間違った座談会
「まぁ、今回はこれで許してや……」
《よっしゃあぁあ!》
「ぃやったぁああ!」
阿鼻叫喚、物がめっちゃくちゃに散乱した部屋。そこで美人さんとハイタッチする。ぅえーい何てノリじゃない、気分は戦を共に乗り越えた戦友だ。心の友よ!
「ちょっ……貴様ら!喜びすぎだ!」
怒る幼女に謝り倒して30分。
正座と幼女さんとの戦いにやっと勝てた。いや、正座には負けた。足、いたい……痺れた……。
「あ゛ぁー、やっと休めるー」
《ふー……疲れたー》
とりあえず光の速さでソファに移動し、バフっと腰を下ろす。体が重い……動かない……
「くつろぐな反省の色を見せろ紅茶を飲みだすな!もう何なんだああああ!」
「本日はすみませんでしたぁー」
《すみませんでしたー》
一応、力尽きたまんまでだが、謝る。幼女さん……軽く涙目だったからなぁ。
それを見て美人さんが困ったように爆笑してた。器用すぎる。んで余計怒られてた。
「ロレッタ…………っ!」
「なにー?」
30点の謝罪を聞いた幼女さん、ぐっと眉を寄せる。般若10m手前ってところか。
肩をふるふる震わせて、ビシィッと美人さんを指さした。
「大ッ体お前は、どこに行ってたのだ!何がしたかったのだ!」
「……秘密は女を美しくするの……」
「時計投げるぞ」
「話すわ」
どうやら事の顛末を話しやがれ!ってことらしい。
しかし、そんな幼女さん相手に美人さんは、髪を払っていい笑顔でかっこつけた。この後に及んで秘密にするのか、ただ単におちょくってるだけなのか……どっちだろう。
……でも、そろそろまずいぜ美人さん。
幼女さんの目が座りだしたぞ。そして手には重たそうな目覚まし時計!
心なしか黒いオーラがにじみ出てる……気がする。オォオォオオオオオオ……みたいなBGMが流れてる……気がする。幼女から。
その目のマジさに美人さんがキリッとした顔でうなずいた。うん、だよなぁ。
「えっとー、今日は、まぁアーリとショッピングして」
「なるほどなるほど」
「そしたら私の大っ嫌いな奴が現れて」
「……シェース、か」
「ゴキブリって言って。……まぁ、そのあと、不愉快だから幼女ん家でお茶でもしよっかなって……」
「お前のことゴキブリって呼ぶぞ」
「……ルグレん家でお茶でもしよっかなって思いまして……」
「よし」
「そしたら、アーリの生活用品買い忘れてたことに気がついたの!」
「……?」
幼女さんが、眉間にしわを寄せて首を傾げた。俺も無言で首をかしげる。
「でもアーリなんか疲れてたから」
気づいてたんかい!ならもうちょっと止まってくれよ!なんか切ない。
幼女さんは真顔で頷いている。
「取りあえずルグレの家に預けてから買おうかなぁって思ったの」
「まぁ、お主にしては相手に配慮したと思うが……」
「でもやたらこの館ヒッロイから回り込むのがめんどくさくなって」
「……」《……》
ごくり、と二人で唾を飲み込んだ。
「取りあえず窓にアーリをぶん投げてみたわ」
「お前の頭がおかしいことは十分わかった」
《こんなの知りたくなかった!》
顔を手で覆って虚しく叫んだ俺の頭を、悲しそうな顔の幼女さんが撫でる。ああああ……
「ま、これでいいでしょ?」
「いいわけあるかい!」
指で丸を作る美人さんに、幼女さんが投げた!
空を飛ぶ時計。美人さんへと向かう━━━━のを軽々キャッチ。
美人さんが時計を弄びつつ、なんで?みたいに眉間にしわを寄せて抗議した。
「えー……?十分配慮したと思うけどなぁ」
「本ッ気でそう思ってるからタチが悪い……!」
悔しそうに机を叩く幼女さん。
そのまま背もたれに寄っ掛かり、反省しろ!と拗ねたように叫んだ。
「はーい、以後気をつけまぁーす」
「む、うむ……なら、いいが」
「あ、何買ってきたか、見るー?」
「本当に反省してるんだよな!?」
軽いノリで話を変えた美人さん。すごい。
自由だなぁ、とか思いながら未だにソファで潰れる。どうでもいいけどすごいこれ、ふっかふっかしてる。ふかふかー。
「例のブツ、買ってきやしたぜ?」
「!?」
美人さんが幼女さんに、悪どい顔で何やら耳打ちした。驚く幼女さん。何あの怪しい二人組。
「じゃーん、ラブリンシリーズプレミア品、フリフリワンピローズロード色!!」
「わああああああ!?広げるな!!」
突然。
バッ!と、そんな音を立ててバラの形をした買い物袋から美人さんが何かを取り出した。
綺麗なその手でワンピースを容赦なく広げ、花の香りと可憐なフリルが宙を舞う。
「アーリ!見るな!見るんじゃない!」
大慌てで美人さんの前に躍り出る幼女さん、小さな体で必死にワンピースを覆う。
そして、真っ赤な顔でこちらを見て─────
《み、見てません!見ません!》
「ちょっ……しまえ!いますぐ!しまえええええええええ!」
裸を見てしまったみたいな台詞で顔を背ける、全てを察した俺。
しかし、美人さんに血も涙もなかった。わっるい顔してワンピースをピラピラっと振る。
しかも、幼女さんの背的に届かない高さでだ。ひどい。
必死に掴もうとぴょんぴょん幼女さんがジャンプするが、おちょくり続ける。こいつ全然反省してない!
「ふっふっふ〜」
「ロレッタ、貴様!貴様っ……!」
《……》
歴戦の闘牛士の如くワンピースをフリフリする美人さんと、牛扱いされた可哀想な幼女さん。
…………を、今、のんびり紅茶を飲みながら見ている。気分はスペイン。
「なぜアーリはのんびり茶を味わってるんだ!老婆か貴様!」
《頑張ってくださいのぅ》
「なんて適当な語尾!?って待て!ロレッタ!返せ!」
「ウッフッフ〜散々正座させた罰よ〜」
「お前本当は全然反省してないな!?」
説教で疲れたので、少しまったりすることにした。
のんびりと二人を見ていると幼女さんに何か言われたが、ま、いっか。
それにしても、わーわーと騒ぐ二人は可愛らしく見える。近所の子供たちを彷彿とさせる騒ぎっぷりだ。
美人さんが悪魔のような顔してるのから目をそらせば、癒される光景と言えるだろう。
幼女さんが涙目で頑張っているのを、のほほんと眺めていると美人さんがこっち見た。
「ねーアーリー、なんか苦手なもの、ないのー?」
《苦手なもの……ですか?》
やばい、矛先がこっちに来た。しまった悪魔に狙われた。
幼女さんがよっしゃぁ!みたいな顔したのが物凄く痛々しい。
《そうですね……虫が苦手ですか、ね》
「えぇ!?アーリに虫柄の寝間着買ってきちゃた!」
《なんですかその奇跡のセレクト!?》
「あっ、そういえば買ってきたもの見せてなかったわね〜」
突如告げられた衝撃の事実。いや虫柄の寝間着って。
悪夢見そうだ……つかなんで売ってたんだ……そして何よりなんでそれを選んだんだ……!?
衝撃に打ち震えていると、美人さんがガサゴソと買い物袋をあさりだした。




