騎士長サマのお願い
ー完了ー
っ!もう終わったのか!!
すげえ、本当に意識が消えた!全然嫌な臭いもしなかった!!
なんか、ふわって体が浮いたなぁって思ったら即完了!何これ、便利ぃー。
んー?うぉっ!風が気持ちいい!いい匂いもするな、美味しそう!焼肉かな?
そっと目を開ける。賑やかで人が沢山いる良い町を想像して━━━━
あれ?何これ?
目を開けた俺が見たものは、賑やかな街でもなく、美しい街でもなく、
俺に剣を向け臨戦態勢に入っている兵士っぽい人たちだった。
中世っぽい素敵な広場のど真ん中で、刃先がぐるっと俺の周りを囲んでいる。
え、なにこれこわい。
いや、俺が剣を向けられてるって…えっ。
俺普通の一般市民だぞ?なんだよチンピラか?ものすごく大掛かりの。何大勢で来て
んの。逆に疲れねぇ?
初心者っぽいからってたかりに来たのか?財布渡すから帰ってください。
前世では見た目が怖そうだからってたかられなかったのにな……
「お前は何者だ?」
っ!少し切ない気持ちの俺に、なんかリーダーっぽい男が話しかけた!
見た目ハンサムダンディなおじさまなのにチンピラかー。もったいない。
てかちゃんと言葉わかるんだな。
なんか変な感じ。明らかに違う言葉なんだけどな。
っと話しかけられたし答えなきゃ駄目か?怖いよー。
「俺は……」
うーん……こう言う時って、偽名名乗っといたほうがいいのか?
嘘着いたら針千本って訳でもねぇだろうし……。ここは夢か本当かファンタジー世界、何が起こるかわかりゃしねぇ、もしかしたら本名教える=即契約とか……うわ、やだなぁ。
うん、偽名名乗っとくか!
「杏里です。よろしく」
姉貴の名前をサクッと拝借した。すまん姉貴!!
「ふむ、アーリか。いい名前だ。私はエリウス王国騎士長、ダスガだ。こちらこそよろしく。」
杏里だよ。ま、どうでもいいけど……
……と言うより。ちょっとお前、今なんて?騎士長だよね?なんか、ものすごく強そうなのですが?
そして高潔で市民の味方のイメージがある、が……うーん?
いや、でも実際の騎士は確か……いや……?
確か、騎士はピンキリ、いいやつから悪い奴まで幅広くお取り扱っていた……きがする。
つまり、財布をよこせと、俺様騎士長様だぞ財布を渡しやがれという意味か?
だがやらん!金はねぇ!さっき探してたが、財布を持っていなかった。
……警戒しすぎだろうか。
「あ、あの!」
ん?なんか騎士長サマに話しかけられた。ものすごく言いにくそうだ。
なんだどうした財布はないぞ?…疑いすぎか、俺。
「フードを外して頂けないだろうか!」
フードが欲しいのか!?フード!?フード……いやフード!?
財布差し置いてフードを要求したぞこいつ!
うん、それぐらいのことならするが、なんで?
もしかして女子の肌を見たいとかいう変態?可能性は無きこともない……が……
ま、逆らうと怖いので脱ぐことにした。やっぱり知らない人怖い。
フードのボタンを上から外してゆく。少女らしい胸が手に当たる。
あぁ、やっぱり俺女なんだなぁ…
全部外し終わったため、バッと勢いよく脱いだ。
「なに?美人!?」とか「おお、美人じゃないか……」とかの呟きは聞こえなかったことにしておこう。なんか気持ち悪いし。
「これでいいですか?」
「ああ、感謝する。こら!お前ら黙れ。」
騎士長サマは動じず、ざわざわしている騎士どもを一喝。
ピンキリの良い方だったのか、騎士長サマ!!
「その、それでだな、ううん」
さっきよりもっと言いにくそうにまた何か言おうとしている。
なんだどうした?今度こそ……財布か?
「王宮までご同行願えないだろうか!」
……なんか、署までご同行願いますみたいなニュアンスを感じるんだが。
俺なんにもしてない……よな?よな!
断ろうと思ったが騎士長サマの必死…というか決死の形相が怖すぎて何も言えない。
よく見ると周りの騎士達も同じ顔をしている。こっわ!
俺意識がない時何をやらかしたんだろう……?説明書、もうちょっと詳しく書いてて欲しかった!
俺の返事がないことを査定と受け取ったらしく、「ではこちらに……」といつの間にか後ろにあった馬車に乗りこまされる。いつの間に!
すっと警察的なスキルで滑るように馬車に押し込まれる。なんて紳士的な押し込み!
気がついたら馬車に乗っている、ちょっと待って、何されるの俺。いや何が起きてるのこれ。
……ま、まぁ!
こっちにゃチートがあるんだ、危なくなったら精一杯抵抗しよう!
強がる俺の脳を、ドナドナの曲が掠めた。