表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/27

姦しいのか、文殊の知恵か

前話で好き勝手やりすぎたせいでとても遅れました。

ごめんなさい見捨てないでください。

 


 





 ポロン、ロロロン、ボロン、ポロロロン……


 低く甘い洋琴音が、耳に心地よい。時告げ針のメトロノーム。

 紅茶に砂糖が香る部屋に、ピアノを弾くものは誰もいない。


 さぁっ……と吹いたオレンジ色の風が、薄いカーテンを淡く羽ばたかせる。バタバタと偽りの白い翼。

 冒険を夢見るように、窓の側で暴れた。


 斜陽に染まる木々がざわざわと囁き、レトロなメロディは静かに話した。

 ゆっくりと時の流れる静かな夕暮れだ。上品で、美しい時間。


 そんな時の流れる部屋で、俺は。



《……本当に、何がしたかったんですか》



 しょっぱい気持ちでいっぱいだった。







 ◆◇





 眼前には、神妙な顔もちでバナナを持つ美人さん……と、反省しているような顔で俯いてフリルを構えている幼女さん。



 その二人を正座で見つめながら、ゆっくりと話し出したゴリラが俺だ。


《……あのですね、そもそも着ぐるみ取り出した時点でおかしいんです》

「反論♪私にしては考えた方だと思うの」

「自覚があるなら治してください!」


 さて、どこから話せばいいのか。

 やるせない複雑な気持ちでいっぱいな心中を、察したように木枯らしが吹いた。

 腹は立ってない。悲しくもない。だけど何だろうこの胸の苦しさは。もちろん恋とかではない。


《……アイマスクは、寝るためのものです》

「そうだな、心地よい眠りにつくために開発された素晴らしいものだ」

「そうね……でも、そうやって決めつけてたら何も生まなくない?」

「む、決めつけてはいない。しかし物事を最大限に役に立てるには……」

《違うんです……そこで話を膨らませたいわけではなくてですね》

「え?じゃあ、なにー?」

《……着ぐるみに、アイマスクをつけるのはどうかと思うんです》

「え?オシャレじゃない?」


 着ぐるみの着こなしにまで精通している美人さん、すごいなって。

 何だろう、着ぐるみには甘ロリアイマスク!とかが流行りなんだろうか。


 こう、外しアイテム的な。


 哀愁漂うゴリラを、美人さんが不思議そうに見る。

 ゴリラの頭には、お察しの通りに、アイマスクが。アイアムゴリラが今日も光ってる。

 

「大丈夫、似合ってるぞ」

《違います!そういう不安とか持ってません!》

「わかってる、フリルが足りないんだな」

《それも違います。むしろもうこれ以上ゴリラを飾り立てないでください》

「じゃあ何が不満なんだ?」

《……いや、そりゃぁ……まず着ぐるみ着せられた時点で……その上、大きすぎて外れないし……》


 頭が重いんだ。物理的な意味で。


「ゴリラが離れたくないって言ってるのよ」

《何ですかその無責任な解釈……本当だったら相当なホラーですよ!?》

「あぁ、いまあなたの顔面にへばりついてるよ、ってやつか」


 無邪気さが斜め下を爆走している幼女さん、さらりと言ってのける。

 間違いなく今新たな怪談が生まれた。「私メリーさん今あなたの……」を超えた。


《怖さを一周してもはや気持ち悪い!ゴリラさん今どういう状況ですか》

「ふふふっ、反応に困るよな」

《違います。困るとこそこじゃないです》

「そうね、そもそもメールが見えないわ」

「む?音声着信にすればいいのではないだろうか」

《携帯電話の存在意義……が……?》


 そこで、ん?と気がついた。


 そもそもこの世界メリーさんいるのか?つか、そもそも携帯電話自体が。

 当然のようにメリーさんの話をしていたけど、よく考えると変だよな……?



「どうした?アーリ。急に固まったぞ?」


 っと、やばい。不安そうにゴリラを覗き込む幼女さん。心配させちゃったな。


《……携帯電話って》

「あれ、知らないの?これよこれ」


 ポケットから、チャッと。

 美人さんがそんな音を立てて、手の平サイズのダイヤモンド……みたいなのを取り出した。

 目の前でフリフリと揺れるたび、シャラシャラと音がする。すげえ。なんかすげえ。


《宝石……?》

「正確には魔方石だ。改造してあり、魔力を流し込めば使えるようになっている」

「ほれほれ。綺麗でしょう?」

《おぉ……!》


 これがこの世界の携帯電話らしい。

 くっと手に力を入れる美人さん。キラン!と石が煌めき、赤く染まる。

 なんだこれ、今度はルビーみたいになった!


「これで通話。赤色になるの♪あとは、これでメール。これで時計。これで……」

「意外と多機能でな。使うにはコツがいるが、普及率は凄いことになっている」


 確か、町民はほぼ全員が持っていた……気がする、と幼女さん。

 前世の携帯電話と変わらねぇんだな、それじゃ。


《へぇ……すごいですねぇ!》

「うんうん……あれっ!?」


 ニコニコとして画面?を触る美人さんが、ニコニコしたまま固まった。

 さあっ……と顔が青く染まる。


「どうした、ロレッタ?」

「……仕事、忘れてた」

《……?》


 携帯に何かあったのだろうか。手が震えている。

 うむ、と幼女さんが笑う。


「行って来い」

「……嫌」


 どうしたんだろう。美人さんが死んだ魚のような目をしてる。


「あの色ボケ王子に何で私が……」

「それも仕事だ!」

《……?どうしたんですか?》


 恐る恐る聞いてみた。ガシッと肩を掴まれる。


「王国副騎士長には、剣技指導という、クソみたいな仕事があるの」

《は、はぁ》


 ぐっと、拳を握った美人さん。不敬だぞ、とたしなめる幼女さん。

 なんだか状況が飲み込めたような飲み込めないような……うーん?

 

 と、その瞬間。



 ボーンボーンボーン、と置き時計が6回なった。もう6時か?

 よく見れば、ずいぶん空も夜めいてきた。


《あれ、もう6時ですね》

「ロレッタ、仕事は何時からだ?」

「……5時よ」

「遅刻じゃないか!?」


 ぐっと、美人さんの服を握る幼女さん。

 あれか?行きたくない仕事に気がついて、行かなきゃいけない、ってやつか?


 うぅん、社会人だもんなぁ……。



「アーリ、ちょっとこいつは用事ができて帰らなければいけない」

《は、はい》

「私はもう帰るけど、アーリはこの館に泊まるからね〜!」

「客人用の部屋はもう手配してあるぞ!」

《いつの間に……ありがとうございます》

 

 よくわからないが、泊めてくれるらしい。

 ずりずりと美人さんがドアの方へ引きずられていく。


「行きたくないーヤダー!」

「さっさと行け!グダグダするな!」


 本当、なんか、悪いな。

 世話になりっぱなしだ。マジで恩返しがしたい。

 学園にも行かせてもらえるらしいし……。




 ……二人が望むなら、やはりゴリラになるべきなのだろうか。



 そんなことを考えながら、ホテルみたいな綺麗な廊下を引っ張られて、美人さんが消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ