天使さん、光臨☆
「ハアイ!」
突然投げかけられた、良く通る少女の声でふっと目が覚めた。未だ寝ぼける頭でぼんやりと考える。
なんで、俺の、上に、女の子が居るんだ?
パッチリした目。ニッと上がった口角。薄い黄色の髪の毛と瞳。
うっすら黄色の唇が小鳥、と言う単語を思い浮かべさせる。
大きな目と印象的な、笑った顔がよく似合う少女だ。
顔が可愛いのでキュートさんと命名しよう…ぐぅ…
「キュートさんかぁ、いいねそれ☆でもでもそこ、ねなーい!」
高めの、小鳥のさえずる様な声が、顔の上から降って来た。
眠いんふぁああ…だから。しずかにおねがいひまふぅ…
「んー…目を覚ましてぎゃーぎゃー騒がれるのも嫌なのよねー」
「どうしよっかなー」
なんだか悩んだような声。
んでしばらく静かになって、その後ばっしゃーんと水が降って来やがった。
「うえっぷ、げほ、げえええっほ!」
慌てて飛び起きる。自分が横になっていた事をその時始めて気が付いた。
今のですっかり目が覚めて、頭も冴えてきた。
「俺なんでこんなところにッ!?」
「美人サーン!びぃじぃんさーん!」
不安と混乱で叫んでいると、キュートさんの笑みが突然意地悪くなった。
「う☆る☆さ☆い」
ばっしゃーんとまたもや水が降って来やがった。着ていた服がビッチャリと肌に張り付いて気持ち悪ぃ。
「何すんだ!」
隣で正座している、女子に顔を向け…え。
こ、ここここの女羽が生えてやがる!
ワンピースのような形状の服を纏っているにもかかわらず、背中の横から時折ばさばさと揺れる白い羽が覗いている。
「羽だけじゃないんだなー♡」
ぴょこんと、勢い良く頭の上に金の輪っかが出た。
「天使ちゃんなんだよ☆」
すちゃっ。
突然ピースサインを横向きで目に掲げ、こっちに向かってウインクぱちり。
しばし、呆然。
あぁ、このテンションなんか見覚えがある気がするぜ…なんだっけ?
思い出せねぇ…ん?
「改めて紹介しとくね!私の名前はジュエッカ!天使歴七百七十六年の中堅天使さまでーす☆」
お、おう…?
「キュートさんもいいけど、天使さんって呼ぶよーに!」
…
「趣味は文を描く事!旅のお供、ろぼろぼ取扱説明書を作ったのもジュエッカ様だよーん☆」
……え。
あ!あのテンションか!
謎の取扱説明書!
「あれお前だったのか!」
「お前ちゃうわ☆天使さんでーす!」
キュートさんあらため天使さんが、ぴっと人差し指を立て、勢い良く下にずらした。
突然、バッシャーンと水が降る。
「んぎゃっ」
服からしたたる水が、真っ黄色の空間の、プラスチックの用な陶器のようなな床に水たまりを作り出す。
「えへへ、すっきりした?」
にこっと首を傾げて笑うキュートさん。
「…はい」
何処からともなく水が降って来て、ありえない体験をして。
それなのに俺の頭はいつも異常に冴え渡っていやがった。
「んふふ、でしょーね!天使ちゃん特製冷静になる水が入ってるからね!」
得意げに鼻息を荒くし、キュートさんが言う。
「三つも食らえばそりゃあ冷静に成るでしょうよ☆」
どうやら、水をかけたのは善意だったっぽい。
さすが冷静になる薬。自然に口からさらさらと質問が出て来だす。
「三つ質問をします。いいですか?
此処は何処ですか?
貴方はどのような目的で私を連れ出したのですか?
私は、死んだのですか?」
「そうそうそれそれ!それだよ!」
なぜか嬉しそうに両手をたたき出す天使さん。
にこにこと破顔をしてやがる。
こっちは混乱してるっていうのにな!
「私が言いたかったのは、まさにそれなのよ!」
「何ですか?」
「いいこと?ここは、私の作り出した超次元空間!中堅天使になると作れるようになるのよ☆」
そんな中堅OLみたいな。
「すごいですね」
「でしょっ?」
にこっと笑う天使さん。くっそ、可愛い…
「ありがと。あ、わたしが貴女を呼び出した理由はねーーー教えてあげたい事が会ったから。」
「はい?」
急に真顔になった天使さん。周りの空気がシリアスになった気がする。
「いいこと?今すぐに自分の昔を調べなさい!」
「なぜでしょうか。」
天使さんは、言い返された事に少しビックリしたようだ。
天使さんの予想以上に俺は冷静になったらしい。
少し息を詰まらせてから、言いにくそうに視線を逸らし呟いた。
「貴女が助かる方法はそれしかないのよ。」
「は?」
「だーかーら!幾ら逃げても逃げられないから頑張りなさいっていってるの!またね!」
………聞かれたくない事だったみてぇだ。
叫ぶように答え、かき消すように勢い良く上げた手を思いっきり下に振り下げて。
ーーーーーーープツン
テレビの電源が切られたように、意識もそこで途切れた。
謎の取扱説明書は第三部分、「発光体との出会い」参照です!




