目覚めて、トラウマ作成
ピッという電子音が聞こえた気がして、ふと目を覚ました。
……あれ?俺、死んでなかったっけ。生きてたのか?
俺はどうなったのだろうか。うん、意識があるのだから生きているのだろう!
体に痛みは無い。まあ、人間許容量を超える痛みは感知しないというから安心はできないが……怖ぇな。
ここは病院か……?霧に包まれたみたいに、目が見えない。
不自由なく動く手でごしごし目をこする。
……お、よかった!何とか見えるようになった!
って、え。
……俺がいたところは、少なくとも病院ではなかった。
今の地球の技術力では到底出来なさそうなSF近未来ちっくな実験室?だった。
壁一面にごちゃごちゃと難しそうな配線が通ってる。
しかも、謎の機械が部屋中にあって、その部屋の真ん中の実験台みたいな所に俺が寝ている……。
……死んでしまったと思われて人体実験?
いや、発想が突飛すぎる。生きてるか死んでるかは流石にわかるだろうし…
そんなことあるわけない。
いや、そもそも死んだからって人体実験って……俺に何が起こったんだよ。
どこに連れてかれてんだよ、俺。怖すぎんだろ……マッドサイエンティストかよ……。
目覚めたら実験台って。ベットじゃダメだったんだろうか。
物凄くモルモットの気分。
ま、まぁ!まずは現状把握だ。起き上がってみる。
ムクッ
…んっ?
あれ?俺、こんな身体だったっけ?
認めたくないが、胸らしきものが…あ、る…。
咄嗟に広げた手はほっそりツヤツヤ。綺麗な手だ。
たしか俺の手は大きくてごつごつしていて、間違ってもほっそりなんてしていないし、胸なんてもちろんない。
……服が、何故か水着みたいなものと、長めのパーカーっぽい物に……。
スーツ着てたはずなんだが。スーツどこいった。川に落ちて濡れたっつっても、もうちょっとまともな服が良かったな!
服といい、体といい、手といい。
どれも十三歳くらいの少女のものだ。俺25なのに。
うお、肌が若々しい。つやつやすべすべで…ちょっと、若返った気分。
頭脳は大人、体は子供でお馴染みのあの子はこんな気持ちだったのだろうか。
とは言っても俺はそんな重大事件に首は突っ込まないし。
……うん、これ夢だ!夢に違いない!
そう断定し、さっきまで俺が寝ていた実験台?からえいっと飛び降りた。
さらっ、と黒髪で、ツヤツヤしている長い髪が肩にかかる。
つやっつやで、とってもキラッキラだ。平安貴族みたいだ……。
うん、絶対俺じゃない。夢だな。
恐る恐る歩き出すと、不思議なドアがウィンッと開いた。
うぅ、早く人に会いたい。ひとりぼっちの夢ってなんかやだし。
…あれ?誰もいない。
機械的な白い廊下に出た。しーんと、耳に痛い静寂が響く。
んー?こう言う部屋は見張り的な奴らがいるのかと思ってたが。
近くにいるかな?
「誰かいませんかーーーー!!」
うおっ、声いいな。凛としていて、それでいて愛らしく、落ち着いた少女の声だ。
そして応答なし。この近くには人がいないのだろうか……。
まあいいや、歩いていたら誰かに会えるだろう。
……それにしても、目が覚めて見知らぬ場所で一人きりってこの状況。
夢でもなんか怖いな。早く覚めないかなぁー、この夢。
「寂しいっ!!」
どれくらい歩いただろう。
まったく誰にも会えない……
代わり映えのない白い廊下が延々と続いているだけだぜ、これ。
最初の頃はビクビクしつつ、「だ、誰かいませんかー?」なんて言いながらゆっくりゆっくり歩いていたけどさ、何十分くらい経った頃かな?
慣れ切って無表情&早歩きで探検し出したよ、俺。スタスタスタって。
今までずっと歩いていて、見つけたものが真っ白なローブ一枚とか……。
人はいないのか、人は!
つか夢にしちゃ変にリアルだ、ほら、この壁のツヤツヤ感すげぇ……あ、嫌、全く疲れねぇからやっぱ夢か。ほっ。
おっ!なんか他のドアと色が全く違うドアがある。出口かなー?
ウィンッ
あ?
えっ。ちょっ。
「っぅわあああああああああああああっ!!?」
変な自動ドアの外に出て、すぐに目に飛び込んできたのは、廃墟だった。
腐り落ちた建物と、腐乱死体。骸骨もある。
ひぃ…っゴロゴロ腐った死体が落っこちてて、槍とかが突き刺さってる。
ホラー映画みたいな客観視は無理だ。できない。怖い。怖い!グロい!
汗がだらだらだらだら異常なまでに出てきた。
すげぇ気持ち悪い。
生々しい嫌な匂いが、変にリアルで。
息が苦しい。
「ひっ……」
ふと、死体の一つと目が……あった。
「た、たすけっ、い、嫌だ嫌だ死にたくなっ、うぎゃああああああああああ」
何の心構えなしに死体を目撃し、俺は慌ててさっきいた謎の建物に逃げ帰った。
だいぶ走った廊下の隅に、しゃがみこんでうずくまる。震えが止まらない。
目を瞑るとさっきの衝撃的な光景が暗闇に浮かび上がってきた。鬼か。
ほっぽってあった拾ったローブを深く被る。
しばらく泣いて落ち着いたと思ったらさっきの光景がフラッシュバックし……
そしてまた叫びそうになった時、俺の意識はブラックアウトした。