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ラキウス商店街

「さて、ラキウス商店街にやってまいりましたー!」


ぷるぷると青い顔をしてうずくまる俺の横。よく通る声で、美人さんが拳を空に築き上げ、笑った。


きらきらと陽に照らされて輝く美人さん…その輝いた顔はその自由さをより活き活きと引き立てていた。

そんな美人さんの横で俺はと言うと、どんよりと頭の上に暗雲を立ち込めさせ、ぜーぜー肩で息をし、上目遣いでその輝かしい美人さんをぎろり…と睨んでいた。明暗が凄い。


…ただ。


ただ、心配させたく無いだけだった。

優しい美人さんの暖かい優しさに触れて、一生懸命気を使った。こんないい人に不快な気持ちなんて与えたくなかったから。でも、でも!



《それで窓から飛び降りるとか、どうなってるんですかロレッタさんッ!!》

「きゃっほーい!」



…たった今起きたばかりの俺相手に果てしなくスパルタ、それが美人さん。


えっと、俺が《はい!》と返事をしたその後。


美人さんが嬉しそうに笑い、俺の左腕をがしっと掴んだ。

きょとんとする俺。美人さんは、そんな俺を引っ張って窓に近づき、かちゃかちゃっと鍵を外し。


そして、そのまま、窓枠を飛び越えーーー飛び降りた。


もう一度言う。窓から、飛び降りた。それもものすごく高いビルから。

なにこの超展開。飛び降りんなよ。ビルから人間が。なめてんのか重力とかその他もろもろの物理学。


引っ張られる腕の衝撃に飲まれて俺も窓から外へ…


不快な気持ちなんて与えたくないという純粋なキラキラしい感情からはい!って言ったのに。

それで窓から飛び降りる羽目になるとは。鬼か。



《うわーーぁあぁああああっ!!》

「なにようるさいわねぇ」


落下のパニックで涙を流しつつ叫ぶ俺。下から吹き上がる風にばらばらのなっがい髪が舞い、体に絡まって前が見えない!

美人さんは……そんな俺の腕を無造作に掴み、リズミカルにレンガの壁を蹴りうまく調節し落ちてゆく。

……何と言うか、手馴れていた。何この人。


そうこうしているうちに、永遠のように長い落下時間…魔の3分(体感時間)が終わり、今に至るわけだ。


馬鹿か。

……いや、美人さんにも美人さんなりの考えがあったのだろう。二日ぐらいの短い時間でとても優しく、素晴らしい人だと分かるほど美人さんはいい人だ。

……敢えて、其れを踏まえて言わせてもらおう。


いや、馬鹿か。新手のイジメか。取り敢えず窓から飛び降りる以外の選択肢があっただろう!

見ろよ!この涙の跡!泣いてたんだぞ俺!怖かった!リアルに怖かった!フツーに死ぬかと思った!

……いや、俺生きてんのか今わかんねぇけど!でも、でもっ……!!


《ロゼッタさん…っ》

「わぁ、空が綺麗ねー」


万感のそんな思いを込めて睨み上げるが、美人さんはどこ吹く風。…爽やかにスルーされた。


《あの、窓から飛び降りるって、いやそもそもなんでそんな選択肢が…》

「あはは、あの時アーリ蓑虫みたいに髪の毛絡まってたわねー」

《話聞いてるのに意思の疎通ができてない!!》


辛くように悪戯っぽく笑う美人さんの笑顔…あれ、なんだこのデジャブ。

なんかさっきもこの顔幼女さんに向けてたよね美人さん。


《あの、せめて飛び降りるなら一言言ってからに……っ》


スル−にスルーを重ねられ、俺の要求は小さく成っていった。


「ま、いいか。」

《取り敢えず、いいかどうかを決めるのは私だと思います!!》

「ここはね、ラキウス商店街よ!」

《…っ!!、……、…!…へぇ、商店街!》


俺の中での様々な葛藤を飲み干して、ひとまず案内してくれる善意を尊重すべきだと世界全俺会議が結論を出した。どこまでもチキン。それでこそ俺!


「ラキウス商店街っていうのはー…うーんどこから説明しましょう?」

《…?ただの商店街ではないんですか?》

「うーん…商店街は他にあるのよねぇ…えっと、この商店街は貴族…とか、学生用って言えばわかりやすい?」

《え…はい。》


何やら難しそうな顔をして美人さんがこっちに問いかけた。…ころころとよく表情が変わる人だなぁ。

とりあえず頷くとともに、改めて周りの様子を見渡して見る。


…えっと、商店街!といえば賑やかで庶民的な風景を思い浮かべるが、ここはそんなことはなかった。

どっちかっていうと…イギリスの街並みたいだ。レンガ造りで、なんか…うん、おしゃれ。

ドレスや上品な学校の制服を着ている人もいるし、うん、物語…ラノベの中に入った感が凄い。

…すぐ真隣に尋常じゃないほど高い建物が建ってるんだが。あっ、宿屋って書いてある…っ!

うへぁ…あそこから飛び降りたのか俺…へぇ…


「ふふ、綺麗でしょ?商店街っぽくないわよね?」

《…あっ、はい!もっと庶民的かと思ってました。》

「庶民的な商店街は他にあるのよ♪今度行きましょ!あのね、この商店街は、上流用なの!」

《上流用?》


聞いた事のない言葉に首をかしげると、美人さんが詳しく説明してくれた。

…うーん、てっとり早く纏めると、ここは上流用…つまり、主に貴族とか学生とか用の商店街なんだと。

別に庶民が使っちゃいけないってわけじゃないが、庶民の必要なものは置いてないらしい。

主に上流の必要なものとかが売っているそうだ。

「ほら、貴族と冒険者を一緒にすると喧嘩が起きまくるじゃない?」というのが美人さん談。

えっと、主に上品なワンピースやドレス、装飾品に食器類、学園生活に必要なもの…例えば上履き、食器、制服、学術書、教科書などが売っているらしい。


ま、とりあえず案内案内!と俺の手を取り。そして、ずんずん美人さんはドレスと制服の人混みの中をかき分けて進んでいった。







《…そういえば、今俺の格好寝巻きなんですけど…ロゼッタさん?いいのこれ?上流とか言ってませんでした?冒険者より寝巻きの方がタチ悪くないですかちょっとロゼッタさん?あの、着替えさせて!いや止まって!止まってって!ロゼッタさんどこ行くのろぜっ…美人さんッ!》



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