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ゆるキャラ選手権

主人公のテンションがおかしいかもしれません。ご不快に思われた方は、ぜひご報告お願いします。

 格調高い書斎。

 学院長らしく本棚に囲まれたそれは、間違いなく学園長本人より威圧を放っていた。

 しかし、シャンデリアはキラキラと輝き、流れる音楽とともに美しい。その点も踏まえて見れば、学園長本人とその部屋はよく似ていると言えるだろう。ほら、真面目な感じも……


 その部屋で俺と幼女さんと美人さんは、お互い真顔で向かい合っていた。いや、もう真顔になるしかなかった。


 真剣な声が響く。


「あたしね、考えたのよ」

 《……はぁ》


 美人さんの声。それはまっすぐで純粋で、真面目に考えてくれたと、信じられるような声だった。でも死んだ魚みたいな返事が出た。

 無言な幼女さんは俯いて、ぷるぷると肩を震わせている。


「アーリは、女だとバレたくないじゃない?」

 《そうですね》

「だから、女の人が絶対に着ない服を買ってきたの!」

 《……それで、これですか。これを着ろというんですか》


 誇らしげな美人さんを、濁った瞳で見つめる。しかし美人さんは笑う。泣くぞ。


 …………


 美人さんが鞄をあさりだしたあの後。

 大きなショッピングバックから出てきたのは、ゴリラの──




 《……これが出てきた美人さんの脳内が怖いです》




 ───着ぐるみだった。











「ぶふっ」

 《…………幼女さん、笑えませんよコレ》


 幼女さんが耐えきれず吹き出した。薄情者め!俺これを着ることになるかもしれないんだぞ。

 死んだ目で着ぐるみを見る。

 クラッシックが流れてるの余計辛いぜ……美人さんよくこんな格調高い部屋にこれ持ってこれたな……勇気あんなぁ……。


「えー?何で?いいじゃないこれ、可愛いわよ!」

 《可愛くないし!そもそも可愛さ求めてませんし!?別にゆるキャラナンバーワン目指してるわけじゃないんですよ!》

「え?可愛いは正義って言うじゃないー」





 ……もう一度言うが。


 美人さんが鞄をあさりだしたあの後。


 出てきたのはなぜか、着ぐるみ。わからねぇ。俺美人さんが本気でわからねぇ。

 あとスッゲェびっくりした。いや、マジで死ぬかと思った。

 考えてもみろよ、バラ模様のエコバックからゴリラの顔面出てきたんだよ?泣くしかねぇだろ。


 …………しかもよく見ると綺麗な材質の布をふんだんに使っていることがわかるというね。

 一目見ても高級だって分かる作りになってるが、なぜ今出てきた。そして金の使いどころを大いに間違ってる気がする。

 誰だ、誰得だこれ。誰が何を思って着心地触り心地ともに十分なゴリラ作った。


「……よし!フリルもつけるか!」

 《ああああ?!ちくしょう本領発揮!幼女さん悪乗りしないでくださいこれ悪乗りしちゃダメなやつですちょっ……!》

「あははははははははは!」


 あれやこれやという間に着ぐるみを着せられる。

 そして、皆さん事件です!ゴリラにフリルがつきました。オプションは渋い声です。素晴らしいですね!


「ふむ、やはり……最初の時も思ったが、アーリはフリルが似合うな」

「違げぇ!幼女さん、あんたが見てるの俺じゃなくてただのゴリラだから!割とリアルなゴリラの着ぐるみだから!」


 ……違う、こんなこと考えてる場合じゃねぇ。割と切実にピンチだこれ!


 《落ち着きましょうみなさん!考えてもみてください、こんな声であの着ぐるみかぶったらもう職質どころじゃありませんよ!?大変なことになりますよ!ね!》

「そうよね、ファンが増えちゃうわよね♪」

《本気でそう思ってるからタチ悪りぃんですよあんたは!間違いなくニュース速報になるっつってるんですよこの怪しい着ぐるみ!【速報】渋い声のゆるキャラ現る!とか、笑えねぇええええ!》


 半泣きで叫ぶ。ゴリラの頭ん中でクワンクワン反響。ダメージ倍増だ。


 「……なら、見えないようにするのはどうだろうか?」

 《なんですか幼女さん!?このフリルどうにかしてください!》


 もういっそ開き直ってしまおうか、ゆるキャラデビューを果たしてしまおうか、何て淀んだ考えが頭をかすめた、その時。

 幼女さんが難しい顔をして提案した。いやこれそんな難しい問題じゃないからね。いますぐこのゴリラの頭部を投げ捨てるだけの、恐ろしく簡単なお仕事だからね。


「いや、人は恥ずかしいことをするとき自分の姿を見ることで余計恥ずかしくなる傾向がある」

《……はぁ》


フリル片手に何語り出したこいつ。何もっともらしく話してんだよ。てめぇが今頭悩ませて考えてるのはゴリラの着ぐるみでどうやって羞恥心を感じずに済むかと言うクソくだらねぇ問題何だよ。「あなたの鼻の穴に親指は入りますか」ってぐらいどうでもいい問題何だよ。


しかし、幼女さんは尚も話し続ける。


「また、他人の目を意識することで余計恥ずかしくなることもある。……そこから考えると、目を塞げば恥ずかしくないという理論が完成するのだ!」


無言。誇らしげな顔が、美人さんの顔とダブった。嫌な予感しかしない。


 《…………理論上はあってますけど!完っ璧ですけど!さすが学院長ですね!》

「ふふ、ありがとうアーリ」

 《でも!でもっ!大切な常識が欠けてるんだよこのマッドキューティテイスト!》

「キュッ……!?」「ぶふっ」


 幼女さんが目を丸くしなぜか頬を赤らめる。美人さんは面白そうに吹き出した。

 

《考えてみろよ!露出狂が『恥ずかしいから……』とか言って全裸で目だけ塞いでるところを!余計恥ずかしいだろが!!目を塞ぐな!他を塞げ!お前の目の下にぶら下がってるもんが一番恥ずかしいんだよおおおお!》

「え?でも着ぐるみは露出0よ?」

 《それが余計ダメだよね!0も100もどっちもダメだよね!全部ちょうどいいのが一番何だよ!虹のふもとの青い鳥を人がなかなか気がつけないのはちょうどいいから何ですよ!ちょうど良すぎて目立たないんだよ!目立たねェところにあるのが一番幸せなんだよ!それが一番満たされてるんだよおおおおおおお!》


 ゴリラの着ぐるみのせいで完全におかしくなってる俺。なんか口走り始めた。やばい、これはやばい。






「まぁまぁ、一回見えなくなってみようじゃないか」


 





 そんな俺に、にこやかに。


 幼女さんもといマッドキューティーテイストが笑う。


 その恋する悪魔おとめのような笑顔の先に、「あいあむゴリラ!」と書かれたアイマスクが見えた─────。


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