おやすみなさい……
だいぶ間が空いてしまいました。すみません見捨てないでください……!
近いうちにサマーバケーションなので、これからは最低でも一週間ごとに更新します!
「さ、どうだアーリ!うまかったか?」
《は、はい!ありがとうございました》
夕食は、割と滞りなく終わった。
滞りどころか、むしろ美人さんがいなくて会話が去勢されたチワワみたいに平和だった。ここまでくると逆に美人さんすごい。ゴリラのゴの字も出てこなかったぞ。
強いて言うなら、俺ロボットなのに夕食食べていいのかな?っていうそもそもの問題に気がついたのがやたら洒落オツな料理を口に入れた後だったことぐらいだろうか。
まぁそれも、その口に含んだ料理が脳が揺れるくらい美味かったこともあり、気にしないでそのまま咀嚼し続けたら平気っぽかったし、きっと大丈夫だろう。やわらかな鶏肉にかかったオレンジ色のソースが舌にとろけてやばかった、とだけ言っておく。もう一回食べたいくらいだ。
そこはかとなく、自分が非日常に慣れきって肝が太くなってきた気がしないでもない。適応能力、ってやつだろうか……?
「うむうむ、それは良かった。……あぁ、そうだお前。この者に寝具を用意しなさい」
「はい、了解しました。」
「うむ。それではアーリ、部屋に案内しよう」
ニコニコ、と満足そうに笑いながら、息を吐くようにメイドさんに幼女さんが命令した。
……こういう仕草一つ一つに、上流階級の人っぽさがにじみ出てるんだよなぁ。
行こうか、と、こちらを振り返って差し出された小さな手をとって笑い返す。ちょっと照れくさい。
《はい、よろしくお願いします》
幼女さんの小さな手に手を引かれて、やたらデカくて豪華絢爛な食堂を後にした。
◆◇◆
部屋につながっているらしい、薄暗い廊下を二人で歩く。足の沈むほどフッカフカな絨毯なんて今日で初めて踏んだ。……すげえ、これ明らかにニ○リには売ってねぇよな。高そうだ。
あ、飯を食っている間にもうすっかり日も落ちたらしい。窓から差し込むつやつやした月明かりに照らされて、目に映るもの全てがますます高級そうに見えた。怖い。
行きでさえ壊しそうで怖かった、やたら高そうな壷やら絵画やらを戦々恐々と睨みつけていると、こちらを振り向いた幼女さんと目があった。
「今日は疲れただろう、アーリ」
《……あ、少し》
「そうだろうな、三日も寝込んでいて目覚めたばかりだというのに……すまないな」
《いえ! 夕食まで頂いて……ありがとうございました。とっても美味しかったです》
素性もしれない、怪しさ満点の子供を自分の家に招き入れることでは飽き足らず、飯まで食わしてくれたくせに、まだ謝るという。幼女さんは女神を目指しているのだろうか。いい人すぎる。
激しく首を振ると、そうか? と眉を上げ、美味しかったならいいさ、なんて言ってヘニャリと笑った。
こう言っちゃなんだが、美人さん相手に怒り狂っていたとは思えないほどの天使だ。薄々思っていたのだが、美人さんといるときといない時では、幼女さん雰囲気変わるよな?
こうしてみると、やっぱり幼女さん大人なんだ、と思う。なんというか、包容力があるというか……。うん、こうなりたいものだ。さすが学園長、きっと生徒にも慕われていることだろう。
あ、そういえば、俺三日寝込んでいたんだっけ。
……そう言っても別に体に異常はないし、美人さんと一緒にいた今日の方が疲労した気がする。あのノリはすごい。やばい。
「そうか? それならよかったが……まぁ今日はゆっくり休め。明日は確かロレッタは休日のはずだからな」
《……あ、はい……そうですね、お言葉に甘えます》
「うむ。さ、ついたぞ」
急に足を止めた幼女さんにつられて顔を上げると、目の前には重厚な扉が。木製で、金色のドアノブがはめ込まれている、まさしく高級!といった感じの作りだ。……ついたって、あ、そっか、部屋か。
「中にロレッタが買ってきた寝巻きがあるはずだから、それに着替えて、湯浴みは朝にしよう」
《ありがとうございます!……本当に、何から何まで、何てお礼をしたらいいか》
「何、これくらい平気だ。今日はさっさと寝るろいい。……おやすみ」
せめてもうちょっとお礼を言おうと食い下がるが、流れるように無理やり部屋に詰め込まれて、目の前でドアが閉まった。幼女さん結構力強い。
しばらくそのドアを見つめて、しばらく呆然とする。
《……ぁ》
なんだかドッと疲れが湧き出てきて、思わずへたり込んだ。鉛が絡みつくような倦怠感。
そういえば、ここしばらく一人になっていなかったな。自分では認識していなかったが、相当疲れていたらしい。
《……そうだな、寝よう》
ふよふよ漂う花の香りのせいで、ゆっくりと瞼が下がる。もしかしたら、俺は今まですごい疲れた顔をしてたんじゃないだろうか。尋常じゃないスピードで眠くなってきた。
適当な家具に手をついて、よろよろ立ち上がる。いつもは感動と恐怖を一緒くたに感じる豪華な内装も、疲れた頭には入ってこなかった。
部屋の真ん中に鎮座する、恐ろしいほどフリルのついた、見るからにフカフカなベットに吸い込まれるように近づく。途中絨毯があまりにも柔らかいため、ここで寝ても結構いい夢見れそうじゃね?と血迷ったが、せっかくベットを用意してくれた女神たちに悪いため意地と根性でベットまでたどり着いた。
《虫柄……うわぁ……本当に虫柄だぁー……》
ベットに畳まれて置いてある、ウラギンアゲハ、と可愛らしく描かれたネグリジェを手に取る。
蝶でよかったというべきなのか、なんで虫なのか、というべきかは迷うところだが、さすが美人さんの選んだものでとてもおしゃれ……というか、可愛かった。もしかしたら女子の間で虫が流行っているのかもしれない。こう、外し的な。
まぁ鑑賞は後でもできる。今は寝よう。
女物の服の脱がし方とかよくわからなかったが、さっきも店で脱いだり着たりしたし、ここはもう気合いで脱いだ。こんなもの割烹着と一緒だ。割といける。
靴を脱いでベットに乗り込むと、その想像以上の柔らかさに体が溶けそうだった。実際ちょっと溶けたかもしれん。このしずみこむ感じがやばい。絨毯なんて比にならないくらい沈む。これはあかん、人をダメにするやつだ。
こんな恐ろしいものを用意するなど、メイドめなかなかやりおるわい……。
《お休みなさい……》
ガクッ、と、壊れた人形みたいにベットに倒れこんで、毛布にもぞもぞ潜り込む。
腐っても渋くても少女である、姫のごとく大きいベットにはなすすべもなく全身埋もれ、もう睡魔に抵抗する気も起きない。
ゆっくり沈んでいく意識に身を任せて、何のためらいもなく目を閉じた。
次第に体の感覚がベットにとろけていって、どんどん眠くなっていく。あぁ、幸せ……。
と、その時、カタン、とかすかな音が聞こえた。
あれ、窓閉めてなかったのか……とそこは成人男性の意地で意識を浮上させるが、この天国から抜け出す気が起きるほどの影響力を窓ごときが持つはずはないので、めんどくさいほっとこう、との結論を下した。
まぁ別に、窓が開いていたところで誰も入ってこないだろう。警備だっているだろうし、きっと平気だ。うん。
おやすみな……さ……ぃ……
「こんにちわー、おじゃましてます!」
《ん゛っ!?》




