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幼女の館

店から出ても、美人さんは暫く走り続けた。主に路地裏を。


どこへ行くかも道もわからねぇから、仕方なく追い続ける……が、路地裏は複雑でとても追いにくく……。

それでも必死に追い続けたら、死にかけたあたりでやっと路地裏の行き止まりで止まってくれた。


《やっと、止まった……》


膝から崩れ落ちた。暗い路地裏の埃まみれの地面で必死に深呼吸する。酸素が足りない!

カビ臭い湿った空気が鼻に刺さった……が、気にしない。


《び、美人さん……疲れた》

「そりゃあんなに走ればねぇ」

《走らないと私迷うじゃないですか!》


涙目で文句を言うと、実にあっけらかんとした答えが返って来た。思わず叫ぶ。

情けない叫びはグワングワン路地裏に反響した。ますます情けないぜ!


《全く、うぅ……ここ、どこですか》

「ルグレの家の裏ーぁ」

《るぐれ……?あぁ、幼女さんですか……》

「学園の手配は済んだかなぁって聞きに来たの!もちろん、アーリの学園準備もするわよ?」

《いいですよ……もう……疲れた……》


ゼエゼエと肩で息しつつ返答する。準備とかいいからもう休みたい!


「じゃあ、楽な入り方しましょうか」


しかし、そんな酸素不足の声など聞こえないように、美人さんは笑う。


「じゃ……行くわよーっ!」

《え!?っちょ、うわっ!?》


……そして、突然襟首を掴み、持ち上げた!?

驚愕する脳を、あ、これ投げ込まれるやつだ……とどこか慣れた考えが掠める。慣れちゃったよちくしょう!


予想的中。美人さんが俺をバスケのボールのように、頭上の窓に投げ入れた!


《うわあああああ!》

「シューット!」


正確に窓に飛び込み、その部屋の柔らかなカーペットをスライディング……の後、壁に勢いよく頭を打つ。


ごちっ


「な!?」

《あうっ》


カーッペトのお陰で痛みは微塵もなかったが、うつ伏せのまま動く気力が出ない程度にはダメージ受けてる。

……幼女さんの家ってことは……ここは、幼女さんの部屋、か?


《い、痛ぁ……》

「お、お主……アーリか!?な、何がどうしてどうなった!?」

《びっ……ロレッタさんです!》

「全て理解した!」


上から幼女さんの声が降ってきたため、一番通じそうな返答をし……見事なぐらい通じた。

美人さんにひどい目にあわされたもの同士、ガッと手をつなぐ。今多分被害同盟が設立した!


「だ、大丈夫か……?」

《え、エェ……あ、あれ?ここよう……ルグレさんの部屋ですか?》


そのまま持ち上げてもらい、正座して一息つきつつ質問。キョロキョロ辺りを見回すと、そこはシックな書斎だった。……あれ!?フリルとかが欠片もない?なんでここだけ……


「あぁ、我の書斎だ。ここで学園の経営をしている」

《へ、へぇえ》


まさかフリルがなくてびっくりです、とも言えず曖昧に頷く。

怪我はないか?と心配してくれる幼女さんの優しさが心に沁みた。


「そうだ、まだ茶を出して無かったな……おい、茶を二人分!」


幼女さんが突然パンパン、と手を叩いた。なんだろう?

10秒ほど経った瞬間、ドアがノックされ、「お茶をお持ちしました」という声が!うむ、と幼女さんが鷹揚に頷くと、重厚なドアが開いた。


カラカラカラカラ……


「失礼いたします」

《うわわわわわわわ……》


何と、メイドさんが、お茶の乗ったワゴンテーブルを引いて入って来た!早い美しい格好いい!


「紅茶でいいか?」

《は、はい……》


びっくりしてぎこちなく声を出す。渋い声に見向きもせずにメイドさんは去っていった。

学園長すげぇ。いや、幼女さんすげぇ。もしもしかしてここ相当立派な建物なんじゃなかろうか?


《す、すごいですね……ルグレさん……》


広い書斎の中にある洒落た机で二人お茶を飲む。感心して呟いた言葉に、幼女さんは得意げに微笑んだ。


「ふふん、まぁ大人だからな♪」

《さすが43歳です!》

「わははははは!」


嬉しそうに笑い、これもどうだ?とお菓子を進めてくれる。なにこのいい人。

もしかして、ほとんど熱弁しか聞いてなかったせいで印象がおかしくなっただけなのか……?


トントン


「ルグレさま」

「ん?なんだ?」


印象が変わった幼女さんと、のほほん心安らぐ時を過ごしていると、突然ノックの音が響いた。

幼女さんが返答すると、「お客様がいらっしゃいました」とメイドさん。

幼女さんが誰だ?と訝しむ。どうしよう、おいとまするか?

……それにしても、美人さんはどこだ?俺はどこに行けば……


「あと、『やっほー美人さんだよっ★』という伝言を預かっております」

《びじっ……ロレッタさん!?》

「はぁ!?ロレッタか!?何しているんだあいつは!」


ガッターン!と思わず立ち上がった。幼女さんも然り。しかもこの人机叩いたよ。

美人さんが客か!?あの人ついに自分で名乗ったんだな……。

なぜ俺を投げ入れたくせに玄関から堂々と入ってるんだろう。


「と、とりあえずここに呼べ!」

「承知致しました」


狼狽える幼女さんへ、一礼するメイドさん。優雅に去っていった。


「ろ、ロレッタ……あやつは何を考えてるのだ?」

《私のような愚民には計り知れません》

「我もだ……ところで美人さん、がロレッタだとなんでわかったんだ?」


不思議な空気の中、幼女さんと気をとりなおすように机に座る。

我はそっちも計り知れん、と幼女さんが聞いた。ごめんなさい、いや、そりゃあ……


《私が呼んでますから》

「美人さんと!?あいつを褒めてどうする!」

《はは……つい、出来心でした》

「全く……あやつを褒めてもろくなことにならんぞ」

《ははは、はは……》


後悔にさいなまれつつ曖昧に返答する。突然、幼女さんが恥ずかしそうに変なことを言い出した。


「……美人さん……羨ましいんだが」

《え!?》

「……我にもあだ名、つけてみないか?」

《え、えぇ……?》


あだ名をつけろ、と。予想外の反応につい本当のことを言いそうになる。


《じゃ、じゃあよう……っ、いやびよ……違った、美女さん!》

「おぉ!どういうところを見て?」


慌てて口ごもりつつ美女さん、と言う、と幼女さんはぱあっと嬉しそうな顔になった。

かわいいけど、子供っぽい。しかもどういうところって……褒めたかっただけです、とは言えんしなぁ。


「こう、大人っぽい銀髪とか」

「ほう!」

「大人っぽい言動とか」

「ふんふん」


口からでまかせを量産する。とりあえず褒めて褒めて褒めることにした。

頼む、怪しまないでくれ……!


「なんかこう、全体的に大人っぽいです!」

「ふっはっは〜!だろうだろう!」

「老けて見られて喜ぶのはガキだけよ!」


「えっ」《えっ》


幼女さんが鼻高々に威張った時、ばあん!と勢い良くドアが開いた。時が止まる。




…………いきなりですね美人さん!?


「ロレッタぁ!きたまやっと来たと思えば……っ、それはどうい」

「お邪魔しまーす!あ、これ手土産ね♪」

「質問に答えろ!……手土産!?お主どこまで行ってきた!」

「わぁ!この紅茶美味しい!どこの?」

「勝手に入るな勝手にくつろぐな勝手に我の紅茶を飲むなあああ!」

「あ、さっきあだ名でアーリあだ名つける時さ」


フルフルと肩を震わせ怒ろうとする幼女さんを歴戦の闘牛士の如くさらりとかわす美人さん。

その手には大量の買い物袋が……って、美人さん!?何をしてきた、いや、何を言う気っ……!?


「幼女さんって言おうとしてたよ!」

《なんでわかっ!?……あ》


慌てて、本音が口から滑り落ち……。時はすでに遅い。俺は自らトドメのボタンを押したようだ。


「アーリ」

《……はい》

「ロレッタ」

「んー?」

「……だ」

《えっと?》

「正座だ」

「えっ」

「正座しろ馬鹿者!そこに直れえいいい!」


はい自爆!後悔先に立たずというわけで……お説教はしばらく、いや、俺が止めるまでずっと続いていたのだった。なんとなく幼女さんが熱弁を振るうようになったわけが分かった気がした。


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