんなことになったんだっけ……
ちょっと回想してみる。
確か、あれから。
豪華絢爛な王宮の端っこにある貴族の屋敷みたいなところに連れて来られて、その中の一部屋に入った。
「アーリ殿、こちらが取り調べし……いや、少し話を聞くため連れてきた人がゆっくりできるように用意した部屋だ」
キリっと告げる騎士長サマ。
長いわ!いっちまえよ取り調べ室って。
「どうぞおすわりください。あの、これを書いていただけますか?」
可愛いメイドさんが椅子を引いて、アンケートみたいなものを渡してきた。
名前とか年齢とか身分とか住所とか書くらしい。取り調べに使うようだ。はーい!
さて、と騎士長サマが俺の前の椅子に座った。向かい合う形で取り調べを受けるらしい。
だが。そこで美人さんがめっちゃ嫉妬しよった。
「別に向かい合わなくてもいいじゃない!」
とかなんとか言って。
そしたら騎士長サマが「規則だ、仕方ない」とかどうたらこうたら。
「いいじゃない!」「だめだ」「いいじゃない!」「だめだ」……エンドレス。
周りの騎士が「あぁ、またか」みたいな顔をしているところから察するに、よくあることなのだろう。
そしたらだんだん頭に血が上ってきたらしい騎士長サマ。
「ならばお前がやれ!」
「いいわよ!やってやります!!」
そして今に至る。
……馬鹿じゃねぇのか!?何喧嘩してんだお前ら!
取り調べする人が違うだろうが!なぜ普通の一般市民取り調べていちゃもんつける女はスルーなのか!?王国騎士大丈夫かー!
そんなことを思いつつ言えない俺。佇むローブと化してじっとしている。
だってどうすりゃいいか分かんねぇし。
あ、喧嘩がひと段落ついたみたいだ。
とっとと取り調べてもらってさっさと帰ろう。
「はい、でも苗字はありますよ?藤原です。」
「先に言いなさいよ!」「わかった、フジーラだな。」
おおう、騎士長サマ美人さんを華麗なるスルーか。熟練の技が垣間見えたぜ。
つかふ・じ・わ・らだってぇの。どーでもいいけど。
「……っ、無視しないでください!あんたなんか死刑よ、死刑!」
冤罪!完璧な冤罪!罪人レベルがうなぎのぼりだ。……そう言うとぬるぬるしてそうだな。
「今のところ無実だ。ロレッタ、落ち着け」
騎士長サマも頭に血が上ってたのをなかったことにしている。
つか今のところって……俺、やばくね?
「あ!今のところっていった?わかった!頑張れば、死刑にできるわね!」
美人さんも同じことを思ったらしい。なんか張り切ってる。
やめろ、はりきるな、頼むから頑張るな。正気になれ。…これが美人さんの正気なのかもしれねぇけど。
恋する女は強し。
「よーし、取り調べするわよー!あんた住所不定ってことは旅人ね?ギルドランクどれぐらい?」
「ぎるどらんく…?なんですかそれ?」
「「「「えっ!?」」」」
「ギルドランクも知らないの!?そんなの知らないの今時箱入り娘ぐらいよ!?」
その場にいた奴ら全員に驚かれた。しらねぇんだからしょうがねぇじゃねぇか。
固まったままそっと引き下がる美人さん、ススス……と椅子ごとスライドして、小声で話し合い始めた。
……なんか、俺以外でこの部屋にいた奴らが集まってこそこそ話し合ってる。何?はぶられてるのこれ?
こっそり【地獄耳:ヒソヒソ話が全部聞こえるよ☆】を使う。
どれどれ……?
「もしかしてワケありお嬢様じゃない?あの子!」
「女だと知られないようにみたいなこといってましたし!」
「ふむ……もともと箱入り娘だったのだろう。なにか事情があって……」
「「「逃げてきた!とか?」」」」
違うわ!深読みしすぎだ!そこのメイド!目をキラキラさせるな!
全部間違ってるわけじゃねぇが、重要なところが違う!
訳あり箱入り娘じゃねぇぇぇぇ!
俺は男だ!いや、だったんだ……。うぅう。
「アーリ殿……そなたはこの国の常識をあまりご存知ないようだ。もしよければ王国を案内しようか?」
「えっ、いいのですか!?お願いします!ありがとうございます!」
「あぁ、それ意外にも色々と支援はさせてもらう。……大変だったんだな。もう、大丈夫だ」
おう、騎士長サマの中で物語が出来上がっている。
ちがうんだけど、なー。